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『arcana casus』  作者: るいゆ
3/3

かみゆめコラボ

昆布神様の小説「小さな神様が見た夢」とのクロスオーバー作品です。

茉友良さん、霧さん、満さん、梅太郎さんの4名をお借りしました。

「最近arcana casusにバグが出現しているらしい」

 そんな噂を聞いた。操作が効かなくなってクラッシュしてしまい、キャラクタが消滅してしまうという酷いものだ。原因はわからず、少なくないユーザーが被害にあっているという。


「arcana casus……しばらくログインしない方がいいのかな……」

「え、俺普通に今日もプレイする予定だったんだが」

「キャラ消えるのは嫌じゃん」

「バグが起きる決定的瞬間おさめに行く?」

「後悔しても知りませんよ」


 怖いもの知らずのような寛人と徹。

 止めようとするも結局ログインしてしまう己の意思の弱さに呆れてしまう。いつものようにココアトークを繋いで4人集まる。


「バグは森で起こるらしいな、見に行こうぜ」

「まじで怖いもの知らずじゃん」


 うきうきする椛を追いかけて街の出口に向かえば聞き覚えのある声がスピーカーから響いた。


「梅超可愛い!本物の天使みたい!!」

「そうかな?あはは、でも不思議だな、なんで羽なんかはえたんだろう」

「そう言う茉友良に変わりはないみたいだねぇ?」

「霧は耳が長くなってるし…俺は耳が無くなってるし……」

「はは、バカだねぇアンタ。頭の上に立派なのがついてるじゃないか」


 朗らかな4つの声は、それはいつか大正時代にタイムスリップしてしまった時に出会った4人。当然、彼らがゲームをしているわけでも、ましてやNPCとして存在している訳でもない。


「なんで4人がここに!?」

「ん?」


 奏汰の叫び声に気がついて振り返った少女のような風貌の少年。訝しげに眉をひそめて「誰だお前」とだけ言った。

 それもそのはず、4人が出会ったのは生身の奏汰達であり、ゲームの中では姿が違うのだ。


「俺奏汰、こっちは寛人でそっちが徹、そして優!」

「みんなもコレやってたの?」

「なわけあるか、大正時代にPCゲームなんてないだろ」

「徹さんはバカですね」


 奏汰達が名乗ると驚きとともに少しの安堵と喜びを顔に滲ませる。

 彼らに近づこうとした瞬間、スマホ越しにガタン、と何かが倒れる音がした。


「おい?大丈夫か?」


 続け様に2つ倒れる音が響く。誰も答えない。


「おい?返事しろよ、おい!!寛人!徹!優!!」


 不安が募るなか、不意に目眩が襲う。視界が歪んでいく

──…ダメだ、なんだこれ、意識が…………どうか頭から落ちませんように…


 ガタン、と4つめの倒れる音が部屋に響いた。



「……た、……なた……ぃ、…………っかり…ろ!!奏汰!」


 誰かの呼ぶ声で奏汰は目を覚ます。目の前には銀髪を揺らす少年の顔。ピンクの目が覗き込んでいた。画面越しにではなく、目の前に。


「茉友良……?」

「やっと起きた。大丈夫かよ、急に4人して倒れ込みやがって……」

「一体何が…俺、ついさっきまで自分の部屋でゲームしてて」


 茉友良が目の前にいるってことは俺の目の前に茉友良が出現した?いやそれは無い。俺は自室で倒れたんだ、制服のまま。今着てるのはarcana casus内の衣装で、風景もarcana casusの街中に酷似している。

 にわかには信じ難いけど、ここは多分ゲームの中だ。


「他のみんなは!?」

「んー、あっち」


 あっち、と指を刺された方を向くと更に受け入れ難い光景が広がっていた。


「ウメタロ!!!また会えたっーーー!!」

「徹!元気にしてたか?」

「めっちゃ元気!ウメタロは元気だった!!?」

「おう!」


 あいついつの間にあんな仲良くなったんだ???隣で優と満は団子食いながら談笑してるし……


「そうなんですか?大変ですね〜」

「あぁ、だが…それもまた、良い思い出だ……」


 まって、串が山積みなのなんで??何本食ったの??


