エピローグ
皆様初めまして。自身初投稿作品になります。
誤字や読みづらい箇所がございましたらご指摘ください。
ズドドドドッッ、ガガガガガ
銃弾が飛び交う中、俺は森の中に密かに隠れていた。
2037年5月16日、東アジア統合連合国の日本国攻撃によって始まった、日東戦争。日本は自衛隊を正式に軍隊とし日本海沖では防衛線が、東アジアでは東アジア統合連合国の戦力を削ぐため自衛隊が攻めていた。
現在は2038年3月10日、俺は自衛隊特殊作戦群の隊員として東アジアで戦っていた。隠密部隊の狙撃手として。
「こちらアルファ、敵軍の指揮官は見つかったか?」
上官の声が無線から響く。
「こちらフォックス、敵の司令官は敵本部の最上階にはいるようですが、未だ姿はありません。」
俺は姿を現さない司令官に苛々しながら答える。
「フォックス、敵の司令官が出てきたら迷わず撃て。」
「了解です、アルファ。」
無機質な会話が途切れる。
俺は再びM24のスコープを覗き込み深く深く深呼吸する。
40秒ほど経っただろうか敵の司令部の最上階に人影が見える。スコープ越しに勲章を肩にずらりと並べた人物が映る。
スッと息を止め狙いを定める。このままではただただ時間が過ぎて行くだけだ。そう思い俺は引き金を引いた。反動を受けながらも次弾を装填し、またスコープを覗く。狙いを定めた場所の窓ガラスが割れていた。
"手応えはあった、これで統合連の勢いも少しは落ちるだろう"
その時後ろから物音がし、俺は素早く体を上向きにしながらP9を構え物音がした方に振り向く。
しかし遅かった。俺が敵を視認する前に銃声が鳴り響き腹から熱く燃え上がるような痛みが徐々に広がっていく。
"こんなとこで俺の人生は終わるのか…"
意識が遠退く中、違和感を感じる。何かが引っ掛かったよう感覚。それを感じながら意識が途切れた。
2014年10月10日、俺は日本国民として生を受けた。
名は天池音哉。両親は互いに音楽に携わる仕事をしており、息子にも音楽の道に入って欲しいと願い付けられた名だ。しかし、俺は中学時代FPSにはまり高校の頃にはミリタリーオタクになっていた。特に銃器が好きで、どうしても銃に触れる仕事がしたいと防衛大学に入った。その後、陸上自衛隊普通科に入り特殊作戦群に志願。地獄のような訓練を経て入隊した。戦争なんてやりたくもなかったが、始まってしまったものはしょうがない。俺は隠密部隊の一員として敵国に渡ったのだ。そして死んだ。いや、確かに撃たれて死んだはずなのに何故こんな思考をしているのだろうか、そもそも誰に説明しているのだろうか。違和感しかない。
○
「ん、なんだ?」
音哉はふと瞼越しに感じる光に驚き、自分の耳に確かに自分の声が聞こえる事を不思議に思った。
そして、ゆっくりと目を開ける。
「どうなってんだ?確かに俺は撃たれて死んだはずだ。」
自分の身体に異常がないか確かめつつ、迷彩服に穴が空いていることに気づく。
「やはり撃たれたのか。」
自分がなぜ行きているのか甚だ疑問だが、今は状況の確認と安全の確保を優先しようと周りを見渡した。
「全く見覚えのない場所だな、ここは…」
作戦前に配布された周辺マップを思い出し照らし合わせる。周辺マップは100×100kmで、撃たれた場所はマップの中央やや左側の森だった。ここはマップ上のどこでもない。更に今まで装備していた武器や携帯食料などが無くなっており、持っている物は何故かポケットの中に入っていた見たこともない金貨数枚と華やかな紋章が入った封筒だった。封筒を開けて見るとそこにはルーン文字が羅列されていた。読めるはずないと思っていたが頭の中に文字の意味が浮かび上がる。
'汝の魂世のために使いたもう、ささやかな贈り物とともに書を残す'
