表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/96

沢山貰っているから……

週間総合ランキング1位を獲得いたしました!

これも皆様のおかげです。

本当にありがとうございますm(_ _)m

「おっ、今回の袋は軽いな」


 麻袋に触れた感覚から、お金でないことがわかった。

 優斗はひと思いに、麻袋の口を開いた。


「ん、腕輪?」


 中から現われたのは、無骨な銀色の腕輪だった。

 じっと観察するが、腕輪にはなにも描かれていない。

 模様すらなかった。


「うーん? なんだろうこれ。――あっ、そうだ!」


 思いついた優斗は、腕輪をインベントリに収納した。

 収納した腕輪がインベントリに現われる。

 それを、優斗はタッチした。


『体力の腕輪』


 名前から体力が上昇しそうなアイテムであることがわかった。


「クエストの内容からも、なんだかそれっぽいな……」


 インベントリから取り出して、優斗は試しに腕輪を填めてみた。

 腕輪は、優斗の腕にピタリと填まる。

 どうやらサイズ変更の術式が内部に刻印されていたようだ。


「体力の腕輪っていうから、体力が上がるのかと思ったけど……うーん?」


 優斗は体を動かしてみる。

 体力が上がったと言われれば、上がったように感じる。


 スキルレベル2アップよりは効果がないが、そこそこは上昇してくれるようだ。


 僅かであれ、能力を底上げするアイテムは、かなりの値段で取引されている。

 その僅かな差が、ダンジョン内で生死を分けるためだ。


 この体力の値段も、売ればかなりの額になる。

 それこそ、優斗が10年は暮らしていけるだけのお金になるに違いない。

 無論、この生活水準を維持したままという前提だが……。


「けどこれ……体力クエストが終わったあとに貰ってもなあ。いや、有りがたいんだけどさ……」


 24時間戦わせるクエストならば、先にこの報酬を頂きたかった優斗であった。


          ○


「あら、ユート珍しいわね」

「おっ、マリーも来てたんだ」


 夕食時。

 仕事が終わったマリーは、大衆食堂であるゴールドロックに足を運んでいた。


 このゴールドロックはクロノスで、『安い・早い・そこそこ美味い』と有名な大衆食堂だ。

 マリーはこのお店の馴染みで、毎日のように足を運んでいる。


 というのも、下宿先には食堂がないためだ。

 マリーには料理の心得がなく、下宿先にも火を扱う設備がない。

 そのため、ほぼ全ての食を外で済ませている。


「ところでユート。今日はお金あるのぉ?」

「もちろん!」


 ユートの表情を見て、マリーは「おや?」と思った。

 彼はいつも生活苦に喘いでいる。万年Eランクで、収入が非常に少ない。


 彼が稼いだお金のほとんどは、安アパートの家賃に消えている。

 一日二食しか食べない彼の食費は、1食あたり50ガルドと、マリーの十分の一以下である。


 そんな彼を、マリーは時折このゴールドロックに誘う。

 いまだに50ガルドの安パンしか食べない、欠食児童の如き姿のユートが心配になるからだ。


 栄養が足りなくて身長がろくに伸びていない。

 そんな彼が空腹に負けてダンジョンで倒れたらと思うと、マリーは気が気でない。


 ゴールドロックは、何を選んでも1つ300ガルドだ。番頭になったマリーには、なんでもない価格である。


 だからマリーはユートを誘い、お腹いっぱい料理を食べさせてあげている。

 それがマリーが出来る、ユートへの精一杯のエールだった。


「どうしたのよ? もしかして、悪いことしたんじゃないでしょうね?」

「してないよ。してない、してない」


 ユートは子どものように首を振る。

 彼が悪いことをするような人間でないことは、マリーはよくよく知っている。


 どんなに腐っても、彼は成長出来ないことを、誰のせいにもしなかった。

 どんなに苦しい時でも、彼は一度も悪事に手を染めたことがない。


 マリーに一言「お金を貸して」と言えば、あっさり解決するようなことだって、彼はずっとずっと、抱え込んできた。


(もっと素直になればいいのに……)


