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真戦組


 荒野に銃声が響く。その渦中にいて、ファルにはただの一発も被弾がない。遮蔽物はほぼ皆無なため、要するに四方八方から襲いかかる銃弾をこの男は回避しているのだ。


「バカな! 人間のスピードじゃないぞ!」


 最も、ファルの身のこなしについていけていない者の方が多いようではあるが。


「おいおい、おたくらそれでもあの名高い軍事国家の軍人かよ!? 俺ちゃん一人の動きも捉えられねぇなんてな!」


 ニヤニヤと笑いながらそう言い放つファル。その態度に小隊長クラスであろう兵士が頭に来たようだ。


「ナメやがって!! おい! ロケットランチャーをお見舞いしてやれ!」


 言うや否や、待機していた砲撃兵が現れ、次々とロケットランチャーを発射した。

 しかし、当のファルはまるで動じない。相変わらず不敵な笑みを浮かべたまま、迫り来るロケット弾に向かう。


「いいモンあるじゃねぇか! 使わせてもらうぜ!」


  そう叫ぶと、ファルはソードバンカーの剣を取り外し、そのまま鋭く投擲した。

 ブーメランのように激しく回転しながら真っ直ぐ飛ぶ剣が、一発のロケット弾を斬り裂く。 次の瞬間、残りのロケット弾共々誘爆し、ついでにその周辺にいた兵士を巻き込んだ。


「じ、冗談だろ……!」

「ところがドッコイ、事実なんだなこれが!」


 驚愕に打ちひしがれている小隊長の目の前にファルが現れた。ソードバンカーには既に新しい剣が再装填されていて、さらに炎を纏っている。


「た、退……!!」

『遅せぇよ! ブレイジング! ディバイダーァァァ!』


 灼熱の旋風を伴い、ソードバンカーを突き上げながら上空に舞い上がるファル。直撃した小隊長は元より、周りにいた兵士達も巻き上げて蹴散らす。

 残り火を引きながら着地するファルに、兵士達は身動ぎをするばかりだ。


「オイオイこんなもんか? もう少し楽しませてもらわねーと、俺ちゃん困るんだが?」


 --沈黙。あまりの出来事に兵士達は銃を撃つことすら忘れている。


「しゃあねぇなぁ……。そっちが来ねぇんなら、こっちから行かせてもらうぜ!」


 言いながら、ソードバンカーの剣をリロードし、ファルは再び兵士の群れに飛び込んで行った。


◆◆◆◆◆


 一歩ずつ前に進む。敵兵が後ずさる。引き金は引かれない。隊長クラスも何人かいるはずだが、どうやら隊長クラスも命令をすることを忘れてしまっているようだ。


「どうした? 軍事国家の兵士は敵に引き金を引くことも出来ないのか?」

「くっ……、クソ! 撃て! 撃て!」


 シークの一言で、まるで目が覚めたように小隊長の一人が指示を出した。

 慌てた様子で引き金を引くが、まともに狙いを付けられていない弾丸は当たるわけが無い。

 変わらずに一歩ずつ間合いを詰めるシーク。彼はゆっくりと右腕を上げ、拳を握った。

 火花を散らしてマグナ・ガンナックルの撃鉄が上がる。


「そろそろ決めに行くか……」


 その声と同時、シークが鋭く踏み込んだ。目の前に現れた敵に、その拳を叩きつけた。


--ドゴン!!!!


