第十一話:男爵の決意
男爵が護衛を申し立てた時に最初は護衛など恐れ多いと辞退したけど男爵がそれを受け入れなかった。
『お前を護る役目を他の奴に渡したくない』
皇子である男から真顔で言われて断れる女などいないだろう。
皇帝からも
『飛天なら護衛に適任だ』
と言われて男爵が護衛する事に決定した。
最初は戸惑った。
天使である私を魔界の英雄である男爵が護衛するのだから・・・・・・
同族殺しの汚名を被るかも知れないのに・・・・・
それを懸念していたが男爵は平然とした顔で
『とうの昔に同族殺しの名前なんて被っている』
と言われた。
どういう事なのか気になってその日の夜にフレアに尋ねた。
「男爵様はかつてご自身を殺そうとした同族を皆殺しにしました」
とさらりと説明された。
「その中には元皇帝であるサタン様の息子も居ましたがサタン様も承認していたので問題ありません」
無表情で淡々と説明するフレア。
私は唖然としていた。
男爵が今まで歩んできた道の凄さに驚いていたのだ。
魔族は同族が同族を殺すのを強く嫌っていて、それを破るのは禁断だと聞いた事があったからだ。
しかし、男爵は同族を殺したのだ。
普通なら極刑は免れないはずだ。
「男爵様が殺した者たちは何かしら後ろめたい事をしていた者たちでしたので皆、気にしていませんでしたよ」
私の考えを読み取ったのかフレアが説明してくれた。
「しかし、今だに男爵様を亡き者にしようとする輩も居ますが男爵様なら心配ないでしょう」
ほっと息を吐く私を見て
「心配する方は貴方の方です」
呆れた果てた息を吐くフレア。
「貴方は天使である上に軍の指揮官でもあり皇帝陛下の覚えも良いです」
「それを妬んで貴方を狙う輩は数え切れない程にいます」
私は黙って頷いた。
ここは魔界。
私が居た天界ではない。
味方も僅かしかいないのだ。
「私も出来る限り気をつけますが貴方自身も気をつけて下さい」
「・・・・分かったわ」
重い口調で私は再度うなずいた。
ヴァレンタインの部屋を出たフレアは夜叉王丸の寝室に向かった。
城の西側にある夜叉王丸の寝室はヴァレンタインの寝室とは逆方向にある。
「・・・・失礼します」
相手の了承を待たずに部屋の中に入る。
中に入ると武器の手入れをしている夜叉王丸がいた。
「何だ。フレアか」
夜叉王丸はちらりと自分を一瞥すると武器の手入れに戻った。
「ヴァレンタインに問題はないか?」
小太刀を研ぎながら夜叉王丸は尋ねた。
「はい。特に問題ありません」
「そうか。なら良い」
夜叉王丸はフレアに退出を命じた。
フレアは無言で一礼すると部屋から出て行った。
「・・・・・・・・」
夜叉王丸は無言で小太刀の刃を見た。
うっすらと光を放つ刃には少し血で汚れて濁っていた。
小太刀を鞘にしまうと夜叉王丸は後ろの腰に小太刀とモーゼル・ミリタリーを差して前腰に同田貫をベルトにぶら提げて漆黒の外套を纏うと部屋を出た。
「・・・・必ず護ってみせる」
決意を口にしながら夜叉王丸は護る存在の女の部屋へと向かった。