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第十二話:貴方が傍に

男爵が命を狙われている私の護衛をするようになってから一週間が経った。


その間に男爵は常に私の傍を離れずにいた。


食事をする時も城の中を散歩する時も離れずにいた。


さすがに湯に入る時は外で待っているが、それ以外は傍を離れる事はなかった。


寝る時も私の部屋の外で朝まで護衛しているとフレアから聞いた。


嬉しいと思う反面、男爵の身体が心配と男爵との微妙な距離感を感じた。


離れた一歩の距離が私と男爵の間にできた見えない壁のように思えた。


・・・・天使と悪魔。


決して相容れない宿敵同士の越えられない壁。


悲しかった。


男爵が私を避けているように思えた。


一度だけ男爵に隣を歩いてくれるように頼んだ。


だけど無情にも男爵は


『・・・それは無理だ』


と冷たく断った。


胸に氷の刃が刺さったような鋭い痛みを感じた。


悲しかった。


だけど私の為だと男爵は言った。


理解している。


頭では理解してるけど悲しかった。


男爵に拒絶されたのがショックだったのか私は食事が喉を通らなかった。


そんな私を見た皇帝が男爵に


『女を悲しませるのはお前の信条に反するのではないのか?』


と指摘して男爵を戒めた。


男爵は渋面を浮かべたが皇帝の言葉を聞き入れた。


それからは私の隣に立つようになった。


私が歩く隣で男爵は歩く。


何だか男爵と隣に立てるだけで天にも昇った感じがした。


ただ傍に居るだけで、こんなに嬉しいなんて知らなかった。


ユニエールの時は隣に居るだけで嬉しいと思った事なんて無いのに。


それからは男爵と一緒に食事をするようにもなった。


私の部屋で二人で小さなテーブルに向かい合って座り食事をする。


食事中は殆ど男爵は無言だったが、それでも私を退屈させないようにしていると分かると嬉しかった。


男爵と一緒に食事をするだけでとても嬉しかった。


この幸せが永遠に続けば良いと思う。


もし、それが叶わないなら今この場で命を絶ちたい。


こんな幸せを味わっては、もう抜けられない罠に落ちたようなものだ。


一度でも落ちたら二度と上がれない蟻地獄のように・・・・・・・・・・














ある日、男爵様と一緒に二人で中庭で紅茶を飲んでいると男爵の部下が来た。


「・・・旦那。今、戻りました」


男の名はゼオン・エルヴィン・ハンニバル。


男爵の軍団で副長を務める青年で男爵の命令で天界に私の部下と言った筈だが?


そしてゼオンの横には綺麗な金髪と碧眼をした人形のような十二、三歳の少女がいた。


「・・・・・・ッ」


少女は私の顔を見ると怯えた表情になりゼオンの背中に隠れた。


「・・・リアが一緒って事は、無理だったのか」


どこか悲しそうに尋ねる男爵。


「いえ。里親は見つかったんですが、リア自身が嫌がったんです」


「どういう事だ?リア」


男爵は首を傾げた。


「あの・・・・・私、男爵様たちのお傍に居たいんです」


リアは小さな声ではっきりと言った。


「お、お願いです。雑用でも何でもするので傍に置いて下さいっ」


リアは必死に頭を下げていた。


その姿はフレアに魔界に連れて行ってくれるように頼んだ時の私と同じだった。


「・・・・・・・」


男爵は黙ってリアを見つめていた。


「旦那。俺からもお願いします」


ゼオンも男爵に頭を下げた。


「・・・・・・・」


しばらく思案していた顔の男爵がちらりと私を見たが直ぐにリアに向き直った。


「・・・リア」


「は、はいっ」


リアは緊張した顔で男爵を見た。


「俺の傍に居ても構わないが、条件がある」


「条件・・・・・?」


リアが息を飲んだ。


「・・・・このお姉さんの話し相手になってくれ」私を顎で示す男爵。


「このお姉さんはヴァレンタイン子爵令嬢で今は俺の客人として魔界に居る」


ここまでは良いか、とリアに尋ねる男爵。


こくん、と頷くリア。


「この城にはヴァレンタインの話し相手になる奴が居ない。だからリアが話し相手になってくれ」


私はただ聞いていた。


男爵の言った事に戸惑ったが私を気遣ってくれての事だと解った。


「どうだ?リア」


男爵はリアに尋ねた。


「や、やりますっ」


激しく首を縦に振るリアに男爵は優しく微笑んだ。


「よし。良い子だ」


ポンポンとリアの頭を撫でる男爵。


その姿は父親のように優しくも威厳に満ちていた。


不意に何かが頭を過った。


私に似た子供を男爵が優しく抱き上げていて、その隣で私が微笑んでいる幻想・・・・・・・


これは私が望んでいる未来?


私は男爵と結婚したいの?


もし、もしも私がこのまま魔界に残ると言ったら男爵は何と言うだろう・・・・・?


私を傍に置いてくれるかしら?


・・・・私を、妻にしてくれるかしら?


リアの頭を優しく撫でる男爵を見ながら私は自問自答した。


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