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第五話:朝の食事

「・・・・・おはようございます。皇帝陛下」


薄い青色のドレスに身を包んだ私は行儀よく皇帝に頭を下げた。


「おはよう。ヴァレンタイン令嬢」


長いテーブルの端っこに座った皇帝は機嫌良さそうに挨拶を返して来た。


「さぁ、座りなさい」


進められるまま着席する。


「昨日の赤髪と同じ色のドレスも似合うね」


「・・・・・恐縮です」


俯いたまま答える。


視線を合わせたくない一心で俯いた。


「ふふふふ。恥じらいがあって可愛いね」


飛天が熱を上げる訳だと笑う皇帝に私は赤面した。


「まぁ後は食事をしながら話そうか」


皇帝が指を鳴らすと数人のメイドが食事を持って部屋に入って来た。


「・・・・失礼します」


メイド達は食事を置くと一礼して部屋から出て再び皇帝と二人だけになった。


「優秀なメイド達だろ?」


「・・・・はい。無駄な動きがなく洗練されていました」


言葉を選びながら相槌を打った。


「流石は中央貴族の娘。言葉を選んだ褒め方だね」


「田舎貴族のヴィス公爵とは雲泥の違いだ」


「・・・・・ヴィス公爵を知っていたのですか」


私は更に俯いた。


ヴィス公爵・・・・・魔界の境界線を守る地方貴族。


私が捕虜になった時には討ち死にしたと聞いた。


死人を悪く言いたくないけど余り良い噂を聞かない貴族だった。


定めた税以上を領民に掛けて重労働をさせたらしい。


取り上げた税は中央に取り繕う為だと聞いた。


更に境界線を越えて魔界の資源に手を出して攻められたと聞いた。


もちろん敵の嘘だと思っていた。


だけど、もしも本当だとしたら?


天界の地方とはいえ貴族が魔界の領土を侵した。


明らかな領土侵略で戦争が起きても可笑しくない。


しかし、天界が無断で領土侵略をしたと分かれば勝敗は分かり切っている。


私はこれからの事を思い青ざめた。


「・・・どうやら事態を察したようだね」


皇帝が何所か愉快さを含んだ声で尋ねて来た。


これからの事、つまり魔界と天界の戦争が起きるかもしれない。


こちらが条約違反して侵略したとなれば同盟国も必然と離反して牙を剥くかもしれない。


幾ら悪魔が敵でも条約を破った天界に味方するなど、有り得ない。


だけど、噂だけで戦を起こす程この皇帝も馬鹿な真似は・・・・・・・・


「君は聡明だけど、少し俺を・・・・・悪魔を甘く見ているよ」


部屋の空気が一変した。


肌寒く、戦慄を覚える、空気。


それを発しているのは七つの大罪、“暴食”の悪魔。


・・・・・・蠅王、ベルゼブル皇帝。


「たかが、噂だと思っているようだけど事実だよ」


それまでの声、態度とは打って変わって冷酷で威厳ある声と態度に変わった。


「飛天の舎弟が魔界の資源を略奪している事を知った土地の村人を皆殺しにしたヴィネ公爵の手から逃げたという天使の娘を一人だけ見つけた」


皇帝の口から出された言葉に私は震えた。


恐れていて信じたくなかった事実。


まさか、自分の民を殺すなどしていたとは・・・・・・・・


俯く私に語り掛ける皇帝の声に私は震えた。


「まぁ、天界は嘘だと言うだろうけど、果たして同盟国はどうかな?」


ニヤリと口元を歪める姿は悪魔の帝王だった。


「・・・・・・・・」


私は何も言えなかった。


皇帝の言いたい事が手に取るように解ってしまったからだ。


天界が嘘だと言っても噂を止める事は出来ない。


同盟国も今頃は噂が広まり混乱しているだろう。


「まぁ、俺としては今更あの胸糞悪い天界を占領する気は無いよ。だけど・・・・・・」


そこで一度、言葉を切る皇帝。


「魔界の領土を侵し無実の罪を擦り付け喧嘩を振って来たなら戦も厭わない」


本気の声だと分かった。


この悪魔皇帝は本気だ。


本気で天界が戦を仕掛けるなら本気で受ける。


「・・・・・私にどうしろと?」


私は震える唇を何とか開いて尋ねた。


ここまで言うのだから、何か魂胆がある筈だ。


「いや、特に何にも期待も要求もないよ」


しかし、返ってきた言葉は以外だった。


顔を上げるとさっきまでの歪んだ顔はなかった。


真剣な顔は変わらなかったが恐怖は感じなかった。


「話した通り今の状態は非常に危険だ。本当に戦だって起きるかも知れない。今までにない大戦争が・・・・・・・」


「そんな危険な状態にありながら、飛天は君と部下たちを天界に帰そうとしている」


「それに君は知らないと思うから言うけど、あいつ元人間だから敵が多いんだよ」


「今も命を狙われてるよ。天界からも魔界からも・・・・・・・・」


その話しを聞いて私は何も言えなかった。


自国の魔界からも命を狙われているなんて・・・・・・・


「まぁ、俺の養子だし英雄だから簡単にはやられないけど、今回・・・・・君を客人として魔界に連れて来たから変な噂が広まったんだ」


“成り上がり皇子が天使に熱を上げている”


皇帝の言葉が私の胸に深く突き刺さった。


「この噂を武器に飛天を排除しようと、動いている奴らがいる」


「・・・・そんな自分が危険な状態でありながら君たちの為に頑張っているから、君たちもそれなりの覚悟を持って魔界で過ごして欲しい」


その眼差しは悪魔でも皇帝でもない、一人の息子を想う父親の眼差しだった。


「・・・・分かりました」


私は丁寧に頭を下げた。


皇帝がここまで男爵を想っていたとは・・・・・・・


私は胸が一杯だった。


その後は何事もなく朝食を終えて退室した。


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