気が付いたらヒナだった
文章を書くのは得意じゃないけど、楽しめる作品を書けたら良いなと思っています。
先ず始めに伝え無いといけない事がある。俺は『人間』だ。
地球育ちの日本人でフリーターの将来不安定型男子だったはず。なんだ文句あるのか? ご婦人が女子って言ってんだ、ナイスガイも男子って言っていいはずだ!
一月生き抜く為、いつも通りバイト先に向かっていたが目に前にトラックのホイールが飛んで来た後が思い出せない。
しかし、思い出せないのは仕方ないとして、肝心なのは今だ。
気が付いたら俺は――――――
卵の殻を突き破っていた。
いやいや、マジで訳わかんねーよ!
「ピー、ピー!」
眩しくて周りは良く見えないし、声を出せばヒナみたいな声がでる。
マジで、どうなってんの!?
先ずは状況確認だ。
「ピッピー!」
目はボヤケているが、見えない訳ではないようだ。
視界には枝で作られた床や卵が写る。
俺は冴え渡る脳をフル回転させ状況を瞬時に把握した!
どうやら俺は得体の知れない力で死に、異世界に転生したようだ。
しかし、転生した生物に問題がある。
鳥だ!
「ピッ!」
どうしろと?
転生自体は嫌じゃないさ。
正直、将来に希望なんて持てなかったし、両親も他界していた。
ぶっちゃければ、自殺予備軍だ。
美人のママや龍の体があれば、飛んで喜んださ。しかし今は、美人のママもいないし、体も上手く動かせない、ただ目の前の卵を見つめているだけ。
お腹空いたな。
「ピーィー」
生まれて早々に頭を使ったせいか、体が怠くなる。元々鈍いが。
怠惰に襲われた俺は目の前を朦朧と見つめる。
卵は一つか、俺を合わせてヒナは二匹ってことか……。
「ピッ?」
卵を凝視していると、視界の端でもぞもぞする影を捉えた。
他にもヒナがいたのか。思わず鳴いてしまったじゃねーか。
俺は巣の端にいる兄弟に視線をむける。
何せお兄ちゃんかお姉ちゃんだからな! 鳥の知能には期待できないが、此処は異世界。きっと俺が分かんないファンタジーな力も有るはず。
視界に捉えた影が鮮明に写り始めた。
デカイな……、俺より二回り大きくないか?
俺の瞳に写しだされた影は、漆黒の羽毛に赤い瞳をとクチバシを持つ大きなヒナだった。
漆黒のヒナは俺にお腹を見せながら下を向き、必死に巣の外側へ移動している。
何してんだ? ん? 卵を押してるのか?
漆黒のヒナを注視していると背中に卵が有るのがわかった。
そして――――――そのまま卵を巣の外に押し出した。
はぁ!? オイオイ何やってんだコイツは! 兄弟だろ!
理解不能な行動に思考がついていけないが、焦っている暇は無い。
卵を落とした漆黒のヒナは、俺を睨み付け、近づいてきたのだ!
えっ! マジで! こっち来んな!
「ピッ! ピピッ! ピー!」
必死に威嚇するが効果は無い。うんわかっていたよ♪ いやいや違うから! マジで近づくなサイコパス野郎!
漆黒のヒナは俺の目の前まで近寄り見下ろしてきた。
こんにちわ! お兄ちゃん!
「ピッピー!」
とにかく愛想よく挨拶だ。
――――――お兄ちゃんは俺を突っつき始めた。
痛い、痛い! ごめん、お姉ちゃんだったんだね♪
「ピッピー!」
ダメだ、攻撃が止まない!
俺が兄弟にいじめられ、うずくまっていると、羽ばたく音と共に大きな影が写しだされた。
流石にサイコパス野郎も攻撃を止め、影の主に目を向ける。
俺も恐る恐る顔を上げた。
視線の先には、緑と黄色の綺麗な羽毛に金色の瞳とクチバシを持つ美しい鳥がミミズを咥えて立っていた。
そして本能でわかる、母であると!
ママ! コイツヤバイです! サイコパス野郎です!
「ピッピ! ピピー! ピッピー!」
お母様に俺の訴えが伝わったのか、こちらに顔を向けてきた。
お母様!
「ピー!」
助かった、母は偉大だ。俺は涙をこらえお母様のクチバシからミミズを受け取る。
「ギョビー!!」
しかし、突如サイコパス野郎は泣き出し、俺に体当たりしてミミズを奪い取った。
ちょっと待って! 羽毛から変だと思っていたけど、鳴き声も可笑しくねっ!?
お母様! コイツやっぱり変です!
「ピッピー! ピピー!」
俺はお母様に助けを求め視線を送る。
お母様は気にした様子も無く飛び去った。
お母様―!!!
「ピピー!!!」
俺の絶叫だけが巣を木霊する(気持ち的に)。
慌ててサイコパス野郎に視線を向ける。奴はミミズを食い終え俺を睨んでいた。
そして背中を押し付け移動し始めた!
やっやめろよ!
「ピッ!」
俺は巣の外側に押され必死に抵抗するが、効果が感じられない。体格にも差がありすぎる!
ダメだ、このままだと外に押し出される!
俺は必死に打開策を考えるが、俺の攻撃では歯が立たない。
どんなにもがき続けても効果が無く、巣の縁側まで押し出される。
そして、下の景色が視界に入る。
予想通り、森林のようだ、下には雑草の生えた地面があるだけ。しかし……、
たけーよ!
「ピッピー!」
ダメだ! 今は騒いでる場合じゃない! 何か、何か無いのか……!
魔法はどうだ!? 鳥とはいえ、俺は転生者で記憶もある。
かけるしか無いな。でもどうやって?
その時、俺の脳に一つの言葉が思い浮かぶ。
ステータスだ! 人外転生ならかけるしか無い!
ステータス!
「ピッピー!」
俺は全てをこの言葉に託した。
ステータス
レベル:1/10 ランク:G
名前:無し 種族:エアバードのヒナ(鳥)
属性:無し 技能:鑑定、地形把握
特性:進化選別
俺の希望は叶い、目の前にステータスが表示された。しかし……。
えっ!? しょぼくね?
どうしろと、戦えそうに見えないんだが、今は考察してる暇は無いぞ。
鑑定は予想が付くが、今は意味ないだろ。となれば、
進化選別だ!
『レベルが到達点に達していません』
目の前に日本語で文字が表示されたが、今は考えている場合ではない。
こうなったら、やけくそで鑑定だ!
ステータス
レベル:6/10 ランク:G
名前:無し 種族:デスバードのヒナ(魔鳥)
属性:無し 技能:尻相撲、魅了
特性:魔王の因子
補足:デスバードは他の巣に托卵し、寄生した巣のヒナを皆殺しにして、最後は育ての親も食い殺す、ヤバイ魔鳥。
種族違うじゃねーか! あっ……!
「ピッピー! ピ!」
俺は絶叫と同時に巣の外に放り出された。
「ピーーー!」