「オラァ死ねぇ!!!」

「アンタが死になぁ!!!」


 怖、こっわ……なに、なんなの君たち……


「て言うかさ、さっきまであんたらの頭上に文字が浮きでてたみたいで声は聞こえなかったんだけど、今ははっきり会話出来てる。急に倒れた事と言い、なんかあった?」

「俺にもよくわかんないんだけど……多分、現実の俺たちは気を失ってる」

「現実の?妙な言い方するね、オレらはまだ何も把握できてないんだ。わかる範囲でいい、説明頼める?」

「勿論、じゃあまず集まってもらおうか……」


 うわ、串の山増えてる。寛人の方は……遊んでるだけかな、よし。

 パンっと手のひらを打ち鳴らして声をあげる。


「集合!!」


 掛け声とともに俺の目の前に集まる3人。ちょっと楽しいなこれ。大正から来た4人は面食らったような顔でこちらに駆け寄ってくる。


「なんか変わったね?」

「そうでもないよ、ちょっとヤマは乗り越えたけど」


 俺らは何も変わってない。あの時からずっと、ゲーム好きの同級生。


「じゃあまず状況整理をしよう。ここはたぶん、ゲームの世界。arcana casusの中だと思う。何らかの原因で大正からゲームの中に入ってしまった4人と、何故か急に意識を失ってゲームの中に入った俺たち。バグの原因と関係があると思う……というかそれ以外ないでしょ」

「まあそうだろうな。そしてアンタらがいるってことはそっち関連の何かが関わってるはずだ」


 チラリと優を持ち上げてぐるぐるまわる梅太郎を見やる。無邪気か。親戚の子供とお兄さんかよ。和んだわ。


「ところで…そのげぇむ、というのは何なんだ…?」

「簡単に言えば物語の中に入っちゃったってことかなー?」

「む、それは大変だな…」

「またみんなで協力してこの世界から脱出しようね!」

「そうだな…ところで徹は…………女子だったか?」

「え?…あ、この服のせいかな?可愛いでしょ、でも俺は男!!」


 ひらひらふわふわな衣装に身を包んだ徹はまあパッと見女子に見えなくもない。紛れもなく男だけどね。


「とりあえず全員のステータス確認しようか、現実とゲームじゃ多分身体能力とか凄く差があると思うから」

「確かに、ちょっと体が重い感じがする」

「アタシはむしろ動きやすいねぇ、いつも以上に捗りそうだよ」


 頼もしいのか恐ろしいのか……でもステータスチェックってどうしたらいいんだろ、現実ならキー叩けば確認できるけどゲームの中じゃそうもいかないよな。


「ステータスチェック」


 名前 椛 性別 男

 職業 機工士 Lv 50

 種族 獣人


 徐に寛人が呟けば、寛人の目下に青い窓が出現する。隣から覗けばそれは紛れも無い椛のステータスだった。


「…言えばでるもんなんだな、ステータスチェック!」


 名前 雪 性別 男

 職業 侍 Lv 46

 種族 鬼人


 気を失う前とステータスに変化はないな。


 名前 蛍 性別 男

 職業 火術師 Lv 40

 種族 森精種


 名前 桜 性別 男

 職業 職人 Lv 38

 種族 妖精


「俺らは別になんともないみたい」

「僕達がゲームの世界にいることが決定的になった大事件ですけどね」

「お前ら名前違くね?」

「えーっと、ゲームの中ではこの名前を名乗ってるんだよね、でも奏汰だから奏汰でいいよ」

「ふーん?」


 よくわかってなさそうだけどまあ大したことじゃないし大丈夫だよね。俺がもっと説明上手だったらよかったんだけど……


「みっちーたちも『ステータスチェック』って言ってみて!」

「すてえたすちぇっく?」


 名前 満 性別 男

 職業 光術師 Lv 50

 種族 獣人


「まってw強いwwww」

「まさかの3次職のカンスト済みとはな……」

「凄いですね……」

「猫耳のイケメンでかつ強いって狡い」

「すごいのか……?よくわからないな…」

「んじゃアタシも、ステータスチェック」


 名前 霧 性別 女

 職業 暗殺者 Lv 50

 種族 森精種


「きりりんは種族俺と一緒だ!」

「暗殺者なら俺と系統が同じだな。」

「まゆちゃんは?」

「だーから、まゆちゃんって言うなって!!ったく、ステータスチェック!」


 名前 茉友良 性別 男

 職業 剣士 Lv 50

 種族 人間


「……そっか」

「これは……」

「?なんだよ??」

「1次職ってね、3次職にくらべるとすごく弱いの。まゆちゃん、弱いの」

「はぁぁあああああ!??霧と満が上位なのに!?おかしくない!??」


 こればっかりはシステムが決めたことなので俺らにはどうにもできない…暴れる茉友良を4人係で押さえつける。多分普段の茉友良なら到底太刀打ちできないだろうけれど、ステータスの差のせいか簡単に抑え込めてしまう。


