100万Gを目指して!
まさかこんな形でクリアするとは思っていなかったが、優斗は防具を新調した。
ならばクエストをクリアしたはずだと、スキルボードを取り出す。
>>レベル28→29
>>スキルポイント:5→10
「よしっ、やっぱりクリアしてたか」
他人がお金を払った場合、クリア不可だったらどうしようなどと考えたが、幸い杞憂に終わった。
ボードに指を滑らせインベントリの確認を行う。
「剣のクエストをクリアしたときは、鞘が手に入ったから、今回も多分なにかあるはず……っと、おっ、あったあった」
予想通り、クリア報酬がインベントリに収納されていた。
その報酬に触れ、名前を表示する。
「んん? 『黒鉄糸ウェア』……?」
表示された名前に、優斗は首を傾げた。
素材である黒鉄については、優斗も知っている。
黒鉄はDランクからCランクにかけての冒険者が愛用することの多い、安価で強靱な金属だ。
その金属を繊維状にして、ウェアにしててあげられているのだ。
優斗はインベントリを操作して、黒鉄糸ウェアを取り出した。
「おお……ほんとに、黒鉄なんだ」
現われたのは、黒いウェアだった。
手触りがかなり硬質だ。黒鉄だろうことがわかる。
だが、力を込めると通常の衣類と同じように、簡単に歪む。
黒鉄糸ウェアは鉄を素材にしながら、衣類の柔軟性を持った、非常にユニークなウェアである。
「これなら、コートの下に着用出来るな。素材が黒鉄だから、防刃効果も期待出来そうだ」
早速優斗はコートの下に、黒鉄糸ウェアを着用する。
着心地は、悪くない。
黒鉄を用いられていることもあって、ややずっしりとしているが、動きを阻害するほどではない。
逆に、その重みに、命を守ってくれるだろう信頼を感じる。
「……よしっ」
準備が整った。
優斗は試着室を出て、仲間の二人と合流するのだった。
「それじゃあ、準備はいい?」
優斗はエリスとダナンに確認する。
プルートスを出た優斗らは、まっすぐ神殿にある生成の間へと向かった。
これからDランクのインスタンスダンジョンに挑む。
Dランクのダンジョンは、クリア確定報酬がおおよそ5万ガルドになる。
百万ガルドにはほど遠いが、千里の道も一歩から。
どんな形であれ、歩み出さなければ、目的地へは近づかないのだ。
「大丈夫、です」
「ああ、問題ないぜ」
二人の合図を受け、優斗は手にしたキーを扉に差し込んだ。
ギギ、と音を立てて扉が開かれる。
その扉に向けて、優斗が飛び込んだ。
続けてダナンが、少し遅れてエリスもダンジョンに突入した。
「今回は……、火タイプのダンジョンだね」
優斗は赤色のダンジョン壁を見て、そう呟いた。
Dランクからは、ダンジョンが属性を持つようになる。
以前、優斗がクリアしたCランクのインスタンスダンジョンは、土タイプだった。
土タイプでは主に、耐久力の高い魔物が出没した。
今回は火――火魔術を用いる魔物が現われるダンジョンとなる。
「たしか、通常の魔物はブラックハウンドだったかな?」
「ああ、そうだぜ」
「なら大丈夫そうですね」
「だからって油断はすんなよ」
「はい。ありがとうございます」
ダナンの忠告を素直に受け取る。
冒険者にとって、油断や慢心は致命的な結果に繋がる。
優斗は再度、気持ちを引き締め直すのだった。
「――しっ!!」
インスタンスダンジョン、最後のボスを切り倒し、優斗らはダンジョンの攻略に成功した。
「みんな、お疲れ様」
「ああ、お疲れ」
「お疲れ様、です」
道中は、ベースダンジョン11階の焼き直しになった。
変化したことは、優斗が炎のブレス攻撃を食らっても、ダメージどころか暖かささえ感じなくなったことくらいだ。
新しい防具が、優斗の身を守ってくれている。
高い防具って凄いんだなぁと、優斗は感心するのだった。
ドロップした素材を集め、優斗らは神殿に戻る。
一度休憩を入れている間に、優斗はクリア報酬のチェックを行った。
「たしか、Eランクのダンジョンを攻略したときは、ミスリルが手に入ったんだっけ……」
しかし、あれは緊急クエストだった。
今回は通常のクエストであるため、そこまでの品物は期待出来ない。
スキルボードを取り出し、ステータスを確認。
>>スキルポイント:10→11
難易度がそこまで高くなかったためか、レベルは上昇しなかった。スキルポイントも1アップと低調である。
「僕はもうCランクだし、あまり上がらないのも仕方ないか……」
クエスト一覧を表示し、優斗は『Dランクのインスタンスダンジョンを攻略せよ』が消えているのを確認する。
それと同時に、新たに『Cランクのインスタンスダンジョンを攻略せよ』が出現しているのを発見した。
続いてインベントリを表示した優斗は、クエスト報酬を見て拳を握った。
「インスタCの鍵だ……よしっ! Cランクのクエストにチャレンジ出来る!」
Cランクの鍵だけでも、10万ガルド相当だ。
Dランクのダンジョンで手に入れたアイテムを換金すれば、ほぼ15万ガルドが手に入る計算になる。
優斗にとっては、かなりの大金だ。
けれど、まだまだ百万ガルドには遠い。
「この調子だと、Cランクのダンジョンをクリアすれば、Bランクの鍵が手に入るのかな? Bランクの鍵は、売れば25万ガルドくらいになるから、15万ガルドと鍵を販売したお金で、40万ガルドか……」
それでもまだ、ゴールは遠い。
しかし優斗はさして落胆していない。
何故なら今日1日で、もしかしたら40万ガルドが手に入るかもしれないのだから。
これまでの優斗では、考えられないほど高額の日当だ。
また(決して単純計算出来るものではないが)2,5日活動すれば手が届く。
そう考えると、百万ガルドが目前のように思えてきた。
すべては、タクムを救うために。
それを考えると、胸の中から力がこみ上げてきた。
「よしっ、頑張ろう!!」
気合を入れ直し、優斗はCランクのインスタンスダンジョンに備えるのだった。
7月2日に拙作「劣等人の魔剣使い」が講談社様のKラノベブックスより発売されます。
イラストは「かやはら」様。本当に素晴らしいイラストを描いて頂きました。
是非ご購入をお願いいたします。
また6月25日より、スマホアプリ「マガポケ」にて、劣等人の魔剣使いのコミカライズがスタートいたします。
こちらも合せて、宜しくお願いいたします。