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少女はもう夢をみない  作者: やまだ けい
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いつもの日常

 

 私はいつも同じ夢を見ていた。

 気づくと周りには誰もいなくて果てしなく広い空間だと思う。明かりは無いのに視界は良くて、上を見上げても終わりは無さそうな高さだと窺える。しかし自分以外居ない所為なのかここから動いてみようとは思わない。だから夢の中だというのに膝を抱えて一人でこの時間をやり過ごそうと目を閉じる。


 いつからかその夢を見なくなったが、ふとした時にあの時の心細さを思い出す。


 今朝もアラームの音が鳴る前に目が覚めて軽く伸びをした。今日も寒くなりそうだ、と思いながらベランダに続く窓を開けて網戸にし軽く部屋の中を換気する。自分の匂いだというのに人の匂いが苦手だからだ。喚起している間に洗面台に向かい顔を洗い、歯を磨く。窓を閉めて暖房をつけ、着替えを持ってシャワーを浴びに浴室へ。濡れた髪の毛をドライヤーで乾かしながらそろそろ美容室へ行かなきゃだな、などと考える。髪の毛は高校の時からもう伸ばしてない。肩に着きそうになるとすぐに美容室へ行ってしまう。一度伸ばして結ぶのもやってみたが、微妙な長さだと跳ねたりして扱いが難しいのだ。かといって毎朝ご丁寧にアイロンをしようとか慣れないので時間がかかるだけで効率が悪い。たまに会う友人からは伸ばせばいいのに…なんて毎度言われる。


 トーストとインスタントのスープ、野菜ジュースをお腹に入れながらスマホでメールをチェックし、SNSを流し見る。先週ドタキャンしてしまった相手から今日こそ大丈夫だよね??という念押しのメッセージが来てたので、スタンプで返事しておいた。タイムラインを流し見しているとまた同級生のアイコンが変わっている。この歳になると続々と周りが結婚して子供が出来て、人生の階段を上って行っている。田舎の母からは結婚しないのか、いい人いないのか、などとせっつかれるが、両親が結婚した歳にまだなってないのだからどの口が言ってるのか甚だ疑問に思う。幸せそうな写真を見ると取り残されているような気持ちにもなるが今は仕事の方が好きで自分が結婚して家庭を築くなど想像もつかない。そもそも相手が居ない…… 人生なるようにしかならない、と心を決めると家を出る時間になってた。慌てて仕事の鞄を用意し自転車の鍵を取って家から出る。


 自転車で10分くらいの所に勤め先がある。都内のそれなりに裕福なエリアだ。もちろん最寄駅から都心へのアクセスは良い。家は借り上げの新築アパートなので家賃は相場より安いはずだが坂が多いので毎朝息が上がる。そこを除けば満足してる愛する城である。おはようございます、と声をかけつつ裏口から入ってスタッフルームへ直行する。ロッカーに荷物を入れ臙脂色のスクラブに着替えて聴診器を持つ。手鏡をみながら色付きのリップクリームを塗り、髪の毛がはねてないか、最低限の身だしなみを整えてから朝のミーティングへ向かう。


 やっぱり私が最後だったな、と思いつつスタッフ全員で院長へ朝のご挨拶だ。

「今日は遅かったですね」と隣の男がニヤニヤしながら声をかけてきた。朝からうるさい顔だなと思いながら「はいはい、前向きなさいよ」と返す。この男は顔だけはいいのに人をおちょくってる感じがして正直、得意な部類ではない。なにかと話しかけてくるから冷たくあしらっているはずなのに効果ないのは何故なのだろう。他の女性スタッフは頬を染めながら話しかけているみたいだから、自分の対応が物珍しく感じるからだろうか。顔のいい人が考えることは分からない。頭の中で隣の男への対応を変えるか変えまいかとぐるぐる考えているうちに朝のミーティングは終わった。シフト表を読み上げるだけなので毎朝する意味がわからないが、こういうのも大事なのだろうと無理矢理納得する。スタッフが持ち場へ散れて行く中改めて自分のシフトを確認し、処置室へ向かう。


 今日も何事もなく平穏に過ごせますように、今日こそ約束の時間に間に合いますように、そう願いながら1日が始まる。


 慌しい午前中だった。 1人もそもそと買ってきたパンを食べながら思い出していた。そろそろ午前中の予約も順調に捌けそうだったのに急患で洋服のボタンを誤飲したわんこが来た。幸い直ぐに連れてきた為大事にはならず、目視で確認ができペアン鉗子で除去できた。万が一もっと胃の方へ下がっていたと思うとゾッとする。

 午後こそ恙無く終わり、今日こそ定時で帰り明日からの休暇を楽しみたい、心の底から思いながらパンのゴミを捨てた。

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