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ディックマン・ブルース  作者: 富士山吉晴
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アルマジロアタック

 朝、鳥のさえずりを聞きながらおれは、モーテルの十三号室で食いかけのブリトーを齧っていた。ミートがこぼれ落ち、おれは小学生のように前を汚してしまう。壊れかけのTVはサッカーの試合を流していたが、よく観てみるとヤンシュワンク・マイエルのねんどアニメだった。おれの道徳観では、マイエルの映画は朝の放送コードに優に引っかかるはずだが、、、


 おれはねんどサッカーを観続けた。そして今日の計画が浮かんだ。 今日の指針とでも呼んでいいほどに、その閃きは啓示に満ち満ちていた。カーテンの隙間から朝日が射し込み、おれの心の奥底にある教会の鐘が鳴った。

 

 ファイアフィールドはよそ者を受けつけない町だ。おれはブラックタウンに向かった。6日、偶数日だ。おれに飛び込むセックスも、今日は容赦なく断ることとしよう。砂地を横切るハイウェイに沿って、おれはハーレーのスロットルを回した。天候は晴れ。太陽は異常に白い。おれの旅路を阻むものは何もなかった。


 今日の計画はこうだ。まず、ブラックタウンで赤い服を着た奴を探す。奴は女でも男でも構わない。そして言う。できるだけ不躾な態度で言う。奴はきっとおれを無視するか、一言呟いてとっとと消えうせるだろう。思う壺だ。すかさずおれは態度を翻し、奴に優しく接する。そして奴は言うだろう「そんなに優しくされたら後がこわいなぁ」って。後は推して知るべし。赤い服を着た奴等は情熱的だ。おれもいま赤い服を着ている。ポイントはここだ。決して相手が赤い服を着ているなんてことを匂わせないことだ。


「ヘイメーン。どこに向かってるんだい?」気のいいオージーがおれに聞いた。バイクはカワサキ。黄緑色のタンクにはキウイ鳥が描かれている。


 ダーン! ミスターキウイが戦線を離脱した。話したいことがおれにはまだ山ほどあったのに。


 見ればアルマジロだ。次から次へとアルマジロがハイウェイを転がって来やがる。おれはロールしながらその悪の権化に近づいていった。アルマジロの硬い鎧が、おれのレザーブーツを傷つけた。

 速度を上げた。そこには一匹のカンガルーがいた。悪意のない悪戯か? カンガルーなら仕方ない。おれはバイクを止め、やってはいけないことを躾けようとカンガルーを呼んだ。しかしカンガルーはおれに背を向け、まるで人が走るように砂漠の岩陰に隠れた。様子がおかしい。おれは駆け寄った。しかしカンガルーの姿はなかった。


 スポークのねじれたカワサキに乗って、ミスターキウイがおれのもとにやって来た。彼の身は死なずとも、カワサキの負傷は彼の心を深く引き裂いていた。「亀は我々を許さない、亀は我々を許さない」ミスターキウイは呪文をといて自らの怒りを鎮めた。彼の宗教観には今後も触れないつもりだ。


「見ろ! アルマジロが帰っていくぞ」おれは叫んだ。さっきおれたちを襲ったアルマジロの一行が、一列になって荒野の彼方に向けて進んでいった。おれはミスターキウイを後ろに乗せて、奴らの後を追いかけた。奴らはけっこう速い。

 おれの中の教会の鐘が昼の十二時を告げた。突如、おれたちの目の前に巨大なフラー・ドームが出現した。 アルマジロたちは仲良くドームに開いた小穴に入っていった。おれたちは恐る恐るドームに近寄った。ブーンとドームの正面が開き、ゆっくりと黒い影が現れた。あのカンガルーだ。ミスターキウイは威きりたった。


「ウェルカム!」 カンガルーが自分のチャックを下ろすと、そこには天才科学者バックミンスター・フラーの姿があった。

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