世界樹
〇月×日
魔王様はクマとヘビを狩ってきた。違います、魔王様。
肉の種類に不満があったわけじゃない。ずっと肉なのが嫌なのです。太る。
もしかして忠誠心をためされているのだろうか。笑止だ。
こんなことで魔王様に対する忠誠は揺るがない。ちょっともやっとするだけだ。
森のことを聞いてみたら、魔王様はどうやら世界樹に行きたいらしい。
理由を聞いてみたが、ちょっと用がある、としか答えてくれなかった。まさかとは思うが、観光だろうか。
かなり大きい木らしいが、見て面白いとは思えない。
ただ、果物とかなっている木なら私も見たい。もっというと食べたい。
さらに魔王様に世界樹のことを聞いてみたら、世界樹といえばエルフ、らしい。
ああいうところにはエルフがいるとのことだ。
エルフは他の種族とあまりかかわらず、閉鎖的で長寿な種族だそうだ。引きこもりだな。
ただ、エルフは木に傷を付けたり、勝手に森の恵みを取ると怒るらしい。長寿だから百年単位で。面倒な奴らだ。
――――――――――
「黙れ」
ルゼはいきなり、フェレスにそう言った。
「何も言ってない」
「おっさんが、肉についてなにか言う気だったのはわかっているから黙れ」
フェレスはちょっといじけた。
「世界樹ってエルフが守っているアレだろ。見た事はねぇけど」
「あ、私、見たことありますよ。以前、エルフの皆さんから招待されて。天まで届きそうな大きな木でした」
リアは身振り素振りで木の大きさを表現した。
「誇張しすぎだろ、チビスケ。それなら世界中から見えるじゃねぇか」
「チビじゃないですー、それに木は大きかったですー」
リアは頬を膨らませて怒っている。普段礼儀正しい彼女もチビといわれると怒るのだ。
「……世界樹は特殊な魔法がかけられていると言われていて、森の中以外では存在を認識させないことが可能だそうだ。その仕組みは学者たちの永遠のテーマで――」
「へぇ。特殊な魔法なのか。そりゃ俺も見てぇな」
「魔術師ギルドで話題になったり、自分で行ったりしたことはないのかの?」
「ギルドのことは知らねぇなぁ。ギルドの連中と仲良くねぇし。エルフの森には、昔行ったけど、火の魔法使ったら出禁にされたしなぁ」
ルゼはそう言い終わると首を傾げた。
「ちょっとまて、あいつら百年単位で怒るのか?」
「やーい、ルゼさんはもう見られませんねー。私はまた見せて貰おうっと」
「うれしそうに言うんじゃねぇ、チビスケ。いいよ、ギルドの奴らを脅して調べさせるから」
物騒だがルゼならやりかねない。皆、冗談としてとっていいか迷った。
「コホン。ほかに世界樹をみたことがある方は?」
スタロがわざとらしく咳をした上で皆に質問した。
「わたくしがありますわ。勇者認定の儀式で世界樹にいきました。リアさんのいうとおり、天にも届きそうな木でしたわ。儀式優先で見る時間があまりなかったのが残念ですが」
「ですよねー、さあ、ルゼさん、誇張しすぎなんて言葉は撤回して、謝ってくださいね!」
リアは嬉しそうに胸をそらしている。ちょっとドヤ顔だ。
「わかった、わかった。誇張しすぎと言って、悪かったよ。これで良いか」
「はい、良いですよ! 私は心が広いし大人ですから、許してあげます!」
リアはニコニコしながら誇らしげな顔になった。
ルゼは心の中で、お子様だ、と思い苦笑した。
「あー、フェレス様、なにか発言したいのならどうぞ」
さっきから静かにしているフェレスにスタロが聞いた。
「黙れと言われたけど、そこまで言われたら発言しようかな」
「『そこまで』はいってねーよ。あと、肉の話はだめな」
フェレスは残念そうにしたが、何かに思いついたように質問した。
「じゃあ、日記にもあるけど、世界樹に果実ってなるのか? 食べると死んでても生き返る、みたいなすごいものだったりするのか?」
「また、食べ物の話かよ」
「冒険者だからな」
ルゼは、一瞬答えに納得しかけたが、冒険者が関係あるのかと疑問に思った。
「私が見たときはなかったです」
「わたくしも見ていませんわ。時間がなかったのもありますが」
「……世界樹に果物はならない。あれは実は木ではない、という説もある。エルフたちが協力を拒むので調査が進まないが、我々学者は―――」
「なんだ。世界樹って、無駄に大きいだけか」
フェレスはがっかりしながら呟いた。ほとんど興味を失っているようにも見える。
「おっさん、エルフに聞かれたら殺されるぞ」
「大丈夫だ。元々俺はエルフに追われているから。生死問わずで小金貨5枚だ」
小金貨はこの世界の通貨で、小金貨1枚で3人家族の1ヶ月分の食糧が買える。
「は?」
「昔、エルフの森で許可なく果物とったら指名手配された。ルゼと一緒だな」
「俺は出入り禁止なだけだ、一緒じゃねぇ!」
大丈夫じゃないだろ、とか、賞金首なのに小金貨5枚って安いな、とか、色々と言いたかったが、皆、残念そうな目でフェレスを見るだけだった。




