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第十三話:止まらない涙

リアが私の話相手になって一週間が経った。


初めは人見知りが激しく私に怯えていたが今では仲良くなって姉妹のようになっている。


ある時、男爵と三人で話し合っていると皇帝が現われて


『こうして見ると親子みたいだな』


と笑いながら言って私は不覚にも飲んでいた紅茶を吐いてしまった。


リアと初めて会った時にも感じた切望とも言える気持ち。


・・・・・私は男爵と一緒になりたい。


男爵との子供が欲しい。


私は・・・・男爵が・・・・・・・


「・・・・ま、さま、ヴァレンタイン様っ」


呼ばれる声で意識を取り戻す。


視線を送るとリアが心配そうに顔を歪ませていた。


「ああ、ごめんね。リア」


私は苦笑してリアの頭を撫でた。


「・・・少し考え事をしていたのよ」


「考え事、ですか?」


首を傾げるリア。


何とない仕草でも可愛いと思う。


まだ千を二百越えたが直ぐに少女から年頃の娘に成長する。


そうなれば求婚する男は後を絶たないだろう。


「リアは将来美人になると思ったのよ」


自然と口から出た。


「あ、ありがとうございます」


リアは恥ずかしそうに礼の言葉を言った。


「ところで男爵様は?」


一気に話題を変える。


「男爵様は王様に呼ばれて行きました」


王様とはエギュン王の事だろう。


「フレアは?」


「フレア様も将軍様に呼ばれて行きました」


こんな所を刺客に襲われたらどうしよう。


不安が頭を過ぎった。


今は男爵もフレアも傍にいない。


怖くてドレスの中の足が震えた。


元死天使の実働部隊に居た癖に怖がるなんて・・・・


震える足を叱咤した。


「・・・・リア」


「は、はいっ」


私の真剣な顔にリアは怯えた顔をした。


「・・・もし、刺客が来たら私が食い止めるから貴方は逃げなさい」


私の言葉にリアは驚いた。


「私は大丈夫だから、良いわね」


念を押すように言った。


「は、はいっ」


リアは、こくんと頷いた。


私はニッコリと笑った。


「良い子ね。リア」


リアの頭を一撫でした。


その時だった。


微かに背中に走った寒気。


殺気!!


