第十話:お前を護る
「・・・・・ここは?」
目を覚ますと見覚えのない部屋のベッドで寝ていた。
周りに視線をやると質素なテーブルに椅子、小さな本棚だけが置かれた殺風景な部屋。
「・・・気が着いたか?」
声の方を向くと黒い服を着た男爵が立っていた。
「お前が広間で眠っているのを見つけたから連れて来た」
淡々と説明する男爵。
「ここは男爵様の部屋だったんですか」
「お前の部屋に運ぼうとしたが掃除中だから俺の部屋に連れて来た」
男爵は空いている椅子に座り煙草を取り出した。
しかし、直ぐに懐にしまった。
「・・・吸わないんですか?」
「女の前では吸わない」
煙草を嫌う女性は多い。
私も嫌いだと思い男爵は気を遣ったのだ。
「私は大丈夫ですから吸って良いですよ」
本当は嫌いだが、男爵に気を遣われたくなかった。
「いや。気分がなくなったからいい」
私を見ずに男爵は断った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
互いに言葉を言わずに沈黙が流れた。
話しもせずに男爵はただ窓の外を眺めていた。
どれくらい時間が経ったのだろう?
私は沈黙に堪えられずにある事を尋ねた。
「・・・部下達は、どうしてますか?」
魔界に来てから部下達とは接触していない。
恥ずかしいが今まで忘れていた。
「お前の部下達は・・・・・・・天界に行った」
「えっ?」
自分の耳を疑った。
何で天界に?
「お前を天界に帰す為に俺の仲間と一緒に行ったんだよ」
説明を加える男爵。
私に言わなかったのは私だけを置いて行くのに罪悪感を感じたからだろう。
「・・・・そうですか」
「だから、気を付けろ」
男爵の言葉に首を傾げた。
何を気を付けるの?
「お前が死天使であるのを知っている奴らがお前を殺そうとしていると聞いた」
「ッ!!」
男爵に指摘されて気づいた。
ここは魔界。
そして私は悪魔の天敵とも言える死天使。
私を殺そうとしている者たちの巣窟であるのを忘れていた。
そして部下たちは天界へと行っていて私しか居ない。
「・・・・心配するな」
青ざめる私に優しい言葉を掛けた男爵。
「お前は俺が護ってみせる」
え?
私が男爵を見ると男爵は視線を逸らしながら
「お前は俺が護ると言った。だから、心配するな」
と言った。
ぼんっ
思わず私は赤面してしまった。
恐らく女なら一度は言われてみたい言葉だろう。
「・・・・ちっ。俺の柄じゃないな」
男爵が小さく舌打ちするのも気づかずに私は惚けていた。
だって、今まで生きた中で男の人にそんな事を言われた事がなかったから・・・・・・・
しばらく私は惚けていて男爵が部屋を出るのも分からなかった。