 深く重い炸裂音が響き、爆発と共に敵兵が弾け飛ぶ。間髪入れずに撃鉄を上げ、そばに居る敵を殴り飛ばし、また次の敵へ。


「な、なにしてやがるテメェら! 敵は1人だろうが! さっさと撃ち殺せ!」

「……軍人が、間合いの不利有利もわからねぇのか?」


 小隊長の取り巻きを全員吹き飛ばし、シークはそう言った。マグナ・ガンナックルの炸薬をリロードし、向き直る。ゆっくりと歩き出し近づく。

 銃を構える小隊長。しかし、シークから溢れ出る『圧』が、引き金を引かせてくれない。

 先程見せた踏み込みで、シークが間合いを詰める。


「この距離なら……!」


 全身のバネが縮み、破裂するように伸びていく。


「拳の方が強えんだよ……!」


 鈍色に光るマグナ・ガンナックルが、小隊長の鳩尾(みぞおち)を捉えた。


「さて、あらかた片付いたか?」


 リロードしながら辺りを見回すと、あらかたどころか戦闘が終了していた。周りに転がる死屍累々。五十人いた敵が全滅である。


「相棒ー! 一人逃がした! 多分そいつがリーダーだ!」


 ファルの声が響く。全滅には至らなかったらしい。--よく逃げ仰せたものだ。


「そいつはどっちに逃げたんだ? 相棒」

「それがなー! あっちの渓谷なんだ! 相棒の言った通りだぜ!!」


 ファルの返事を聞いて、シークは思わず笑ってしまった。まさかまんまと渓谷に逃げ込むとは。と言った所だろう。

 シークがファルに近づくと、何やらファルが落ちている武器を漁っていた。だが、どうも様子がおかしい。


「どうした?」

「ああ……。なぁ、コイツ見てみろよ」


 そう言って投げ渡されたのは、兵士達が使っていたアサルトライフルだった。まじまじとそれを観察するが、シークにわかったのは『軍事国家が正式採用しているアサルトライフル』と言うことぐらいである。

 彼が聞き返そうとしたタイミングで、ファルが口を開いた。


「ガワは軍事国家のアサルトライフルと全く同じなんだけどな、素材やらパーツ、弾丸に至るまでがパチモンだ。……キナ臭くなって来たぜ、こりゃ」


 ファルがこう言えるのは、彼が武器制作なども手がける人物だからである。そのもっともたる例がソードバンカーだ。


「てことは、逃げたヤツをとっ捕まえて、色々と聞かないとならないな」

「だな! 今頃縛り上げられてたりしてな」

「かもな。なぁに『アイツ』なら下手打つこともないだろ。ゆっくり行くとするか」


 手に持っていたアサルトライフルを放り投げ、シークとファルは渓谷に向かって歩き出した。


  ◆◆◆◆◆

 

「はぁ……、はぁ……。き、聞いてねぇぞ? あんなバケモノみたいなヤツらが来るなんて聞いてねぇぞ!?」


 息もたえだえに、男は渓谷の中を走る。とはいえ、しばらく走り続けているので、現在の速度はジョギング程度だ。


「さ、さすがにもう、追って来ねぇだろ……」


 ちょうど渓谷の真ん中辺りと言う位置で、男は足を止めた。膝に手を付き、腰に下げている水筒から水を飲む。しかし、呼吸が収まるには、まだ少し時間がかかりそうだ。


 --と。


 キュイイイ……ン。


 男の耳に、か細い機械音が届いた。まだ頭に酸素が回り切っていないため、なんの音か詳細は謎だが『ヤバい音』ということだけは本能的にわかった。


 その刹那。


 --ヴゥゥゥゥ! ヴゥゥゥゥ!


 まるで魔物の咆哮のような、激しい『発砲音』が二度、渓谷に木霊した。次の瞬間には男の進路と退路を囲む形で、渓谷の岩肌が崩れ落ちていた。


「んな……!?」


 周囲を見渡し、絶句する男。彼が呆気に取られていると渓谷に凛とした女声が響いた。


「まさかシークさんの言う通りになるとはねー。こういう敵を間抜けって言うんだよなー」


 男が声のした方に視線を移すと、そこには大型ガトリングガンを構えた小柄な女性がいた。

 セミロングの黒髪、丸メガネ、黒のコート。インナーは黄色のシャツのようだが、ボトムは黒のカーゴパンツ。ブーツまで黒。背格好から一見すると少女のようにも見えるが、そんな事は無さそうだ。

 --そもそも、今彼女が構えている武器がエグい。


「て、テメェ! 一体何モンだ!」


 男は崖の上でガトリングを構える女性に、持っているアサルトライフルの銃口を向けた。


「あー……、それ今撃つの、やめといた方がいいんじゃないかなぁ」

「なんだとこのアマ!」


 そう言われたのが癪に触ったのか、男はアサルトライフルのトリガーを引いた。だが、


 --ガキン!


