護衛
○月×日
魔王様がどこからか音楽が鳴る魔道具を持ってきた。
どこの情報なのか見当もつかないが、植物に音楽を聞かせると良く育つらしい。騙されているのではないだろうか。
どうやらマンドラゴラに聞かせるらしい。あいつらの耳はどこだろう。そもそもあるのだろうか。
耳があったら引き抜かれた時の叫び声で自分自身も死んでしまう気がする。言うべきかどうか迷ったが、耳があるかもしれないので、何も言わなかった。
なお、今日は初めて冒険者ギルドの仕事を受けることになった。
朝っぱらから宿屋に受付女がやってきて、仕事が入った、と言ってきた。いきなり部屋に入ってくるから、驚いて歯磨き粉飲んだ。あとで仕返す。
隣町まで行って教会のシスターをこの村に護送する依頼だった。依頼主は教会の爺さん。
旅費込で五万エンだ。これは高いのか安いのかわからない。
隣町まで大体二日掛かるらしいので、往復で四日。シスターも準備とかあるだろうから二、三日は見た方が良いかもしれない。一週間は掛かるだろうか。日給にして一万エンないのは微妙な気もする。
護衛はともかく、町の場所を知らないと伝えると、知っている人と一緒に行けば良いのでは、と受付女に言われた。
仕方ないのでヴァイアに付いてきてもらうことにした。かなり渋ったが、誰のおかげで魔法が使えるようになったのかを説明して、私に借りがあることを遠回しに伝えたら快く引き受けてくれた。泣いてたけど気にしない。
魔王様に一緒に行きますかと聞いたら、マンドラゴラの世話があるから、と断られた。
ポチも一緒に行こうと言ったら、ウェイトレスの仕事があるので無理、と即答された。無表情だけど、ウェイトレスの仕事がそんなに好きなのだろうか。
なんというか、魔王様もポチも薄情だ。魔王様はともかく、ポチにはお土産はない。
スライムちゃん達は連れて行こうと思ったが、念のため、魔王様の護衛という形で村に置くことにした。掃除でもしていてほしい。
準備は終わったし、今日は早く寝て明日に備えよう。
そういえば、受付女に漫画の感想を伝えた。魔族にはまだ早い、と。あと、公爵令嬢どうなったのか、と。
時代の最先端として、魔界で普及しておいて、と言われた。嫌だ。というわけで、次元収納に封印した。
公爵令嬢は、第二部の主人公として、婚約破棄物というジャンルを書くらしい。また、読んでほしいとのことだった。ギルドの依頼書に張り出せ、と伝えた。仕事なら、読んでやらんこともない。
明日は早いので、もう寝よう。
――――――――――
「植物に音楽を聞かせるとよく育つのですか?」
リアは首をかしげながら聞いた。
「初めて聞きましたね。肥料を良くしたり、魔法を使ったりしたほうがよく育つ気がしますが。というか、植物に耳がないですよね」
「一体どこの情報だよ。魔王、騙されてんぞ」
「そうなのかの? 理由は知らんが、魔界ではそう言われているのだがのう」
「……私も詳しくは知らないが、一定の周波数が植物に良い影響を与えると聞いたことがある。周波数というのは――」
「植物ということは、食べ物なら、味が良くなるのか?」
フェレスが食いついた。そしてリアもそれに乗っかった。
「ピーマン! ピーマンに聞かせましょう! 苦さを抑えて甘くなってほしい!」
「それはもう違う何かだろうが」
「魔界では作物があまり育たないので、迷信と言われていても可能性があるなら何でもやっておるのじゃよ。農作物に音楽を聞かせているのは魔界ではどこでもやっておるのう。ただ、味はどうなんじゃろう? 育ちがよくなっても、味が良くなるとは聞いたことはないのじゃが」
「駄目ですか……ニンジンは克服したのですが、ピーマンだけは駄目なのです。これで聖女の座を下ろされたりしたら、聖母様に顔向けできない……」
「リア、ピーマンが苦手なら、味がわからない程度にものすごく細かく刻んで食べるという手がある」
リアは驚いて、フェレスを見た。リアの顔には、「そんな手があったのか!」と書いてあった。
「フェレスさん。聖人教に入信しましょう。ピーマンを克服した方として聖人候補にどうでしょうか。えっと、ピーマン王になるのかな?」
「そんな王は嫌だ。それに一応、冒険王、と言われているしな」
「残念です。ピーマンの件、確認したら、経典に乗せるように便宜を図りますので」
「いや、そんなことしなくていい」
リアはニコニコしながらメモ帳に書いていた。
「なぁ、聖人教って何してる宗教なんだ?」
ルゼは聞いてみたが、その答えはリア以外だれも知らないので答えられなかった。




