第八話:魔界での生活
魔界の北地方の都で暮らし始めてから一週間が経った。
皇帝陛下は政務の件でここに来ているが後ひと月もしたら首都、万魔殿に帰る。
その時に私も男爵と一緒に万魔殿に向かう。
男爵は万魔殿に屋敷を構えている事から私も同行する事になっていて勿論、部下たちも一緒だ。
部下たちとは別々の部屋で暮らしていて中々会えないがフレアが逐一報告してくれた。
報告では魔界での生活に慣れ始めているようで一先ずは安堵した。
「・・・・本当に魔界だなんて信じられない」
私は朝食を一人で取り終えてからは与えられた一室から外の景色を眺めていた。
フレアからは城内を自由に散策しても良いと言われたが、一人で散策する気にもなれずに部屋の中で景色を眺める事にした。
暫く景色を眺めているとドアを叩く音がした。
「・・・はい。どうぞ」
入るのを促すと城の主人であるエギュン王が入って来た。
「・・・・エギュン王」
私は椅子から立ち上がり頭を下げた。
「おはよう。子爵令嬢」
エギュン王はニッコリと笑って私に近づいてきた。
「ここの生活で困った事はないかな?」
「はい。何もありません」
私の返答に満足そうに頷くエギュン王。
「それは良かった。ところで、これから時間はあるかな?」
「・・・時間ですか?」
「あいつ・・・・飛天の事で少し話しがあるんだ」
「男爵様の?」
「皇帝と朝食をした時に飛天の事を聞かされなかったかい?」
「・・・・はい。聞かされました」
嘘を吐く訳にもいかないので本当の事を言った。
「その事で話しがあるんだ」
「・・・・分かりました」
私は頷いた。
私が頷くのを見て一瞬、エギュン王が表情が歪んだのを私は見落とした。
ヴァレンタインを客室にエスコートしながら俺は意図も簡単に罠に引っ掛かった獲物に内心ほそくそ笑んだ。
これだから恋する女は騙し易い。
好きな相手の事を出せば直ぐに食い付いてくる。
皇帝から言われた言葉を思い返す。
“ヴァレンタインを天界に返させるな”
話によると飛天が熱を上げていながら自分の心を押し殺してヴァレンタインを天界に帰そうとしているらしい。
『欲望に忠実な悪魔が欲望を抑えるなど言語道断だ』
と建て前は立派だが本当は恐らく
『飛天が熱を上げているなら、ここで二人をくっ付けて結婚させてしまおう』
というのが本当だろうな。
皇帝もサタン様も娘、息子が年頃なのに結婚しないから孫が抱けないと嘆いていたからな。
今回の件で皇帝は何としても二人を結婚させるだろうな。
まぁ、別な目的で天界の貴族令嬢が魔界の皇子と結婚したとなれば天界の威厳も落ちると考えてだろうが・・・・・・・
・・・・まぁ、俺の場合は命令もあったが、あいつが好きな相手を諦めるなんて事はして欲しくないから協力したんだがな。
あいつもそろそろ結婚しても良い歳だしな。
飛天がいたら鉄拳の一発でもお見合いしてくるだろうが、友を想う気持ちに偽りはないからな。
そんな事を思いながら俺は歩を進めた。