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ガルドを貯めろ!

 臨時メンバーとしてユートのパーティに入って二日目。

 ダナンは浮かれるような足取りで神殿前広場へと向かっていた。


 ユートのパーティは、驚くほど金払いが良かった。

 初め、ダナンが勧誘された時に『報酬は頭割り』という話は聞いていた。

 だがそれはクロノス中を探してもない、好条件である。


 冒険者たちが集まって結成した『クラン』ならば、そういう条件もあるのだろう。

 だが、ダナンはクランに入れるほどランクが高いわけでも、知名度があるわけでも、仲間がいるわけでもなかった。


 だからユートが出した条件は、ダナンにとって絶好と言えるものだった。

 それだけに、逆に疑っていた。


『本当は頭割りなんてしないんじゃないか』と……。


 しかし、実際に報酬を受け取る際、ユートはきっちり報酬総額を3等分にした。

 その分配には、ギルドも間に入っていた。

(具体的には報酬の計算を手伝って貰っただけだが……)


 一度のパーティ参加で、5100ガルドも手に入れたのは、ダナンにとって初めての経験だった。


 この調子でユートのパーティに参加し続けられたなら、そう遠くない未来に百万ガルドに手が届く。


(そうしたら、タクムを助けてやれる!)


 ダナンが神殿前広場に到着すると、既にユートが待機していた。

 ユートに近づき、ダナンは手を上げる。


「おうユート。今日もヨロシ――」

「ダナンさんッ!!」

「クゥ――!?」


 ユートが恐るべき速度で近づき、ダナンの肩を掴んだ。

 彼の目は赤い。


(まさか、なにか問題が発生したのか?)


 パーティが続けられなくなる不安に、ダナンの背筋が凍り付いた。

 そんな不安は、


「聞きましたよ、ダナンさん」

「んん?」

「僕……僕……感動しました!!」

「…………はいぃ?」


 ユートの目から、ダバーッと涙があふれ出した。

 号泣とも言って良いほどの涙を流すユートの姿に、一気に砕け散ったのだった。


「感動って、ちょっと待て。何がどうしたんだよ?」

「タクム君のことです! タクム君の病気を治すために、お金を貯めてるんですよね?」


 その台詞を聞いたダナンは、内心舌打ちをした。


 ダナンはタクムの話を、ユートには一切伝えていない。

 しかしユートは、タクムの病気について知っていた。


「エリスの奴から聞いたのか」


 ダナンはすぐに、ユートに情報を漏らした奴の見当がついた。


 ダナンは以前、下町の聖女として噂になっていたエリスに一度、タクムの病気を診て貰ったことがあった。


 彼女にヒールをしてもらえば、もしかしたらタクムが治るんじゃないか。

 そう思っていたが、結果はヒールさえしてもらえなかった。


 それはタクムの病気が、魔力病だったためだ。

 魔力を使用して傷を癒やすヒールは、魔力病を悪化させる可能性があるのだ。


 その一件で、タクムの病状はエリスの知るところとなった。


「どうして教えてくれなかったんですか!?」

「いや……だって、みっともないだろ……」


 ダナンがユートに事情を打ち明けられなかったのは、兄としてのプライドがあったからだ。


『タクムの治療費が欲しいので雇ってください』

 こんな、タクムを出汁に使うような台詞は、口が裂けても言えなかった。


 仲の良い相手なら良い。

 だが、ユートは昨日初めてパーティを組んだばかりだ。

 そんな相手に、同情を引くような真似が出来るほど、ダナンは落ちぶれてはいない。


 それでも、ユートに隠し事をしていたのは事実だ。

 僅かな背徳感が胸を差し、ダナンは顔を背けた。


 そのダナンの手を、ユートがぎゅっと握りしめた。


「そんなことないです! ダナンさんは、立派です!!」

「え、あっ、いや……」

「やりましょう、ダナンさん。一人じゃだめでも、僕らがいます。パーティみんなの力を合わせて、100万ガルドを貯めるんです!!」

「えぇえ……」


 気持ちよさそうに高らかに宣言したユートに、ダナンは呆然とした。

 そんなダナンの脳裡には一言、


『エリス、早く来い!』


 この言葉だけが浮かんでいたのだった。


          ○


「ユートさん、お・ち・つ・く・です!」


 少し遅れて合流したエリスに裾を引っ張られ、優斗はダナンからやっとその手を離した。


(少し、熱くなりすぎた……)


 優斗は反省する。

 しかし、熱くなるのも無理はない。


 優斗にもまた、血の繋がらない弟妹たちがいたからだ。


 優斗はかつて、孤児院で暮らしていた。

 優斗の下には食欲旺盛でやんちゃ盛りな弟妹たちがいた。


 優斗と弟妹たちは、血が繋がっていない。

 けれど優斗は彼ら彼女らを、実の弟妹のように思い接していた。


 8歳になった優斗は孤児院から出て行った。

 口減らしのためだ。


 孤児院は決して裕福ではなかった。

 毎日誰か彼かが、お腹を減らして泣いていた。

 後ろ盾のない孤児院では、沢山いる子ども達に十分な食事を与えることが出来なかったのだ。


 お腹をすかせた弟妹を見かねて、優斗は自ら進んで孤児院を出た。

 自分が食べる分の食事を、みんなが食べられると考えて。


 そんな経歴を歩んできたため、優斗はダナンの境遇に、強く感情移入してしまった。


 それに優斗はこうも考えていた。


『百万ガルド稼げというクエストは、このためにあったんじゃないか?』と……。


 優斗にとって、クエストはクリアしなければならないハードルである。

 もしそのハードルを超えた先で、ステータスアップだけでなく、ダナンの弟を救える未来があるのなら……。

 優斗は喜んでハードルに挑戦する。


「ということでエリス。僕もダナンさんの目標を手伝うことにしたから!」

「なにが『ということ』なのかわかりませんが、わかりました、です」

「おいっ!」


 エリスが了承したところで、ダナンが声を上げた。

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