第二部序章:魔界
第二部スタートです。
「・・・・ここが、魔界・・・・・・・」
私は茫然として馬車の中から男爵の故郷である魔界を凝視した。
教官からは荒れ果てた荒野で何も無いと言われていた。
しかし、目の前に広がった景色は予想外だった。
草木は伸びて太陽も昇って鳥たちも飛び回っていた。
私たちがいた天界と変わらない。
「・・・やっぱり驚いてるな」
いつの間にか先頭にいた男爵が私の乗った馬車の隣にいた。
「お前さんの故郷と対して変わらない」
私の考えを読んだように答える男爵。
「まぁ、住んでる奴は変わるがな」
何所か嬉しそうに喋る男爵。
いつもなら威圧的な口調と眼差しで畏怖の存在だが、今は子供のような感じだった。
やはり故郷に帰れるのは嬉しいのだろう。
私も・・・・・天界に帰れたら・・・・・・・
かつて住んでいた楽園。
しかし、もう私は天界に戻れない。
魔界で暮らすと自分で決めておきながら、この身は楽園への帰還を夢見ていた。
「・・・どうかしたか?」
私の表情を瞬時に読み取って訪ねてくる男爵。
「・・・・いいえ。何でもありません」
私は静かに首を振った。
「・・・・分かった」
男爵はそれだけ言うと先頭に戻って行った。
その後姿を見て私は静かにため息を吐いた。
私の命を救って天界に帰還させようと尽力してくれた男爵。
男爵を思うだけで私の胸は焼けつき張り裂けそうな位に痛む。
なぜかは解らない。
この胸の痛みが何なのか私が知るのはまだ先・・・・・・・・・・