 金属同士が噛み合う音がして、男はアサルトライフルに視線を移した。すると、薬莢が排出される穴に、弾丸が詰まっているではないか。


「な、なに?」

「だぁから言ったじゃあん。それパチモンでしょ? 本物ならこの環境下でも撃てちゃうけど、パチモンじゃあねぇ」


 そう言いながら崖から降りてくる彼女。ガトリングが背負われているが、今度は右手にサブマシンガンを構えてる。

 一体何丁持っているんだろうか。


「く、クソ!」

「抵抗しないでよー? 色々面倒な事はしたくないんだよねぇ」

「……バケモノか、てめぇ……」

「失礼だなー。あたしにはちゃあんと新月って名前があるんだけどなぁ」


 その名を聞いて、男はハッとした。そして絶望した。自分たちが相手をした連中は、どうやら本当にバケモノ達だったらしい。


 --そして、さらに男に不幸が訪れる。


『ファフニール! ロアーあああ!』


 どごぉおおん!


 叫びと爆音が響き、背後の岩が砕け散る。砂埃の中から現れたのは、シークとファルだった。


「よーう妹殿ぉ、首尾はどうだー?」

「なんだ、新月。抵抗したのかそいつ」


 男の顔面が蒼白になる。そう、コイツらは……


「し、真戦組……!」


 男が絶句する。命があるのが不思議なくらいだ。


「アニキー、シークさーん、今から縛り上げるとこなんだよねー。手伝ってもらっていい」


 最早抵抗しても無駄だと悟り、男は絶望の中縛り上げられた。まるでミノムシである。

 残された自尊心を絞り出し、男が口を開く。


「ど、どど、ど、どうするつもりだ」


 声が震えている上、所々しゃくれている。情けないばかりである。

 その声に答えたのはシークだった。


「ちょいとばかし聞きたいことがあるんだ。少し付き合って貰うぜ。

 レイ。聞こえるか?」


 彼が耳に手を当てながらそう言うと、爆音と共に飛空艇が飛来した。クラスとしては中型だが、その機動力は小型のそれと変わらない。

 この飛空艇の名は『レイディアント・ロマンス』。彼ら真戦組の、移動拠点である。


「おっまたせしましたマスター! すぐに転送しますか?」


 わざわざ船外スピーカー大音量で聞こえてくる少女の声。滞空飛行している飛空挺のエンジン音すらかき消す勢いだ。


「おつかれーい、レイちゃーん! このミノムシ独房に転送しちゃってくれー! あと『アイツら』に仕事だって伝言も頼むー!」

「了解であります! ファル兄さま!」


 元気な声が返ってきたかと思うと、レイディアント・ロマンスから光の柱が降りてきた。それが、ミノムシ状態でじったんばったんする男を包み込む。

 すると、男の身体がゆっくりと浮き上がり、徐々にレイディアント・ロマンスに吸い込まれていく。


「な、何するつもりだテメェら! やめろ! やめ--」


 次の瞬間、男の姿はテレポートするかのように消えて行った。


「さて、とりあえずは一段落だな」

「おう! 俺ちゃん達も戻って、メシにすっか!」

「やたああ! アニキのメシだー!」

「では、マスター達も転送しますね!」


 言われて、シーク達もレイディアント・ロマンスの船内に転送されて行った。


 ◆◆◆◆◆


 --暗転し、混濁した意識がハッキリとしてくる。だが、感覚でわかった。天地が逆転している。

 相変わらず身体中が締め付けられている感覚はあるので、今の自分は本当にミノムシ状態だ。


「くそう、なんで俺がこんな目に……」


 涙を流しながら独白する。おそらくここは、真戦組の飛空艇の内部なのだろう。しかもご丁寧に独房だ。


 --と。


 バシャン!


