仕事
〇月×日
仕事が決まった。
魔王様は村の開墾、私は酒場のウェイトレスだ。
魔王様は森を切り開いたり、畑を耕したりするらしい。
なぜか魔王様はすごくうれしそうだ。木を切ったり、畑仕事をしたりするのが好きなのだろうか。
私は、宿屋の一階が食堂兼酒場になっているので、そこのウェイトレスをする。主な仕事は掃除と給仕だ。
夕方から夜にかけての仕事だが、夜はまかないが出るし、悪くないと思う。
しかし、ウェイトレスを舐めてた。かなりきつい。
給仕している料理は食べてはいけないらしい。
さらに料理がおいしそうなのがイラっとする。拷問だ。
よくみたら、宿屋のおかみさんは『料理』スキルLV4だった。天才か。
さらに今日はなぜか村人が多く集まって、売り上げが良かったらしい。忙しくなるから来ないでほしい。
それに給仕の時に着るこの服はかなり嫌だ。スカートだし、ヒラヒラも多い。
いつも着ている執事服にエプロンじゃだめなのか、と宿屋のおやじさんに聞いたら、絶対にダメだといわれた。絶対にダメなのか。
なぜか魔王様にも、是非、着てほしいといわれた。すごく嫌だが、魔王様の頼みならしかたない。
とりあえず今日は問題なく終わった。つまみ食いはしていない。
魔王様のほうも問題なかったようだ。
今日は畑仕事だったようで、いつか何か植えたい、とか言ってた。
これは私が何か用意しておかないといけない。出来る女をアピールするのだ。
明日からも大変だし、今日はもう疲れたから寝よう。
そういえば、リンゴの残りがやばい。どうしよう。
――――――――――
「アール様は畑仕事が好きだったりしますか?」
「したこともないの」
「爺、働けよ」
「魔王として働いているんじゃが」
「畑仕事が好きだった魔王はいらっしゃいますの?」
「歴代魔王の情報はあるのじゃが、個人的な趣味までは伝わってないの。ちなみに儂は釣りが好きじゃ」
「聞いてねぇよ。じゃあ、筆者の方はどうだ? ウェイトレスをしていた魔族」
「1000年前でウェイトレスとなると、あり得んのじゃが。最近では珍しくもないのじゃがの」
現在は多くの魔族も人界に住み、人族のルールに従う形で色々な仕事についている。冒険者もいれば、商売をやっている魔族もいる。
「……時代背景は問題なさそうだが、『魔王様』の部分がどうしても信憑性がないようだな。しかし、日記とはそもそも妄想の産物であるという――」
「じゃあ、この宿屋のおかみさんから判断するのはどうだ? 料理LV4なんて珍しいだろ?」
「確かに多くはありませんが、LV4なら未申告も含めればおそらく何人もいますよ。特定は難しいかと」
スキルLV4以上は、国に申請することで定期的に報奨金をもらえる。優秀な人材を確保することは国力を上げることになるため、各国は色々と便宜を図っているのだ。
「LV5ならどうですの?」
「それなら少ないですね。ただ、このおかみさんとやらが、LV5になった描写はありませんし、LV5になっていたとしても、特定は難しいと思いますよ。せめて名前がわかれば特定できるのですが」
「結局、村については、まだ何もわからないということですか?」
「まあ、そうじゃの」
「他に分かったことは?」
「魔王はスカートでヒラヒラの服が好き?」
「冤罪じゃ」
「爺じゃねぇよ」
「まあ、実は好きじゃが」
「なにカミングアウトしてんだ。ぶっとばすぞ」
「私も手伝いますわ!」
ナキアは聖剣の鞘に手をかけ、いきよい良く立ち上がった。
「座っとけ。というか、縦ロールはさっきからおかしいぞ。かなり好戦的だし。いきなり戦いを仕掛けたら迷惑だろ」
フェレスは「え? おまえがそれ言うの?」という顔でルゼを見たが、ルゼは気づかなかった。
「それが不思議なのですが、ちょっとしたことで戦いを仕掛けたくて、ウズウズするのですわ」
「ナキア様は戦闘狂ですが、普段からそんな感じ……ではないですよね? 魔王アール様がいるから気分が高揚しているのでしょうか?」
「分かりませんわ。でも、なんというか聖剣がイライラしているというか」
ナキアは聖剣を鞘から抜いて、じっと見つめた後、首を傾げながら鞘に戻した。
「おいおい、聖剣のせいにするなよ」
「……いや、聖剣には意志があると言われているのだ。物理的に現象を起こせるほどではないが、所有者の意志をある程度、誘導できると言われている。このことから聖剣ではなく魔剣ではないかという――」
「もしかして意志を持つ剣だったりするのか? 今度でよく見せてほしい」
武器オタクのフェレスがうれしそうに食いついた。意思を持つ剣、というものは確かにある。ただ、すべて国宝級の武器であり、見ることすら叶わない。
「いいですわよ。聖剣の声なんてものは聞いたことありませんけど、とりあえず、自重するように気を付けますわ。でも、ルゼさん、アール様をやるときは言ってくださいね」
殺された理由がスカートのヒラヒラが好きだったから、ではダメな方の意味で歴史に名を残しそうじゃ、とアールは思った。