私はリアを抱き抱えると机を蹴って跳躍した。


ザクッ、ザクッ


私とリアがいた場所に刺さる数本のナイフ。


「誰?!」


私はリアを後ろに庇いながら叫んだ。


私の声に答えたのか黒いフードを着た男が出て来た。


「何者だ」


男を睨みながら尋ねた。


「・・・・・貴殿を殺すように言われた者だ」


男は短く答えると懐から数本のナイフを取り出した。


「・・・・・・」


私は辺りを見回したが武器になる物は何もなかった。


「・・・・・」


男は無言でナイフを構えて攻撃体制を取った。


「・・・リア」


私はリアに小声で話し掛けた。


「さっき話した通り私が食い止めるから逃げなさい」


「・・・・ッ」


リアはビクリとした。


「私が男に飛び掛かった隙に逃げなさい」


私は再度いうと同時に地面を蹴った。


「今よっ。リア!!」


私が叫ぶと後ろに走り出す音が聞こえた。


「はぁっ」


私は男との距離を縮めると正拳を繰り出した。


「・・・・・」


男は無言で避けると右手のナイフて私の首筋を狙って来た。


私は脇腹に蹴りを入れようとしたが避けられた。


「・・・・・」


男は左手のナイフを投げ飛ばして来た。


「くっ」


裾の長いドレスが邪魔で思うように動けない。


ギリギリの所でナイフを避けるが髪が数本切れた。


男は隙を与えずにナイフを投げ続けた。


必死に避けるが何本か肩や脇を掠めた。


「・・・・・っ」


鋭い痛みが走ったが構わず避けた。


しかし、避けている内に壁際に追い込まれた。


「・・・し、しまった」


男は壁際に追い込まれた私を見て愉快そうに笑みを漏らしながら逆手に握ったナイフを手に私に飛び掛かった。


『もう駄目っ』


私はギュっと目を閉じた。


死にたくなかった。


死ぬ前に、せめて・・・せめて男爵にもう一度だけ会いたかった。


「・・・・・・・」


だが、幾ら経っても痛みは来なかった。閉じていた瞳を開けると私の目の前には漆黒の外套が目に入った。


少しずつ上を見上げるとそこには右手で男の首を握り締めながら男爵が立っていた。


そして左手にはナイフが深く刺さっていて鮮血が流れていた。


「・・・・無事か?」


前を向いたまま男爵は私に尋ねた。


「は、はい。大丈夫です」


私は答えると腰が抜けて地面に腰掛けてしまった。


「ぐっ・・・・・」


男は首を絞められて息が出来ずに苦しいのか必死に暴れていた。


しかし、男爵は首を絞めたままだ。


それ所か更に力を込めているように見えた。


「!!」


私は後ろから見えた男爵の顔を見て凍り付いた。


笑っていた。


男の首を絞めながら男爵は愉快そうに笑っていたのだ。


まるで蛇のように残酷な笑みを浮かべながら・・・・・・・・


しかし、直ぐに無表情の顔に戻った。


「・・・・・・・」


男爵は暫く男の顔を見ていたが直ぐに視線を逸らすと地面に叩き付けた。


男は地面に叩き付けられると身動き一つしなかった。


「・・・・・制御したから死んではいない」


私に説明すると男爵はナイフを気にもせず地面に尻もちを着く私に視線を合わせるように片膝を着いた。


「・・・・・っ」


私は怖くて男爵の瞳から逃げた。


「・・・・直ぐに治療をする」


男爵は感情のない声で言うと私の傷口に手を触れようとした。


「い、いやっ。触らないで!!」


反射的に手を跳ね退けてしまった。


直ぐに後悔した。


「・・・・・・」


ちらりと怒りの表情を見せる男爵。


男爵は有無を言わさずに私の傷口に触れた。


一瞬だけ痛みを感じたが後は感じなかった。


男爵が手を離した場所は傷口が塞がっていて傷痕も無かった。


驚いている私に構わず男爵は次々と私の傷口を治してくれた。


全ての傷口を治し終えると男爵は自分の左手に刺さっていたナイフを無造作に引き抜いた。


ナイフを抜くと鮮血が飛び散ったが直ぐに治まった。


男爵は布を取り出して右手で傷口を縛ろうとした。


それを見て私は慌てて立ち上がり布で傷口を縛った。


何で私にしたように魔術で治さないんだろう。


疑問が沸いたが直ぐに罪悪感によって消えた。


私は助けてくれた男爵の手を振り払ってしまった。


「・・・・・申し訳ありません」


心から謝罪した。


私のせいで、私が弱いから男爵が傷を負った。


「ただの掠り傷だ」


感情のない氷のような声に背筋が冷たくなった。


・・・・・怒っている。


男爵の身体から出ている気で分かった。


きっと私が手を払い退けた事に怒っているのだ。


「・・・・直ぐにフレア達が来る」


私を見ようともせずに男爵は中庭を後にした。


男爵の言う通り数分してフレアと数人の兵が駆け付けて来た。


「・・・大丈夫ですか?」


感情がない声でフレアが私に尋ねた。


「・・・・・・」


私は無言だった。


・・・・・否。


怖くて口が聞けなかったのだ。


刺客が怖くて・・・・・男爵が怖かったのだ。


男の首を握り絞めながら笑った顔が・・・・・・


無表情だったけど怒りのオーラを発していた男爵が怖かった。


ユニエールの時も感情を現にして怖かったが今度は違う。


どう説明すれば良いか分からないけど・・・・・怖かった。


「・・・・・ふっ・・・くっ・・・・」


私はいつの間にか涙が出て止まらなかった。


「・・・・・・」


フレアは優しく私の背中を撫でてくれた。


母親のように優しく撫でてくれた。


私は暫くフレアに背中を撫でられながら静かに泣き続けた。


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