「まあまあ落ち着けって、俺も茉友良と同じみたいだぞ?」


 名前 梅太郎 性別 男

 職業 踊り子 Lv 50

 種族 有翼種


「ウメタロも1次職だった!」

「踊り子って言うらしいな」

「補助職なら僕と一緒ですね」


 茉友良と変わってこっちは和やかだなぁ…まあ50Lvなのが救いだな。基本スキルは多分持ってるだろうし。茉友良はまだ暴れてるけど。


 見かねて梅太郎が茉友良に声かけてる…


「大丈夫か?もし嫌なら何か解決策を探すか?」

「えっあっううん大丈夫だよ!オレ頑張るから!だから、梅が支えてね……?」

「そうか?わかった!」

「頑張れ〜(笑)」

「むっ、見てろよ!あとで後悔させてやるから!」

「頑張れ」

「しばくぞ」

「えっ」


 満可哀想過ぎるでしょ。


「さて、じゃあバグの最多発生地の森へ行くか」

「道中に敵が出てくると思うからそいつらで練習しながら……っ!茉友良!」

「ああ、間違いない……ヤツらだ……」


 ヤツら、それはつまり妖を意味する。茉友良たちが狩り続ける敵であり、おそらく今回の件の元凶。

 ただ梅太郎だけは妖を見ることが出来ないはずだった。


「なあ、いま森の方で変なモヤみたいなのが動いてなかったか?」

「え?な、なんかいた?」

「確かに、変なのが動いてるように見えました!バグの原因でしょうか??」

「…優にも見えたのか?」

「え、はい。見えますけど……もしかしてアレって…」


 聞く話だと優も妖が見えていなかった。見えないはずの2人がしっかりその姿を確認しているとなると……ゲームだからかな??


「そのエネミーが今回の事件の鍵を握ってるのかもしれない。気をつけて追いかけよう!」

「「「「おう!」」」」


 妖であることだけ伏せて、あれは敵キャラだっていう認識だけでいいはず。茉友良と顔を見合わせて頷く。必要以上の情報は要らない。


 いつもは4人で歩く道を8人で歩く。画面越しに見ていた景色は肉眼で見ると想像以上に鮮やかで本当に森の中を歩いている気分だ。


「これ、キーボードを叩くのとは違うんだもんな、俺達も戦闘練習するべきなんじゃねぇ?」

「刀ならノリでどうにかできる」

「剣なんて使ったことねぇよ」

「ナイフならお手のもんさ」

「魔法はどうにかできるよ、ノリで」

「僕は職人なので後方で大人しくしてますね」

「えっと、俺は踊ればいいのか?」

「梅の踊り?ナニソレ超やる気出る」


 いつ何が出てきてもおかしくない、穏やかでいて不穏な森の中で優しい笑い声が響く。


「っ徹!上だ!!!」

「えっなに上田!???芸名は上田じゃないよ!!?」


 そんなふざけたことを叫びながらしっかり反応して炎を繰り出す徹。黒いモヤは簡単に消滅してくれた。


「ありがとみっちー、たすかったよ〜」

「無事でよかった……」

「古い……」

「え、覚えてる人いる?」

「僕は好きでしたよ」


 好きか嫌いかなら俺も好きだった。いやそうじゃなくて、火、もう本当になんともないみたいだ。


「わりと普通に魔法使ったな?」

「フレアバーンね、何となくえーいってやったらノリでできた」

「システムが体を勝手に動かしてくれる感じだ」


 いつの間にかもう一匹を倒していた寛人が銃を構えながらそう言った。やっぱ様になるなお前。


「梅太郎さんも何となくわかりました?」

「おう、みんな頑張れって応援する気持ちで踊ればいいんだよな」

「ふふ、はい。みんながんばれです」


 あー、和むなあそこ…………梅太郎がいるともうオアシスだな。殺伐とした獣たちの争いの中唯一全てを包み込む偉大なる胸筋……


「梅に頑張れなんて応援されたらオレ……ここら一体滅ぼせるかもしんねぇ」

「やめてくれ」

「アタシらにかかりゃこんなの一瞬さ」

「やめてくださいお願いします」


 本当に出来そうだから困るんだよなぁ…っていうかそろそろ遊んでないで探索しねぇと。パソコンがクラッシュしたら、というよりも倒れてる俺らを家の人が見たらシャットダウンされるかも知んねぇし、そうなったらどうなるかも、……わかんないんだよな。