 マリーは運ばれてきたサラダをフォークで刺しながら、むすっとしてユートを見る。


 彼が助けてくれって口にしたときは、いつだって助ける準備は出来ていた。

 けれど彼はいつまでも、助けてくれなんて、口にしなかった。


 そこが良いところであり、ヤキモキするところでもあるのだが……。


「折角だから、今日もアタシが奢ってあげるわよ」

「いいよ。今日は僕のお金で食べに来たんだから」

「でも、ユートはサラダしか食べてないじゃない……」

「だってここのサラダ、すごく沢山盛り付けられてくるから」


 ユートは栄養価よりも、1皿のボリュームしか考えていなかった。

 たしかにゴールドロックでサラダを頼むと、お腹いっぱいになるくらいの量が運ばれてくる。


 だが所詮、サラダはサラダだ。

 それだけでは、お腹に力が入らない。


「お肉食べなさいよー、お肉ぅ」

「みんな同じ値段だけど、お肉ってひと皿に1切れしか入ってない高級品だよ!? そそ、そんな贅沢なものは注文出来ないよ……」


 お肉を薦めると、いつもこうである。

 マリーはため息を吐き、手を上げた。


「すみませーん。お肉5皿お願いします」

「ご、5皿も食べるの!?」

「ユートが食べるのよ」

「えっ、でも……」

「もう注文しちゃったんだから、ちゃんと食べなさいよぉ?」

「ひえぇ!」


 嫌がるユートには、こうやって強引に奢るしかないのが現状だ。


 ユートは肉が嫌いなわけではない。

 彼にとっては肉が高級品だから、遠慮しているだけなのだ。


 マリーが注文すると、ユートは反省する犬のように申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、ちゃんと肉を食べてくれる。


 そんなユートを眺めていたマリーは、ふと彼の変化に気がついた。


「……ん? ねえ、ユート。少し顔が変わった?」

「へっ? ひあ、ほう?」


 ユートはステーキを口いっぱいに頬張りながら首を傾げた。

 その様子は、昔のままである。


 だが、彼の顔つきのなにかが変化したようにマリーには思えた。

 10年間、ユートを見続けたマリーだからわかる。


 彼の中で、なにかが大きく変化した。

 それがなんなのか、マリーにはわからない。


 だがもしかしたら――とマリーは思う。

 もしかしたら、ユートは自分の殻を破ったのではないか? と。


「今日はユートが食べた分も、アタシが奢って上げるからね」

「いや、いいよそんな」

「遠慮しなくていいのよ。アタシ、稼ぎはたっぷりあるから!」

「ぐぬぬ……」


 稼ぎを口にすると、ユートは手も足も出ない。

 当然だ。

 自慢ではないが、マリーはユートの月収の十倍以上貰っている。


 だから気軽に、奢ってあげられる。

 この1点のみが、マリーがユートに与えられる唯一のものだった。


(アタシは、ユートから沢山貰ってるのになあ……)


 食事を終えた後。

 夜は危ないからと、いつものように下宿まで送って貰ったマリーは、ユートの背中を見送りながら嘆息した。


 彼のために、なにかしてあげたい。

 だが現状出来るのは、お腹をすかせたユートに食事を奢るくらいだ。


 もっと、彼の背中を間近で支えたい。

 だがマリーに出来ることは現状、なにもない。


「……だったら」


 マリーは空を見上げて呟いた。

 ひとつ、マリーには案があった。

 だがそれを実行に移せなかった。


 ――お金が足りなかったのだ。


 だがユートの表情が変わった。

 彼はきっと、殻を破ったのだ。


 だったらと、マリーは奮起する。

 あと少しで、満足の行くお金が貯まる。

 頑張れば十分手が届く場所まで来ている。


「あとは、気持ち次第ね……」


 マリーは胸に手を当てる。


 自分に力をくれたユートの背中と、

 そして、彼がずっと手にしているボロボロになった長剣を、マリーは瞼の裏に思い浮かべるのだった。

もし続きが気になる、もっと読みたいという方は、ブックマーク&評価して頂けると嬉しいです。

どうぞ、宜しくお願いいたしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