魔王様観察日記
魔王様観察日記の原型というか、投稿している一つ前のバージョンです。特に推敲とかはしてないので色々と問題はあると思いますが、その辺りには目を瞑って貰えると助かります。また途中で辞めたので完結はしません。全部で二十五話くらいです。途中で終わることを踏まえた上でご覧ください。
・主な変更点
聖女の名前がアルマではなくリア。
教授の名前がアビスではなくエルミカ。
フェレスの性格がかなり違う。
円卓の中央に一冊の本があった。
本は円卓に置かれた台座の上に浮いていた。薄い青色の球体が本を包み込み、ゆっくりと回転している。
その円卓を囲むように7人の老若男女が座っていた。
「本日はお忙しい中、お集まり頂きましてありがとうございます」
迷宮都市の若き市長、スタロは立ち上がって礼をした。
浅黒い肌に鋭い目つき、オールバックの銀髪、スクエア型のメガネをかけている20代後半の男性だ。
スタロは、ここにいる皆の顔を見渡した。
「すでに話を聞いているかもしれませんが、アビスが踏破されました」
迷宮都市にあるダンジョン『アビス』。
このダンジョンで発見されるものは価値が高く、多くの冒険者が挑戦している。
そのダンジョンが踏破されたという情報は世界中に知れ渡っていた。
「これは公開していない情報ですが、ダンジョンの最下層に何者かが住んでいたようなのです。そして、今、皆さんの目の前にある本が見つかりました」
「……確認したいのだが、それは本当なのか? その本が最下層にあったという証拠はあるのかね?」
そう尋ねたのは、考古学者のエルミカ。
20代後半の女性で、髪は栗色のストレート。あらゆる知識を持つといわれる有数の学者だ。
「はい、それは間違いありません。ギルドカードを確認しました」
ギルドカードとは、ギルドが発行しているカードで、本人証明の他に、本人の行動等が記録されるカードである。
「ギルドカードの記録内容を改ざんするのは不可能ですので、本当のことだと確認されました」
「……ふむ。それでは、誰がその偉業を達成したのかね?」
「名前はセラ様、ですね。人族の女性です。しかも一人で踏破しました。ですが、本人の希望で、世間には公表していません」
「アビスを踏破したなら、自分自身で言いふらすけどな」
そう発言をしたのは、冒険王フェレス。
30代後半の男性で筋肉質な体をもつ偉丈夫だ。
彼が発見した遺跡は3桁に届くと言われており、遺跡発見時の懸賞金だけで一財産持っているのではないかとも言われている。
「はい、不思議ですけどね。本を置いてどこかに行ってしまいました」
「あら、そうなのですか? アビスをソロで踏破するぐらいの実力者なら、是非、手合わせしたいと思っていたのですが」
残念そうな口調で発言したのは、勇者ナキア。
金色の髪に、いかにも貴族のお嬢様という格好だが、世界公認の勇者だ。
世界中で勇者の儀式を行うことができれば、勇者として認定される。
彼女は最近、すべての儀式を行い、勇者となった。
「勇者の嬢ちゃんは相変わらず戦闘狂じゃのう」
勇者ナキアの言葉に反応したのは、魔王アール。
異なる世界、魔界の王であり、すべての魔族達の頂点である。
見た目、ただの老人だが、頭には魔族の証である山羊の角があり、体からは魔力が溢れだしている。
「あのー、検証すると聞いたのですが、本に書かれている内容になにか問題があるのですか?」
そう質問したのは、聖女リア。この世界の最大宗教である聖人教の教徒だ。
聖人教は、偉業を行った者を死後、聖人として崇める宗教である。
どの聖人を崇めるかは自由で、一人以上の聖人を信仰する、というのが唯一の教えとなっている。
聖女リアが信仰しているのは、序列第一位の『聖母』で、聖人教では最大派閥だ。
彼女はまだ10歳だが、聖母の再来と言われており、その地位は高い。
「私もまだ読んでいないのですが、セラ様曰く、信じられないことが書いてあった、と」
「ふーん。よく分からねぇけど、なんかの歴史書みたいな物か?」
あまり興味がなさそうに聞いたのは、魔女ルゼ。
世界で最も魔力が高い女性に与えられる称号『魔女』をもつ、10代後半の女性だ。
やや褐色の肌に、黒髪のショートヘア。容姿だけを見れば美少女なのだが、口が悪い、喧嘩っ早い、攻撃魔法が大好き、というところから、誰からも恐れられている。
「セラ様から聞いた話では、書かれているのは日記とのことです」
「日記?」
「はい、日記です」
皆、円卓の中央にある本を見つめた。
「日記なら何が書いてあってもいいじゃねぇか」
「アビスで見つかったものですからね。変なことが書かれている可能性もありますから、世界へのお披露目の前に、確認と検証が必要なのですよ。昔、とある王族の乳母の日記が見つかって、戦争のきっかけになったとかいう話もありますしね」
スタロは困ったように頬を人差し指で掻きながら答えた。
「えぇ? でも、そういうのは教授に任せりゃ全部解決じゃねぇの?」
ルゼは、エルミカを見てそう言った。ルゼは人を印象で呼ぶ。エルミカを「教授っぽい」という理由だけでそう呼んでいた。
「……うむ。それは可能だと思うが、その前に一つ聞きたい。そもそもなぜこのメンバーが選ばれたのだ? 確かにそれぞれの分野の第一人者だが、スタロ殿が決めたのか?」
「決めたのは私ですが、セラ様に意見を伺いました。どうやら、今この場にいるメンバーが関係ありそう、とのことでしたので、私が皆さんに連絡を取りました」
「……ふむ。どういった理由で選ばれたのかは、日記を読めばわかるということか。ルゼ君、この日記に書かれている内容が、我々に関係がある可能性が高いらしいぞ。つまらんかもしれんが、皆で確認する価値はあると思うが?」
ルゼはすこし考えて答えた。
「んー、そっか。もしかしたら、日記の中に希少な魔法とか出てくるかもしれねぇしな。仕方ねぇ、しばらく付き合うか」
「では、皆さんもよろしいですか?」
スタロの問いかけに、皆、頷いた。
「ありがとうございます。では、さっそく始めましょう」