 無事でいられる保証はない。死なないなんて断言できない。…このHPバーが尽きたとして、ちゃんと蘇生ができるのかも……


「寛人、これ俺らが感じてるよりも…」

「やばいだろうな。お前ら!くれぐれも攻撃は喰らいすぎるな、生きて帰れる保証はないことを忘れるな!」

「え、蘇生できないの!?」

「確かにここはゲームの中です。でも、確かにそんな保証どこにもありませんね…」


 倒れる寸前みんなが倒れる音はした。だからここにあるのは精神のみだとおもう。最悪精神が死ぬ、感じかな。そう思うと震えてきた。どうしよう、みんなで帰れなかったら。


 なんて考えていると不意に頬に衝撃が襲った。顔を上げると茉友良が手を振り切っていた。


「いってぇ!?」

「へぇ、HP?は多少減るんだな」

「えっ……?」


 ついでだと言わんばかりに満にも平手打ちを食らわす茉友良。どうしたの急に。満がなんで?って顔してるよ。俺もなんでって顔してるよ。


「満の方が減りが多い。このDEFに関係しているっぽいな」


 そこはステータス依存なんだな……いやなんで叩いたの?


「優が回復できるんだよな?」

「なるほどそういうことですか。はい、できますよ」


 べちっと投げつけられた小瓶が僅かに減ったHPを回復してくれる。回復はできる…


「オレらは!…梅は違うケド……オレらは少なくともお前より強い!」

「1次職がそれ言う?」

「るせぇ!攻撃もできる、回復もできる、何が怖いもんか」


 茉友良なりの励ましなのかな、なんだかんだ優しいんだから……


「かなたん怖いの?」


 俺の顔を覗き込む徹。


 うわ、純粋に心配してくれてんのはわかってんだけど煽られてる感がすげぇわ。殴らせろ。デコピンさせろ。


「…怖いよ。誰か1人でも欠けたらなんて思うと」

「誰も欠けねぇよ。お前がそう言ったんだ」

「微力ながら…俺達も尽力する。共に闘おう」

「優と梅は後方支援に務めな、アタシらが絶対敵の手を届かせやしない」

「そして僕達も、全力で皆さんを守ります」


 …あぁ、頼もしいな。大丈夫。みんながいる。


「焦っても始まらないよ、まずはおむすびでも食べて元気出せって」


 梅太郎印のおむすび……待ってそのお米どこから持ち出したの??優に至っては手をつけるの早すぎじゃない?


「ふぁーうめたろーさんのおむすびはやっぱりおいしーですー」

「梅のおむすびが無いと力も出ないからな」

「なんかほんとに力湧いてくる気がする!」

「アイテム欄見てみろ、食べるとホントにステータスアップ効果あるぞ!」

「梅のおむすびは梅の優しさが詰まってるんだねぇ?」

「おい、霧が食べた時のみ72時間全ステータス30%上昇って書いてあるぞ!」

「ナニソレっ!?」

「やっぱり霧って女の子だし…あんま無茶して怪我して欲しくないななんて考えたからか?」

「な、なにそれ……」


 …俺だけシリアスしてるのバカみたいじゃん。やめだやめだ、もうしらね!


「俺にも1個ちょうだい!」


 梅太郎からおむすびを受け取って食べる。うっま、なにこれめっちゃうまい!


「こんな美味いおむすび初めて食った!世界一じゃん、梅太郎のおむすび世界一じゃん!!」

「そんなに言われると照れるな……」


 マジで元気出てきた。どうにかなりそうな気がしてきた!よし、みんなで頑張るぞ!!


「森のマップはそこそこ広い2手に別れよう」

「みんなで頑張るぞって意気込んだ瞬間の分断って有り得るか?」

「それはそれ、これはこれ。お前の不安も全て俺が消し去ってやる安心しろ」

「やだ、超イケメンじゃん……」

「そうだな、奏汰、霧、徹、梅太郎の4人と茉友良、俺、満、優で別れるぞ」

「待って、なんで俺と寛人別なの、自分のセリフ思い返してくれない?」

「うるせぇ」


 この、この野郎っ!!!乙女心を弄んでっ絶対許さないわっっ!!後でギッタンギッタンにしてやるんだからっ!!!


