第十三話:侯爵対男爵
少し男爵が感情を露にします。
紅茶を飲んでいた私とリナ達は中庭から剣と剣の交わる音が聞こえてきたので行って見ると男爵とユニエールが剣を交えていた。
「男爵様!ユニエール!」
私は中庭に出ると二人の間に入ろうとしたが後ろから肩を掴まれた。
「旦那の邪魔はさせられないな」
翠眼を鋭くさせながら私を見る青年には見覚えがあった。
捕虜になる前に男爵と一緒にいた男だ。
「は、放して!ユニエールを止めないと男爵様が・・・・・・・・・」
必死に腕を振り解こうとしたがまったく駄目だった。
「旦那があんな坊ちゃん育ちに負けるかよ」
青年は嘲笑うように私を見た。
「ユニエールは何度も武勲を立てたわ!武道会でも長年のチャンピオンだったのよ!?」
青年は少し驚いた表情をした。
「へぇ。見た目によらず骨があるんだな」
「だが、旦那に比べれば雑魚だな」
見てみろと顎で前を指す青年。
「・・・・・・え?」
視線を向けると地面に膝を着くユニエールを見下ろす男爵がいた。
「・・・どうした?これで終わりか?」
剣を右肩に乗せて見下ろす夜叉王丸にユニエールは利き腕を抑えながら睨んだ。
「・・・・・力も技術もあるが、相手を甘く見たのが汚点だな」
嘲笑う訳でもなく淡々と理由を述べる夜叉王丸の瞳は怒りで青白く燃えていた。
「・・・・殺さないのですか?」
「子爵令嬢と部下達が無事に天界に帰られるようにするなら殺さない」
「先ほども言いましたが、お断りします」
ちらりとヴァレンタインを見るユニエール。
「男爵の慰み物になった女など必要ありません」
「・・・・・・・ッ!!」
ヴァレンタインはユニエールに言われた言葉の刃に崩れ落ちそうになった。
「・・・・・・・・・・」
夜叉王丸は何も言わずにユニエールを殴り倒した。
「ふざけるな。必要が無いだと?貴様、何だと思ってるんだ?!」
「こいつはお前に殺されるのを覚悟してたんだ。それが仕方ないと諦めていた。そんな覚悟を決めた女を汚すとは許せねぇ!?」
地面に倒れて気絶したユニエールを真っ二つにしようと刀を振り上げた所で
「止めろ。飛天」
軍服に身を包んだフォカロルが夜叉王丸を止めた。
「お前が怒るのも解るが侯爵を殺したら子爵令嬢達を天界に帰せなくなるぞ」
「・・・・・・・すまなかった」
夜叉王丸は無理矢理、押さえ込むようにして刀を収めるとヴァレンタインに向き直った。
「・・・婚約者を殴ったりして悪かった」
ヴァレンタインから視線を逸らしながら夜叉王丸は謝ると中庭を後にした。
「・・・ゼオン」
「言わなくても分かる」
フォカロルが言葉を言うのを待たずにゼオンはヴァレンタインから腕を放し夜叉王丸の後を追った。
「・・・・・・・・・」
暫らくヴァレンタインは呆然としていたが少しすると逃げるように中庭を後にした。
「・・・・侯爵を客室に連れて傷の手当をしてやれ」
控えていた部下にユニエールを運ばせるとフォカロルも中庭を後にした。