ソドゴラ村
〇月×日
今日は魔王様と村を見てまわった。ソドゴラ村という名前らしい。
人族が全部で50人ぐらい。森を横断するための休憩地点が少しずつ開拓されて村になったとのことだ。
森を挟んで東西に町があるらしいが、森を迂回して北の山を登ったり、南の海を渡ったりするよりは、森を突っ切る方が安全で早いらしい。
村には広場や、今泊まっている宿屋、雑貨屋や冒険者ギルド、教会等の施設があって、それ以外はほとんど民家だ。
商人がよく通るので、意外と物流は良いらしい。
畑で食べ物を作ったり、近くの川で魚を捕ったりとそれなりに自給自足もできるようだ。魚うまい。
魔王様は、こういうところでのんびりくらしたい、とか言っている。
以前言っていたアトラクション型ダンジョンというのをこの辺に作る気だろうか。
それよりも問題はお金だ。しばらくは大丈夫だが、宿屋に支払うお金を何とか得なくてはならない。
魔王様が言うには、冒険者ギルドで仕事を斡旋してもらえるとのことだ。
冒険者といえば、魔物を狩ったり、薬草をとってきたりするのだろうか。なんとなく楽しそうだ。明日はギルドにいって冒険者になろう。
――――――――――
「あのー、ソドゴラ村って知らないのですが、有名ですか?」
「……すまんが、私の知識を持っても知らない名前だ。そうだな、少なくとも現在は存在しない村だ。ただ、村というのは――」
「わたくしも知りませんわ」
「俺も知らないな」
「儂、人界のことはほとんどわからんの」
「あれ? ルゼさんとスタロさんはなにか御存じですか? なにか考え込んでいますけど」
ルゼとスタロの二人は眼を瞑り、なにか考え込んでいる。
「いえ、聞いたことはあるのですが、何だったか……。すみません、思い出せません」
「俺もなぜか知ってるんだよな。なんだったかな? メガネはどこで聞いたんだ?」
「メガネって私のことですかね?」
スタロはメガネをクイッと持ち上げて、ルゼに聞いた。
「ほかにメガネをかけてるやついないだろ?」
「せめて市長とかに……」
「面倒くさい」
「そうですか……」
スタロは諦めた。ルゼに言っても時間の無駄だと判断したのだ。
「聞いた話というよりは、本かなにかで見たような気がします。誰かの出身地だったような」
「俺もそんな感じだ。誰かのプロフィールを見て覚えていた気がする」
「なんじゃ、それでは村のこと自体はよく知らんのじゃな」
「あ、そうなるな」
「しかし、誰かの出身地ということであれば、どの辺にあったかもわかるかもしれません。思い出せるように頑張りますよ」
ストロとルゼの二人は、また考え込んでしまった。
「じゃあ、二人以外はほかのこと考えよう」
「あ、アトラクション型ダンジョンというのが気になります! きっと楽しいダンジョンですよ!」
リアはニコニコしながら発言した。
「楽しいかどうかはともかく、ダンジョンを作るなんて簡単なのか?」
「簡単ではないが、魔族なら『ダンジョンコア』を使ってダンジョンを作ることは可能じゃの。以前、言ったと思うが、この部屋もそれで作っとるよ」
「アトラクション型というのはなんですの? 引き寄せる型?」
「アトラクションの意味としてはそうじゃが、儂にもわからんのう」
「きっとアレですよ。落とし穴があったり、大きな岩が転がってきたり、ヘビがいたり、ハラハラドキドキなダンジョンですよ!」
リアはジェスチャーを加えて楽しそうに言った。
「普通のダンジョンもそういう感じなんだけどな」
「じゃあ、かわいい動物がいたり!」
「ダンジョンには魔物しかおらんのう。儂は魔物もかわいいと思うが」
「うー、じゃあ、ほかになにがあるんですか!」
リアはちょっとご立腹だ。
「普通、アトラクションといったら遊園地みたいなものですわね」
「遊園地! 行ったことないです! 行ってみたい!」
「乗り物が魔力で動いていますのよ。空を飛んだり、高速で動いたり、結構楽しいですわ」
「あー、あれな。魔術師ギルドのやつらが魔力供給で協力してんだよ」
ルゼは思い出すのを諦めたようで、話に加わってきた。
「いいなー。乗りたいなー。聖人教の権限で視察しちゃおうかなー」
「だから問題発言すんな。ほら、これやるよ。遊園地の一日フリーパスチケット。休暇の日にでもいけ。――聖人教に休暇という概念があるのかは知らねぇけど」
ルゼはポーチからチケットを取り出すと、リアに渡した。
「良いんですか! か、返せって言っても返しませんよ!」
「いいよ、やるやる。何枚もあるし」
その言葉を聞いて、フェレス、アール、ナキアの3人が静かに手を出した。
「え、お前らもほしいのか? 縦ロールはともかく、爺とおっさんはいらねぇだろ。あれ、女子供用だぞ」
「魔界に似たようなものを作ってみたいのじゃ。視察じゃな」
「純粋に乗ってみたい」
「まあ、良いけどよ。ほれ」
ルゼは、3人にもチケットを配った。
「メガネと教授はいるか?」
「……いや、私には必要ない。遊園地を調べることはあるが、乗り物にはのらないのでな。そうそう、遊園地の起源は――」
「迷宮都市と遊園地のある都市は、友好都市なのです。そのおかげで、私自身がフリーパスですから不要です」
ルゼは、「ふーん」と言いながら、円卓に散らばったチケットをまとめて、ポーチに入れようとした。
「でも、ルゼさんは、なんでそんなに券をもってるんですか?」
リアは大事そうにチケットをポーチにしまいながらルゼに聞いた。
「さっき言ったろ、魔術師ギルドのやつらが魔力で動かしてるって。俺もそこで仕事したことがあるんだよ。その関係で、チケットをタダでもらったんだ」
「わぁ、ルゼさん、ちゃんとギルドの仕事もしてるんですね!」
「喧嘩売ってんのか」
「でも、なんで何枚もあるんだ? そんなに仕事したのか?」
フェレスはルゼが持っているチケットの束を見つめて尋ねた。
「あー、実を言うと、俺がやった時、ちょっとやりすぎてなぁ。もう、魔力の供給には来ないでくれって言われた。この券はその取引みたいなものだな。あ、出禁じゃないぞ。チケットも貰ったし、遊びに行くのは問題ないねぇよ」
券の枚数から見ると、ちょっとではなく、それはもうやりすぎたんだろうな、と、皆が思った。