「できました。どうぞ、通信機です」

「そんなことも出来るのか?すごいな優は」

「あ、いえ…これは職人のクラフト技術と言いますか……これを耳につければ8人間で離れていても会話ができます」

「ほう……ヘイセイにはすごい技術があるんだな……」


 優から手渡された通信機を耳につけるとみんなの声が聞こえてきた。


『マイクテス、マイクテスあーあー聞こえますか、聞こえますか、オーバー』

『お、ちゃんと聞こえるぞ!』

『よし、じゃあさっさと元凶見つけてぶっ飛ばすか!!』


 左右に別れて捜索を開始!


 道中には通常のエネミーと一緒に多数のモヤがいた。いたんだけど、霧が片っ端から目にも止まらぬ早業で次々倒していく。


「投げても投げても減らないなんて便利だねぇ、このゲームって世界は」

「きりりん強い……おむすび効果?」

「俺らの出る幕皆無だ……」

「よし、俺も頑張ろうかな」

「「「梅/梅太郎/ウメタロは絶対後ろにいて!!!」」」

「お、おう、わかった……」


 踊り子が前に出たら危ないし……少しでもカスったら霧がキレそう。梅太郎が傷つくことを何よりも恐れてるみたいだったから。


「おいアイツ、ほかのモヤに比べてなんか変じゃないか?」

「ホントだ……あ、逃げる!追いかけよう!!」


 願わくば元凶に繋がっていて欲しいな!


 ━━━━


 こちらオレこと茉友良率いるチームB。妖を滅ぼしながら進んでいるところだ。寛人や満が一撃で葬る中俺が遅れをとっているのは些か納得行かないけど。


「向こうの方…やけにモヤモヤが多くないか……?」

「お、ずっと黙ってると思ったらちゃんと周り見てたんだな」

「そっちに元凶がいるのかもしれない、通信を」

『元凶っぽいの見つけました、ポイントに集合願いま……あ』


 視線の先には妖を追いかけていた奏汰達がいた。


「茉友良!!そいつ倒して!」


 呼びかけられると同時に口から勝手に言葉が漏れだし、オレの身体は導かれるように妖を両断する。


「アートメント!」


 技名叫びながら敵を倒すなんて…小っ恥ずかしい……


「まゆちゃんかっくいー!」

「まゆちゃんって言うなって!」


 ったく、別れて間もないってのになんだか久々に顔を合わせたような気分だ。


「この先が多分……」

「間違いないだろうね。」

「んじゃ気を引き締めて……」

「突撃!!」


 ━━━━


 道の先には真っ黒で歪な塊があった。見上げるほど巨大なそれは、バグった画面のようにエフェクトを発生させながら蠢いている。


「なに、あれ」


 モヤのように少し可愛らしいのを想像していた俺には少し衝撃的だった。

 俺の声に反応がしたかのように塊から1本の筋……腕?触手なようなものが伸びてくる。咄嗟に刀で受け止めようとしたが思った以上にその力は強くいとも簡単に弾き飛ばされてしまった。


「ぐぁっ!」

「奏汰!」


 背中を幹に強くうちつけ肺から空気が吐き出される。激しい痛みに襲われる。あぁ、こんなに痛いのか、HP自体はさほど減っていなかったけれど。


「大丈夫か?」

「平気、茉友良も気をつけて。下手に受けると飛ばされる。俺よりも踏ん張り利かない状態なら尚更危ないから……」

「どうやら、甘く見ていたら痛い目に遭うらしい。慎重にかかるぞ」

「っし、さっさと蹴り付けんぞ!!」


 茉友良の掛け声とともに俺と茉友良は左右に展開し、正面から霧と寛人の猛攻が始まる。


「なんだか全く効いてるように見えないねぇ?」

「いったいどうなってんだあいつは……」


 斬りかかっても全くと言っていいほど手応えがない。なんで……


「兵器改造・ウィルスバスター」

「なにそれそんなんあるの!?」

「今作りました」

「作っちゃったの!?」


 あ、でも攻撃が通る様になってる……?少しずつだけど切り崩せてる感じがする。優どうなってんだ?チーターか!?


