コパトーン
オーストラリアといえばパーマカルチャーとエコビレッジだ。おれはそう聞いている。土地は余るほどある。おれは買ったばかりのハーレー、ダイナ・ワイドグライドに跨った。色はクロムイエロー、円にして三十五万。どこにもハーレーのエンブレムは見当たらない。
ホテルの斜め向はエコショップだ。店頭にはパンノキが聳え立っていた。おれはそこで十数種もの種を購入した。むかうはファイアフィールド。エンジンは火を噴くほどに快調。空には赤い太陽。疲れ果てたカンガルーを禿鷹が容赦なく啄ばんでいた。汗は風に流れ落ち、隙を見せればおれも奴等の餌食になること必至だ。おれはそのデッドゾーンを駆け抜け、掘っ立て小屋が点在する荒野を突き抜けた。老人や子供、女までもがおれに手を振った。色とりどりのシュミーズが風に羽ばたく。おれはサテン地のそれが好きだった。女のほとんどは恐らく娼婦。長距離ドライバーが商売相手か?
黒いサマーコートを着た若い女がおれに手を上げた。女の引き摺るヴィトンのトランクがオーダーメードだとすれば停まってみる価値は十分にあった。おれはバイクを女から十五センチの位置に停めた。おれは女に笑ってみせる。そして女を取るか、トランクを取るかを考えた。女は髪金に飴縁のボストンサングラスがキマっていた。
女がおれに言う。
「ねえ、あんたを停めたんじゃないのよ。バイクじゃこれのんないし、ほんと、あんたの後ろ走ってたシボレー目当てだったのに」女はヴィトンのトランクを軽く蹴飛ばした。
それを聞いたおれはさらに強く、あらん限りの力でヴィトンをぶっ放した。すかさず女を抱えると、一秒、おれはもう飛び降りれないほどの速度までハーレーを加速していた。有無を言わせぬ説得力がおれの背中にはあった。荒野に咲いた巨大植物のそばでおれは女をやった。早漏ぎみのおれの背中が照りつける太陽に焦げていった。おれはさらに早く決着をつけた。女の腹に揺れるおれの精液はまるでコパトーンのようだった。
「ドクターJを知っているの?」女はおれの見せた夢の中からそう呟いた。
ドクターJはおれの主治医だった。しかし今はもうこの世にはいない。殺したのはおれじゃないが、実際おれが殺したも同然だった。あの夜、おれも何度か寛ぐことのあったラム革のソファーでJは発見された。Jの飲んだラムパンチは致死量だった。Jは一切酒をやらなかった。そこでラムパンチだ。明らかに選ぶ酒を間違えていた。「ジェイ、ジェイ、、、」女はまだ夢を見ていた。Jが死につつある時、おれは奴の女房と一緒だった。おれはもうJとは切れていると聞いていたのだ。昼夜構わずおれたちは交わった。そのときもそうだ。Jがおれに施したペニスは最高だった。仕組みは分からないがかなりのバイオテックで、女はおれから離れられなくなった。確かにおれも少し浮かれていた。そしてJは死んだ。Jが女房に惚れこんでいた事を、おれは知っていたのにだ。
女が目を覚ます前におれはバイクに乗った。ナイフのように照りつける日差しもコパトーンに熔けて、女の肌を傷つけはしないだろう。ハーレーが唸りをあげた。一秒ジャストでおれたちは赤の他人だ。女がおれを見つめていた。そのときおれは知った、近い将来、またこの女と再会するってことを。