思わぬ攻略方法
優斗は即座に駆けだした。
ソルジャーの態勢が整う前に一閃。
一瞬で首を切り落とした。
立ち止まることなく、優斗はその勢いのままマジシャンに向かう。
だが、優斗よりもマジシャンの方が早かった。
「繝輔ぃ繧、繧繝懊え繝ォ」
耳障りなマジシャンの声と共に、優斗の目の前に小さな火の玉が現れた。
――ファイアボールだ!
優斗は咄嗟に回避しようとする。
だが、既にファイアボールは優斗の眼前に迫っている。
直撃する。
そう悟った、次の瞬間だった。
「う、あぁぁぁぁあ!!」
優斗は反射的に刀を振るっていた。
瞬間。
――ボッ!!
接触した刀が、ファイアボールを切り裂いた。
「えっ……」
優斗に斬られたファイアボールが、空中で小さくはじけ飛ぶ。
その火の粉が、僅かに優斗の頬を焼く。
微かな痛みに、優斗は我を取り戻した。
刀で魔術が切り裂けたなど、予想外だった。
だが、チャンスだ。
相手はまだ驚き身を竦ませている。
「――しっ!!」
その機運を逃すこと泣く、優斗は素早くマジシャンの首を切り落とす。
刀を振り抜いた態勢で、残心。
マジシャンの体が倒れたところで、優斗は血振りをし、刀を鞘にゆっくりと収めた。
「……ふぅ」
「ゆ、ユートさん、大丈夫です!?」
エリスが慌てて優斗に駆け寄ってきた。
優斗の背中に手を当てて、エリスがヒールを行う。
「あ、ありがとう」
「いえ、です。それにしても、ユートさんは、魔術も斬れちゃうんですね」
「う、うん……自分でもびっくりした」
魔術は魔力によって生み出される事象だ。
その事象を切り裂くことなど、優斗は考えたことなど一度もなかった。
だが、優斗は切り裂けた。
(理由は、武器と特技があったからだろうなあ)
ミスリルは魔術に対して様々な効果を発揮する。
杖にすれば魔術の効率を引き上げ、鎧にすれば魔術への抵抗性を高める。
そのような特性を持つミスリルの武器を持っていたため、優斗は魔術に干渉出来たのだ。
また、優斗は【急所突き】を修得している。
魔術に干渉出来るミスリルの刀で、優斗は魔術の急所を突いた。
その結果が、魔術の切断だったのだ。
魔石を回収しながら、優斗がクエスト一覧を確認した時だった。
『魔術を100回受ける(1/100)』
(……あれ? カウントが増えてる)
棚上げしたクエストのカウントが、1つ上昇していた。
(もしかして……)
優斗は己の頬を指でなぞる。
現在はエリスのヒールで完全に治癒されたが、先ほどそこには魔術を受けた時の火ぶくれがあった。
この傷が、魔術を受けたと判断されたのだ。
(今の方法で火の粉を浴びれば、比較的安全に魔術を受けられる!)
他のクエストも消化出来るかもしれない。
希望を見いだした優斗は、俄然張り切るのだった。
「あ、あのぅ……ユートさん」
「うん、どうしたの?」
「いつまで狩り続ける……です?」
優斗は現在、9階で戦っていた。
ここまで各階の魔物100匹ずつを倒し、討伐クエストをクリアし続けている。
現在の魔物討伐カウントは、576匹。
集めるべき魔石は、中間地点を折り返している。
また、チェインクエストのDランク討伐も、同じ道筋を辿っている。
この戦いが終われば、さらに強くなれる!
そう確信している優斗は、早く動き出したい衝動を堪え、口を開いた。
「いつまでって……終わるまで」
「えっ!?」
優斗の言葉に、エリスがぴょこんと跳び上がった。
そんなに驚くようなことを口にしただろうか?
優斗は首を傾げた。
「大丈夫だよエリス。無理はしないから」
ここは地上ではなく、ダンジョンだ。
無理をすればあっさり命が奪われる。
それは、10年間最弱を続けた優斗だからこそ、よくよく理解している。
だから優斗は、一切無理をするつもりはなかった。
「……と、そうだエリス。この指輪を上げる」
「ゆ、指輪、です!?」
再びエリスが、ぴょこんと跳び上がった。
今度は先ほどと違い、顔がうっすら赤くなっている。
優斗はそんな彼女の手に、サイズのかなり大きな指輪を乗せた。
その指輪は、先ほどクリアした『魔術を100回使え』のクエスト報酬として、インベントリに収納されていたものだ。
アイテムの名称は『魔力の指輪』。
優斗が使ってきたアイテムと同じ系統ならば、その名の通り魔力を底上げする指輪である。
魔術師であれば自分で使ったのだが、優斗は剣士だ。
それならば、エリスに与えた方が良いだろうと考え、優斗は彼女に渡したのだった。
「ふむぅ……」
エリスが難しい顔をして、指輪を填めている。
かなりブカブカだ。どこの指にもまともに合わないため、悪戦苦闘している。
その時だった。
「ふぁっ!?」
指輪がシュルシュルと縮まり、エリスの小指にピタッと収まった。
「ユートさん、これ魔道具、です!?」
「うーん。たぶん、魔力を底上げするものだと思う」
「す……すごい。レアアイテム、です!」
エリスが手を持ち上げ、あわわと震え出す。
まるで高級なガラス細工を投げ渡されたかのような反応である。
「これ、わたしが使っちゃダメなやつ、です」
「そう? 回復術師だから、魔力が底上げされると良いと思うんだけど」
「でも……高価です」
「エリスは、僕に初めて出来たパーティメンバーだから。出来れば、使って欲しいな」
それは優斗の本心だった。
これまで優斗は、万年Eランクの最弱冒険者だった。
荷物持ちとしてなら、ある程度信頼を獲得していた。
クロノスで、優斗を荷物持ちとして指名する冒険者は少なくない。
だがそれでも、冒険者優斗とパーティを組みたいというものは、ついぞ現れなかった。
それも当然だ。
一体どこの世界に、最弱の冒険者に命を預ける奴がいるというのか……。
そんななか、エリスが現れた。
エリスが優斗に、はじめてパーティを組もうと誘ってくれたのだ!
もしかすると、優斗が冒険者としてしばらく活動していれば、声をかけてくれる者が現れたかもしれない。
だが、初めて声をかけてくれたのはエリスなのだ。
エリスが、1番だったのだ。
だから優斗はエリスに、魔力の指輪を使って貰いたかった。
顔が青ざめるほどヒールを行っても、それでもまだ頑張って、ヒールを行い続ける。
エリスがそんな頑張り屋さんの、小さな回復術師だったから。
「あっ、ありがとう、です」
そんな優斗に、エリスがぽっと頬を染めた。
まるで〝こより〟を作るかのように、手をいじいじとこねくり回した。
2章で少々詰め切れていない部分があり、執筆に時間がかかりそうです。
つきましては本日以降、更新日を隔週金曜日18:00と致します。
どうぞ、ご了承くださいますようお願い申し上げます。