対クラトス1
「テメェも剣を抜け」
「けど……」
「大丈夫だよ。オレを誰だと思ってやがる? Cランク如きにオレが傷付けられるはずがねぇだろアホか」
「……」
「それに――」
クラトスが軽く目を動かした。
視線の先には、固唾を飲んで見守るエリスの姿があった。
「な? 心配いらねぇだろ?」
彼は、『たとえ怪我をしてもエリスが治してくれるだろう?』と、目で訴えかけていた。
エリスの回復術を信用してるんだろ? とも……。
ここまで言われると、もう断れない。
優斗は意を決して刀の柄に手を当てる。
「準備は良いか? 良けりゃ抜け。それが合図だ」
クラトスの言葉を聞いて、優斗は一度深呼吸を行う。
(準備……)
深呼吸をすると、少しだけ頭がクリアになった。
その頭に、ふととある情報が思い浮かんだ。
(……もしかして)
気がつくと、すぐに優斗はスキルボードを取り出した。
スキルボードは他人からは確認出来ない。
そのため、この場で出しても存在がバレる心配はない。
優斗はなるべく自然体を装って、スキルボードを操作する。
すると、
(あっ、やっぱりだ!)
優斗はテミスの攻撃を、かなりの回数回避した。
そのことから、優斗は『攻撃を100回受けるor躱せ』がクリア出来ているのではないかと考えた?
確認したところ、優斗の想像は当たっていた。
クエスト一覧から『攻撃を100回受けるor躱せ』が消えている。
(クラトスさんと戦う前に、なにか一つでも上げておきたいな……)
クラトスはAランク冒険者だ。
推定レベルは56~70。平均スキルはレベル6である。
現在の優斗では、とても太刀打ち出来る相手ではない。
酷い目に遭わないためにも、優斗は少しでもスキルを上昇させておきたかった。
(スキルポイントが貯まっていればいいんだけど……)
優斗は祈るように、ステータス欄を表示した。
>>スキルポイント:0→3
>>回避Lv0 NEW
(回避スキル……クエストクリア特典か!)
優斗は攻撃を百回躱した。その特典として、回避スキルが出現していた。
(あれ、もしかして攻撃を百回受けたら、違うスキルが出現してたのかな?)
クエスト名が『攻撃を100回受けるor躱せ』だった。
今回優斗は攻撃を躱したが、もし受け続けた場合は違ったスキルが出現した可能性はある。
(――って、いまはそんなことを考えてる余裕はない!)
優斗は頭を振り、クエストクリアで手に入れたポイントをすべて、回避につぎ込んだ。
>>スキルポイント:3→0
>>回避Lv0→2
(これで少しは、マシになったかな?)
優斗はほんの僅かばかりの不安を払拭し、スキルボードを消し去った。
目の前では依然として、クラトスが黙って大剣を構え続けている。
優斗の準備が整うのを、ただひたすら待っているのだ。
彼の構えに、一切の乱れはない。
このまま何時間でも、この態勢が維持出来るのではと思えるほど、非常に安定している。
(これは……無理だな……)
クラトスの隙のなさに、優斗は苦笑した。
どこからどう斬り掛かっても、優斗の攻撃はクラトスに防がれる予感しかしなかった。
優斗は一度瞼を閉じて、脱力する。
頭の中から雑念を払っていく。
次第に耳が、余計な音を弾いていって、まったくの無が訪れた。
静かななか、優斗は一度大きく呼吸を吸い込んで、止めた。
集中力が、みるみる高まっていく。
一秒が、永遠のように引き延ばされる。
刀の柄に手を当てて、優斗は瞼を開いた。
次の瞬間――、
「しっ!!」
優斗はクラトスの目の前まで移動し、一閃した。
クラトスは言った。
『準備は良いか? 良けりゃ抜け。それが合図だ』
つまり、優斗が刀を抜くまで、始まらないということだ。
優斗がどれほど全力で近づいても、クラトスなら簡単に対応してしまうように思えた。
ならば、納刀状態で近づけばどうか?
優斗は、納刀状態でクラトスに接近。
懐に潜り込んだ状態で、クラトスに向かって全力で抜刀した。
しかし、
――ィィィイイン!!
優斗の攻撃は、クラトスにあっさり防がれた。
「てっめぇ……人を攻撃出来ねぇんじゃなかったのかよ!」
「クラトスさんなら、大丈夫だと思いまして」
テミスとクラトスは違う。
テミスの場合、優斗は相手に怪我を負わせてしまう未来が見えた。
しかしクラトスの前に立った優斗は、自分の攻撃が当たる未来を一切予感出来なかった。
クラトスに怪我を負わせることなど不可能だ。
そう確信出来るほど、クラトスの壁は厚い。
それがわかったからこそ、全力で打ち込んだ。
クラトスがいま優斗の前に立ちはだかっている理由が、優斗の全力攻撃を促すためのものだと感じたから……。
「太ぇ野郎だな、まったくっ!!」
「うっ!?」
クラトスが、防御に使った大剣を押し出した。
力任せな押し出しに、優斗は体を吹き飛ばされた。
力に圧倒的な差がありすぎる。
まともに刀を当てては、押しつぶされてしまう。
優斗はステップを踏みながら、クラトスに攻撃するタイミングを探る。
(まったく隙がないな……どうしよう……?)
困惑した優斗に、クラトスが一歩近づく。
たったそれだけで、優斗は安全圏がごっそり削られた気がした。
「うっ……」
凄まじい威圧感に、ついうなり声を上げた。
次の瞬間だった。
クラトスが、優斗に向けて剣を振り下ろしていた。
「――っ!!」
慌てて優斗は回避。
寸前ところで、優斗はクラトスの大剣を回避した。
クラトスが即座に切り返す。
これを優斗は、刀を斜めにして受け流す。
しかし、
「えっ?」
受け流した剣とは別の方向から、剣の気配が迫っていた。
それを、優斗は気配察知にて感じ取った。
咄嗟にその場を離脱。
「ほぅ。いまのに対応出来るのか」
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