恋に住む少女
カランコロンと音がする。
きっとそれは恋の音。
そこは眩しいほど明るい空間だった。
赤だったり、青だったり、たくさんの色で溢れている空間。
それなのに終わりが見えない不思議な空間。
―カランコロン
そこには、たくさんのガラス玉が転がっていた。
様々な色を閉じ込めた、たくさんのガラス玉。
ガラス玉の中で、炎が揺れる。ごうごうと、ゆらゆらと、様々な色を燃やしている。
―カランコロン
そんな空間に、たった一人で少女はいた。少女は、そこで生きていた。
少女はガラス玉を一つ、手に取る。
少女は自分のことも、それ以外のことも何も知らない。
ただ、少女はこのガラス玉のことだけは知っていた。これが“恋心”だと知っていた。
―カランコロン
音も、色も、炎の燃え方も、その全てがそれぞれ違うガラス玉。
一つとして同じものはない。
すべてがすべて、たった一つだけのガラス玉。
―カランコロン
楽しそうにメラメラと燃えるガラス玉。
悲しそうにしとしとと燃えるガラス玉。
まだ炎の色も定まらず、チロチロ燃えるガラス玉。
少女はそんなガラス玉を見て、今日もこの恋心の持ち主に思いを馳せる。
この赤く情熱的に燃えるガラス玉は、誰の恋心かしら。
教室の窓際で本を読んでいるような大人しい子の恋心かしら。
この青く悲しげに燃えるガラス玉は、誰の恋心かしら。
いつも笑っている明るい子の恋心かしら。
パリンと割れてしまえば、それは恋の終わり。
恋が、叶わなかった証。
ぐにゃりと崩れれば、それは恋の変貌。
恋が、憎しみに変わった証。
―カランコロン
少女は恋の始まりも終わりも知っていた。
ずっとここで見ていたから。
少女には恋心しかなかったから。
それでも、少女には恋が分からない。
ずっとここにいるけれど、恋心が分からない。
恋ってなに?
恋心って、どんなもの?
どうして、恋をするの?
何も知らない純粋な少女は考える。
考えるけど、分からないから問いかける。
カランコロンと歌う、ガラス玉に問いかける。
―ねぇ、恋って、楽しい?
―楽しいよ。
カランコロン、ふわふわと燃えるガラス玉が、笑いながら答える。
―ねぇ、恋って、苦しい?
―苦しいよ。
カランコロン、青く燃えるガラス玉が、泣きそうな声で答える。
―ねぇ、恋って、美しい?
―美しいさ。
カランコロン、キラキラと強く炎を燃やすガラス玉が、自信満々に答える。
―ねぇ、恋って、醜い?
―醜いさ。
カランコロン、今にも崩れてしまいそうなガラス玉が、嘲笑しながら答える。
―どうして、恋をするの?
少女は分からなかった。
ただ楽しくて美しいだけならまだしも、どうして苦しくて醜いと思ってまで、恋をするのだろうか。
少女は分からない。
それでも、恋心は、口を揃えて答えた。
―恋しいから。
そうさ、恋しいんだ。
どうしようもなく、恋しいんだ。
―カランコロン
ガラス玉は歌う。
恋しいと歌う。
楽しいだけじゃない。
美しい感情ばかりでない。
時に苦しく、時に自分でも嫌になるほど醜くなる。
それでも、これが恋しいってことだから。それが恋だから。
―カランコロン
ガラス玉は優しく歌う。
秘密を語るように、ひっそりと歌う。
片思いでもいいんだよ。
叶わなくてもいいんだよ。
愚かでも、惨めでも、それでも恋しいなら。
―カランコロン
恋心は少女に教える。
何も知らない少女に、たった一つ、恋を教える。
―それって、幸せなの?
―うん、幸せなの。
あの人を思う一分一秒が、苦しくて、切なくて、悲しくて、それでも心から幸せなんだ。
あの人が好きなことが、幸せなんだ。
どんな恋心も、皆一様にそう言った。
―カランコロン
恋心の音がする。
好きな人のためにときめいている、幸せの音。
楽しい子も、苦しい子も、美しい子も、醜い子も、みんながみんな、同じ音を立てる。
だって、形は違くても、全部恋心だから。
同じ存在だから。
―カランコロン
今日もどこかで音がする。
上にあるのか、下にあるのか。
浅いのか、深いのか。
近いのか遠いのか。
それは誰にも分らない。
でも、恋心は確かにここにある。
皆、一緒に、ここにある。
誰もが持ってる恋心。
それでも、同じものは一つとして存在しない、たった一つだけの恋心。
―カランコロン
今日もどこかで、恋心が音を立てて燃え上がる。
恋しい恋しいと歌ってる。
幸せなのだと歌ってる。
いつか、この恋が成就する日を夢見ている。
―カランコロン
そんな恋心に囲まれて、今日も少女は、そこで生きている。




