第九話:天使殺しの実態
エギュン王に案内されて客室に入った。
「まぁ、掛けて」
エギュン王に促されて着席する。
私が着席するとエギュン王も着席した。
「さて、と何から話せば良いかな?」
足を組んでエギュン王は私を見つめた。
年齢は男爵と同じだった筈だが見た目は男爵よりも若干だが若く見えた。
男爵の黒髪黒眼とは対照にエギュン王は金髪の碧眼だった。
「俺の顔がどうかしたかな?」
「い、いえ。何でもありません」
慌てて視線を逸らした。
「可愛い反応だね。まるで小猫みたいだ」
クスクスと笑いながらエギュン王は足を組み直した。
「ま、冗談はこの辺にして飛天の事を話そうか」
真顔になった王に私も真剣になった。
「先ず最初に飛天の異名は知っているよね?」
男爵の異名なら小さな子供でも知っている。
「・・・隻眼の天使殺し」
私は小さな声で答えた。
「隻眼の天使殺し・・・・・・・・それが男爵様の異名です」
その名前を出せば屈強な武将、騎士でも震え上がる。
一振りで数百人の天使を斬り殺し、ありとあらゆる魔術で城壁を破壊し助けを懇願しても無情に首を撥ねる冷酷無情な悪魔。
それが天界で語られる男爵の噂。
「天界の言ってる事も間違いじゃないね」
エギュン王は静かに話し始めた。
「馬鹿みたいに強いし冷酷な一面もある。だけど、あいつは心から冷酷無情じゃないよ」
「部下思いで女子供には優しいし決闘を申し込まれれば一対一で闘うよ」
君が知っているだろ?
とエギュン王は言葉を含んだ。
確かに。私は男爵を知っている。
あの時、男爵と対峙した時に私は決闘を申し込んだ。
そしたら男爵は受けて立って一対一で戦ったが物の数分で私は敗北して捕虜になった。
私の部下にも優しいし自分の部下からも信頼されている姿を見て私たちの噂が嘘だと解った。
「まぁ、飛天と戦った君に話しても意味はなかったかな?」
苦笑して私を見るエギュン王。
「いえ。そんな事ありません」
「ありがとう。優しいね」
笑顔を向けるエギュン王に私は不覚にも赤面した。
「どうしたの?顔が赤いけど?」
「い、いえっ。何でもありません」
私は顔を背けた。
「・・・・ふふふ」
エギュン王は愉快そうに笑いながら席から立ち上がるのを私は感じた。
「実に可愛い反応だね」
愉快そうに笑いながらエギュン王は私のさり気無く私の髪に触れた。
「ッ!!」
私はビクッと反応してしまった。
男の方に髪を触れられたのはユニエールしかいなかった。
「綺麗な金色の髪だね。まるで気高い月のようだ」
エギュン王の手は優しく香りの良い匂いがして抵抗する力を奪い意識も朦朧としてきた。
「・・・・君、飛天をどう思う?」
エギュン王の質問に私は朦朧とする意識の中で答えた。
「・・・・男爵様は、とても優しく強い方だと思います」
「男としてどう思う?」
「・・・・・とても良い、人だと思います」
「全てを捨ててでも一緒になりたいと思う?・・・・・・故郷を捨ててでも・・・・・・・」
「・・・・・・私は、全てを捨ててでも・・・・・・・・・・・・」
朦朧とした意識を私は手放した。
何と答えたのだろう?
私は自分の答えを考えながら深い眠りに入った。
ヴァレンタインが眠ったのを確認して俺は懐から葉巻を取り出して火を付けた。
俺が催眠効果のある香水を付けて質問したらヴァレンタインは素直に答えた。
そして魔界に住む気はあるのか聞くと朦朧として声で
『全てを捨ててでも、男爵様と添い遂げます』
とはっきりと答えた。
これを言ってヴァレンタインは眠った。
この答えから察するにヴァレンタインは飛天と一緒になるなら堕天も辞さない事が分かった。
まぁ、これなら何とかなるだろう。
問題なのは・・・・・・・・
「飛天の奴をどうしたらヴァレンタインを天界に返さないと言わせるかだな」
あいつの性格からして有言実行しそうだから時間が無い。
何とか俺の治める土地で片を付けないと不味いな。
万魔殿には何かと頭の固い堅物の年寄りが居るからな。
「さぁて、どうしたら良いかな?」
俺はあれこれ思案を巡らせながら紫煙を吐き出した。