「うお! 眩しい!!」


 真っ暗闇の中、急にフラッシュライトが光る。そして、そのライトを背に仁王立ちする人影が。身体のラインからして女性だろう。


「ようこそようこそー。私は真戦組壱番隊のヒカ! これから、あなたをイジめる人よ!」


 逆光のせいでよく分からないが、男にはヒカがドヤ顔をしているのが何となくわかった。


「そして、ライト係が!」

「え、自己紹介するんですか? 今それいります?」


 こちらも暗くて分からないが、ライトの後ろに人がいるんだろう。こちらも女性らしい。


「いる! いるよー! 私知ってもらいたいもん!」

「仕方ないなぁ。同じく壱番隊のセレーネです。さ、さっさとやっちゃいましょ」


 目が慣れてきて気づいたが、ヒカはライトブラウンのベリーショートで、セレーネは蒼白の長髪をうなじで纏めているようだ。

 ヒカは丈の短いジャケットに、黒のインナー、ホットパンツにヒールのあるロングブーツ。セレーネは白っぽいジャケットに青のインナーとスラックス。そしてハイネックスニーカーと言った服装だ。

 随分とファッショナブルだが、先程紹介していたようにこの二人も真戦組。こと戦闘に関しては、プロなのだろう。


 セレーネに促され、ヒカが何か棒状の物を二本持ってきた。形状から察するにスタンロッドだろう。


(へ、へへん! こちとら痛みに耐える訓練はしてきてるんだ。そう簡単に心折れてたまるか!)


 胸中で叫び、自尊心を保つ哀れな男。彼の目の前で、ヒカがお決まりのようにスタンロッドを交差させるが、何やら様子がおかしい。

 普通ならここで、バチン! だの、ビリビリ! だの、激しい音と光が出るはずだが、ヒカの持つスタンロッドは、チリチリチリチリ。と、静かに音を出すくらいだ。


「な、なにを……!」


 思わず出た声に、ヒカが悪い笑みを浮かべながら嬉々として答えた。


「これはねー、新月ちゃん特性、電撃くすぐり棒ー! 知ってる? 拷問って、痛めつけるだけじゃないのよ?」


 言いながら、その電撃くすぐり棒とやらをこちらの頬に近づけてくる。微妙な電撃が非常こそばゆく、彼は思わず笑い声をあげてしまった。


「は、ははははっ! や、やめろ! こそばゆい!」

「やーめーまーせーん! 色々オハナシ聞かせてもらうまで、ずーっとコレ当ててやるんだから!」

「んな!? じょ、冗談だろ!? は、ははははっ! ひぃーっひっひっ!」


 笑ってはいるが、男の心中は絶望一色しか無かった……。


(楽しんでるなー、ヒカさん)


 二人を生暖かい目で眺めながら、セレーネは胸中でぼやいた。何となく眠いし空腹感もあるので、早く終わらせてしまいたい。すると、


「ごっはんー、ごっはんー、アニキのごっはんー。今日のメインはなんだろなー。お魚!? 野菜!? それともお肉!? 個人的にはお肉がいいなー。」


 廊下に響く謎の歌。歌声の主は間違いなく、真戦組壱番隊隊長、新月だろう。

 セレーネは大きくため息をつくと、バタン! と独房の扉を開けた。その瞬間、わかりやすい驚いたポーズをとっている新月と目が合う。


「びっくりしたー。どしたのセレちゃん?」

「どしたのじゃないですよ。隊長、あなたそのままキッチンに行くつもりじゃないでしょうね?」


 半目からジト目になり、セレーネはそう詰め寄った。思わず後ずさる新月。

 セレーネから醸し出されるプレッシャーに気圧されながら、新月は口を開いた。


「う、うん、そのつもりだったよ? アニキのご飯早く食べたいし」


 それを聞いたセレーネが再び大きなため息をついた。顔まで抑えて、完全に呆れているようだ。

 彼女はキッと新月を睨むと、詰め寄りながらまくし立てる。


「あのね隊長。あなたさっきまで荒野のド真ん中でアンブッシュしてたんでしょう? 土ぼこりだらけじゃないの? そのままご飯食べるとなると、美味しいファルさんの料理とか、美味しいお酒に埃入るわよ? 美味しい料理が、それでダメになるの、イヤですよね?」

