第十四話:これからの事
シリアスからコメディが入ります。
私はリア達がいる部屋には行かずに寝室に向かってベッドに倒れ込むようにしてうつ伏せになった。
枕に顔を埋めて流れる涙と嗚咽を隠した。
ユニエールに言われた言葉が頭を過ぎった。
『慰み物になった女など必要無い』
ショックだった。
言われると解っていたのにショックだった。
否、どこかで期待していたのかも知れない。
殺されると覚悟してたのに心の片隅では彼の優しい言葉を期待していたのだ。
・・・・・だけど、彼が言った言葉は私の僅かな期待を裏切る言葉だった。
必要が無い。
彼にとっては所詮、政略結婚で知り合った娘だったのだろう。
でも私は彼が好きだった。
私に優しい言葉をくれて花を渡して結婚を申し込んでくれたのに・・・・・・・・・・
だから、彼に言われた時はショックで頭の中が真っ白になった。
それと同時に男爵がユニエールを殴って怒鳴った言葉が頭に浮かんだ。
『お前に殺されるのを分かって覚悟を決めたんだ』
何であんなに私を庇ってくれたんだろう。
分からない。
分からないけど、心の片隅では彼に庇われたのが嬉しくて堪らない。
しかし、同時に感覚が怖い。
自分の気持ちが怖い。
そしてユニエールに裏切られた事が哀しい。
「もう、生きていても仕方ない」
私はベッドから起き上がり窓ガラスに近づいて素手で割った。
ガシャン!!
大きな音とともに透明な破片が部屋に散りばめられた。
その内の手頃なのを取ると右手首に当てた。
『・・・・・貴方は私を想っていなくても私は貴方を想っていたわ』
心の中でユニエールに囁く。
『・・・・・さようなら。男爵』
瞳を閉じ一気に引いた。
しかし、出血の音も血を浴びた感覚もしなかった。
うっすらと瞳を開けると息を切らしたフレアがガラスの破片を素手で握り締めていた。
フレアの手からは鮮血が惜しみも無く出ていたが、フレアは気にせずに私から破片を奪うと
パンッ
乾いた音が響き同時に頬が熱くなった。
打たれたのだ。
「貴方は自分で何をしようとしているのか分かっているんですか?!」
フレアの顔は怒りと哀しみで満ちていた。
「貴方のために必死に心を砕いた男爵様の気持ちを踏み躙ろうとしていたんですよ!!」
乱暴に私の肩を掴み激しく揺さ振るフレア。
感情を露わにするフレアを見るのは初めてだった。
何時も無表情で無駄口を言わなかったからだ。
そのフレアが激しく私を叱っていた。
「男爵様は貴方と部下を帰そうと頑張っているんです。その思いを無駄にするんですか?」
「だけど、ユニエールは交渉を・・・・・・・・・・・」
「交渉など幾らでもやり直しが効きます。しかし、命にやり直しは効きません!!」
「良いですか?今後、二度と自殺などという馬鹿な真似はしないと約束して下さい」
フレアが真摯な眼差しで私を見つめた。
「良いですね?」
「・・・はい。・・・・はい」
私はフレアの真摯な気持ちが嬉しくて涙を流しながら頷いた。
フレアは血で塗れた手で優しく抱き締めてくれた。
暫らくの間、私の嗚咽は止まらなかった。
「・・・・主人、ただいま戻りました」
一人で気落ちしていた俺をゼオンが慰めているとヨルム、フェン、ダハーカが戻ってきた。
「ヴァレンタイン子爵令嬢の婚約者が来ていると聞いて・・・・・・・・・」
ヨルムが俺の表情を見て理解したようだ。
「お会いになったのですか?」
「あぁ。刃を交えた」
「で、勝ったんだろ?」
ダハーカがジョーカーを吸いながら意味ありげ見てきた。
「まぁ、な」
「随分と歯切れの悪い答えだな」
「侯爵の野郎を子爵令嬢の前でぶん殴ったんだよ」
俺の代わりにゼオンが答えた。
「それで落ち込んでるのか?」
「違う。子爵令嬢達を天界に帰せないから落ち込んでるんだ」
「交渉が決裂したのですか?」
「あぁ。侯爵の野郎から悪魔と交渉なんて出来ないって言って子爵令嬢も殺そうとしたからな」
「なに?」
ダハーカが驚きの声を上げた。
「確かにあの侯爵なら自分の婚約者だろうが殺しかねませんね」
ヨルムは納得できるように頷いた。
「それで侯爵は?」
「客室に連れて行った」
部屋に入って来て壁に身体を預けながらフォカロルが説明した。
「今は気絶してるが、どうするんだ?」
「また交渉を持ち掛けても断るのは解り切っているだろ?」
「・・・・・・・・・・」
フォカロルの言葉に何も言えなかった。
恐らくあいつに交渉を持ち掛けても断るのは目に見えている。
だからと言って殺してはヴァレンタインを天界に帰還させる手立てが無くなる。
くそっ!!どうすれば良いんだよ!?
苛々と机を叩く俺を皆は黙って見ていた。
「・・・・男爵様」
ドアが開いてフレアが入って来た。
「・・・どうした?」
怒りを抑えて尋ねたが顔が強張ってしまった。
「・・・・皇帝陛下から手紙が」
「ベルゼブルが?」
あいつが手紙を寄越すなんて一体なんだ?
「・・・・・・・」
手紙を開いて読んでみると
『やっほー!!元気か?我が息子よ!フォカロルの手紙では天使の娘に豪く(えらく)熱を上げているそうじゃないか?お前が熱を上げるなんて珍しいな。まぁ、俺にとってはお前が結婚するなら誰でも良いがな。早く帰って俺に紹介してくれ!?』
グシャ!!
力の限り手紙を握り潰した。
あの馬鹿親父が!!こんな大変な時に変な手紙を寄越しやがって!?
俺は何も知らないで気楽に手紙を書いたであろう魔界にいる養父を怨んだ。
「それと、ヴァレンタイン子爵令嬢の事について話があります」
「・・・・・・・」
これには直ぐに怒りが治まりフレアを見た。
「話してみろ」
「はい。実は・・・・・・・・・・・・・」
フレアは少し躊躇いがちに話し始めた。
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