「通信機作れたくらいですし、なんでもありくらいに思った方が楽しいですよ?」


 楽しい、か。そうだよな、これゲームだぜ、普通ならテンション上がるようなことだよな。ゲームの中に入ってロールプレイしてるんだ。……楽しんだ方がいいよな!


「ジャック・ザ・リッパー」


 激しい猛攻の中、腹の奥に響くような声。

 瞬間的に後ろに飛んだ瞬間理解した。敵を囲むように無数のナイフが宙に構えていた。


「散りなぁ!」


 呼応するように無数のナイフが敵に降り掛かっていく。暗殺者すげぇな。


 ……体が熱い、今ならなんだって出来そうな気がする。暴れるように襲い来る触手を避けながら攻撃を繰り返す。


「霧!!!」

「しまっ」


 衝撃に耐えるため強く瞑った瞼。しかしその来たる衝撃は待てども無く、開いた目に映ったのは刀を握る鬼人の背中。

 霧へと向かった触手は霧の元へ届く前にその刀により霧散していく。


「奏汰…」

「大丈夫?」

「あぁ、アンタの方こそ大丈夫なのかい?」

「うん、ほら見て。梅太郎のおかげだ」


 後ろを振り向けば勇ましく、力強く舞う梅太郎がいた。守護の舞、治癒の舞、疾風の舞、続け様に舞い続ける梅太郎。それは梅太郎の覚悟のこもった舞。


 優のチートみたいな意味わかんないエンチャントと組み合わせてこれ以上ないくらいの補助だ。


 前方は茉友良と寛人が止めどなく攻撃を仕掛ける。剣なんて使ったことないなんて言ってた茉友良はそんなこと微塵も感じさせないほど迷いない剣筋で一閃、ただカッコよかった。


 寛人は爆撃で騒音が凄いけれど塊は怯んで思うように動けていないらしい。相手の動きを封じ込めるの得意なんだからなぁ……


 狙いの定まらない敵の攻撃は当たらない、隙を縫うように刻む攻撃。


「いくよみっちー!」

「準備は出来ている」


 術師の2人の声が上がると共に梅太郎の舞が切り替わる。『戦神の舞』


 腕を交差させるように重ねて手を突き出す。


「ぶちかませ!」

「「スパークルフレイム!!」」


 眩い光の炎が敵を包み燃やしていく。なんだ、みんなカッコいいなぁ……


「茉友良!」

「奏汰!!」

「「やっちまえ!!」」


 互いのことは一切見なかった。そこに来る、そう信じて踏み込む。コマ送りのようなゆっくり見える世界。踏切飛ぶと茉友良が見えた。


 口角が上がって、ここだろ?なんて声が聞こえた気がした。


「乱れ桜…」

「二重奏!!」


 光速で敵を幾重にも斬りつけるこの技を2人で奏でる。妖は完全に分解され、小さくなって消えていった。


 自分の体じゃないみたいだった。2人の動きのタイミングが完全に重なって1つの技になる。

 茉友良も同じこと考えたのか、俺の顔を見ていた。


 そして強くハイファイブ。


「おつかれさまあああ!!」


 ぶっ飛んできた徹を避けても次々と押し寄せたみんなに押しつぶされる。


「っと、苦しいって!」

「よくやった!!つか最後のなんだくそカッケーな!」

「魅せてくれるじゃないか、ねぇまゆちゃん」

「るっせぇー」

「ほんと、みんな無事でよかった」


 喜びも束の間で、4人の体がだんだん薄れていく。


「事が片付けばすぐコレかよ」

「なんだか騒がしくてあっという間だったねぇ」

「たいへんだったが……げぇむの中でこんな風にできたのは楽しかった」

「みんな無事でほんとによかった。また、いつか会おうな!」


「うん、またな!!」


 別れの言葉も満足に言えないまま4人は消えていった。確かにそこにあった温もりも幻のようだった。


 そして俺たちも…………





 目が覚めたら床の上で、戻ってこれたんだなとか、むしろあれは夢だったんじゃないかとか思えて。PC画面はいつも通り、ただ森の中に俺たちのキャラがいた。


 何となくアイテム欄を開くと思わず笑みが零れた。


 通信機:8人を繋いだ無線通信機

 梅太郎のおむすび:優しい青年の握ったおむすび


 確かに俺たちは彼処で一緒に戦ったんだ。



 END


 SpecialThanks

 昆布神様

 昆布神様宅

 茉友良さん、霧さん、満さん、梅太郎さん


 ありがとうございました!

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