「う、うん……」


 セレーネの物凄い剣幕に押され、新月は廊下の壁に追い詰められた。さらに逃げられないように両手で壁ドンされる。


「き、今日は大胆だね、セレちゃん?」

「話をそらさない!」


 ピシャリと言われて、新月は押し黙った。こうなった時のセレーネ は、最早なにを言っても聞くことは無い。


「イヤなら、ちゃんとシャワー浴びてください。なんならお風呂にも入ってください! いいですね!」

「は、はぁい」


 セレーネの言葉にそう答え、新月はそろーりそろりと大浴場へと踵を返し、そそくさと歩いていった。

 それをしっかりと、しっかりと見送り、セレーネは独房に戻った。すると、


「わかった! わかったから! 言う! 俺の知ってる情報は全部言うから! も、もう勘弁してくれぇえええ!」

「えー、ざーんねーん。も少しイジめたかったなー」


 ヒカの発言はともかく、こちらもまもなく仕事を終われそうだ。セレーネ自身、はやいとこ終わらせて、ファルの手料理を食べたいところではある。


「では、話して貰いますよ。あ、虚偽発言はしないでください。録音もするので、そのつもりで」


 そう言って、彼女は録音ボタンを押し、視線で発言を促した。


「とりあえず、まずはせめて降ろしてくれ。逆さ吊りのまんまだと、思い出せるモンも思い出せねぇ」

「……いいでしょう。ヒカさん、降ろしてあげてください」


 はーい。といつもの調子で答え、ヒカは男を吊っているロープを切った。

 痛そうな音を上げ、彼が落下する。


「では、本題を」

「いつつつ、もうちょい優しく降ろしてくれよ。……まぁいいか。えーっと、どこから話せやいいか」


 しばし考え、男はゆっくりと、事の経緯を話し出した。


 ◆◆◆◆◆


 昨日、荒くれの国こと『シュリアメス連合』の強欲の街『マモン』にて、会合があった。男はそれに呼び出され、言われるままに、軍事国家『レウセイ』の軍用装備一式のニセモノを受け取った。

 そして今朝、それを着て隊列を組み、荒野を走っていると、シークとファルの真戦組零番隊に襲撃され、今に至る。

 中央にまとまって走っていた兵員輸送車には『何か』が積んであったようだが、男はその中身は見ていないらしい。


「と、言うことだ。傭兵皇帝殿」


 レイディアント・ロマンスの艦長室で、シークはタブレット端末に映る女性にそう言った。

 いわゆるデブリーフィングというやつだ。


「……なるほど。その情報はともかく、仕事自体はきっちりこなしてくれたようだね。ご苦労さんだよ」


 姉御肌。というのがふさわしい口調で、タブレットに映る女性はそう言った。


 彼女の名は、バニキス・ロスベルク。真戦組五人が籍を置く、北方の傭兵国家『パシ・ヘスタ』を統べる女傑である。

 紫の髪と、それに映える整った顔立ち。そして、身に纏うブラックミスリルで造られた騎士鎧が印象的だ。


「捕虜の処遇は、あんた達に任せる。報酬も全額入れておくよ」

「ああ。よろしく頼む」

「また何かあったら連絡する。じゃあ、国で会おう」

「わかった」


 シークからの通信を切り、バニキスは息をついた。


「息を着くとはどうしたでござるか? 皇帝殿?」


 わざとらしい『ござる口調』で、バニキスの横に立っていた、侍姿の男が口を開いた。

 彼の名は、平岡隼刃郎平助(ひらおかしゅんじんろうへいすけ)。バニキスの古くからの友人であり、彼女の側近だ。


「ちょっとシュリアメスの動きがキナ臭くてねぇ……。平助、舞い込んでくる依頼には、目を光らせて置くんだよ」

「わかったでござるよ。怪しい依頼があったら、稼ぎ頭で実力のある、真戦組と『鬼』に優先して送るでござる」

「頼んだよ。……なにもなければいいがねぇ」


 バニキスの胸中に、僅かではあるが不安の種が撒かれた。


 --そして、彼女の抱いたその不安は、後に芽吹くこととなるのであった。



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