第三話:魔界での夜
皇帝と夕食をした私は常に緊張していた。
皇帝以外にフォカロル将軍、エギュン王、男爵というとんでもない面子で緊張が解ける筈がなかった。
更に皇帝が私に何かと話し掛けてきて
「式はいつ挙げるんだ?」、「子供はいつ出来るんだ?」、「もうしたのか?」、「こいつの何所に惚れたんだ?」
と恥ずかしい事ばかりを質問してきたのだ。
その度に私は顔を熱くさせ男爵が皇帝を叱り付けた。
“こいつは何れ天界に帰す”
と皇帝に言った男爵。
その言葉が私の胸に深く突き刺さった。
何でそんな事を言うの?
自分の心の奥底から理解できない感情が出てきた。
私は天界に帰りたいんじゃないの?
男爵様の気持ちを踏みにじるの?
その思いとは逆に
此処に残れば男爵と一緒に居られる。
魔界に残りたい気持ちが折り混ざっていた。
「・・・・・私の想いはどっちなのかしら?」
誰も居ない部屋で私は小さく呟いた。
夕食が終わり寝室に戻ろうとした所をベルゼブルに呼び止められて書斎に招かれた。
渋々ながら一緒に行くと奴は唐突に切り出した。
「ヴァレンタイン令嬢を妻にしろ」
「・・・・・んだと?」
俺は怒りを抑えた。
こいつは何を言っているんだ?
夕食の席で天界に帰すと言ったのに。
「あの娘、お前に気があるようだしお前も満更ではないんだ。結婚しても良いだろ?」
机に座りながら立っている俺に金色の瞳で見上げるベルゼブル。
「断られるのを心配してるなら大丈夫だ」
眉間に皺を寄せる俺に笑い掛けるベルゼブル。
「ヴィス公爵とかいう狸が境界線を越えて魔界の資源を奪った罰としてヴァレンタインを花嫁として寄こせと言えば良い」
「証拠もあるし、こっちに勝利はある」
誘うような声は全てを委ねたくなるような甘い響きだった。
「・・・・俺にそんなセコイ真似をしろと?」
ギロリと睨むとベルゼブルは肩を震わせて笑った。
「流石だ。それでこそ俺の息子だ。欲しい物は全てを手に入れたい。その貪欲なまでの欲望は素晴らしい」
「・・・・ふん」
図星を指されて俺はふて腐れた。
欲しい物は、その全てを手に入れたい。
女なら身体だけでなく、心も自分の物にしたい。
それをベルゼブルは見越して俺を挑発するような真似をしたんだ。
「・・・・・相も変わらず恐ろしい奴だ」
改めて自分の養父の恐ろしさを身に染みた。