「どういう意味だ? とりあえず今敵に襲われたら、折角助かった命が無駄になる。なんとかして本隊に合流しなきゃな。」
日本軍の本拠地はマップの南東に位置した場所だ、太陽の位置から方角を判断して、出来るだけ南に行きそこから東に行こうと決めた。気配を探りつつ音哉はある事に気が付いた。
「身体が軽いな、俺の身体じゃないみたいだ。それにそこら辺の小動物の気配を明確に感じることができる。なんなんだこれ?」
自分の身体の異変に驚きながらも、ひたすら南に気配を殺しながら突き進む。すると、50m先にかなり巨大な気配を感じた。その周りに人間の気配がいくつかあるのに気づき、すぐさま木陰に身を潜めた。
ガキンッ、ガキンッ
そこには4mはあろうかという巨大な熊のような化け物と闘う4人の男女がいた。
「キーラ魔法を頼む!」
「オッケー! '炎弾'!!」
如何にも魔法使いといった出で立ちの少女が持つ杖から炎の球体が化け物に向かって放たれる。
「グガァァアアッッ」
熊の化け物は叫び声をあげながら体勢を崩す。
「今だホーク!!」
「あいよぉ! '槍牙'!!」
ホークと呼ばれた槍使いの槍の穂先が青く光り、化け物の胸を貫いた。槍を振り抜くと化け物はゆっくりと後ろに倒れる。
音也は熊のような化け物にも驚いたが、何より4人組の風貌が明らかに現代では見ることがないものだった為混乱した。
"ど、どういうことだ!!?俺は異世界にでも迷い込んだのか!?"
直後、こちらに向けられた殺気に気付き音也は飛び退いた。先程までいた場所にクナイのようなものが突き刺さる。
「……そこで覗き見してる奴…でて来い…」
まるで忍者の様な格好をした細身の女性が睨みつけてくる。
「まぁ、待て殺気は感じないし大丈夫だ。」
「…でも…こいつ変……」
「シノブも大概変だろ? 俺はクラウスだ。何のために覗き見してたんだ?」
クラウスと名乗った聖騎士がシノブと呼ばれた忍者を悟すと音哉に話しかける。
「いや…ただデカイ気配を感じたから来ただけで、覗き見しようってんじゃ… そもそも何故俺がここにいるか俺自身も分からないしな…」
音也がそう答えるとホークが少し考え、口を開く。
「見たこともない格好…ここがどこかもわからない…ふむぅ… 君はノルンの誘い人かもしれないな。」
「ノルンの誘い人って、100年に1人現れる異世界からの訪問者ってやつだよね?」
キーラが目をキラキラさせながら音哉を見る。
「私はキーラ! キーラ・エル・ウェストよ! あなたの名前は?」
「俺は音哉だ。天池音哉。」
「宜しく音哉! 改めて、俺はクラウス・アルジズ。
こっちがシノブ・トウゴウ、そしてホーク・スリサズだ。」
この4人は冒険者として周囲の魔物を駆除していたらしい、そこに突然音哉が現れたのであった。
"いやいや、ノルンの誘い人とか知らねーし。そもそも魔法とかヤバすぎだろ、ここどこだよマジで、何がきっかけで異世界に来ちまったんだよ、神様から選ばれるとかトラックに轢かれる演出はなかっただろうがぁぁあああ!!!"
音哉はポーカーフェイスを決め込みながら、内心では大混乱していた。
「とりあえず街まで案内しよう! これからどうするかは街で決めればいいさ!」
クラウスが陽気に話しかけてくる。
"落ち着け俺、とりあえず状況を整理して…"
「あぁ、ちょちょっとぉお!」
「さあ、行きますよ! 丸腰でこんなところにいたら何があるかわかりません!」
頭の中を整理しようとしたがキーラに腕を引かれ、そのまま連れて行かれる音哉であった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
作中登場するM24とは自衛隊が使用している狙撃銃です。また、P9は自衛隊採用の9m拳銃になります。




