第十二話:交渉は決裂へ
天魔大戦での夜叉王丸とギャップが違い過ぎてすいません。
「・・・・・ここか」
白銀の真新しい鎧を着た銀髪の青年は険しい表情で大きな扉を睨んだ。
青年の名はユニエール。
天界の軍に所属しヴァレンタインの婚約者。
ユニエールは意を決したように口から大声を張り上げた。
「天界の騎士、ユニエール侯爵。飛天夜叉王丸男爵に話あり参上した」
すぐに門番が小口から出てきた。
「来るのは分かっていました。どうぞ中へ」
来るのは分かっていた?
ユニエールは何処から情報が漏れたのだろ?
首を傾げながらユニエールは腰に差した黄金の鞘に収まった愛剣を見た。
名うての加治屋に作らせ侯爵に相応しく贅を凝らした剣で幾度なく悪魔を倒した剣だ。
これで、男爵を倒して・・・・・・・
ある決心をしてユニエールは開かれた扉を潜った。
「こちらでお待ち下さい」
通された客室で紅茶を出されたがユニエールは口にしなかった。
敵の出した物など飲めないし宮廷御用達の茶以外は飲まない主義だ。
暫らく腕を組んで待っているとドアが開く音がした。
視線を背後に送ると黒一色の服を着て腰まで伸びた黒の髪を後ろで結った貧相な男が入って来た。
男はユニエールと向き合うように椅子に座った。
「・・・・・・飛天夜叉王丸男爵だ」
威圧的な声と鋭い瞳を向けてきた。
『この男が・・・・・・・飛天夜叉王丸』
ユニエールは自分の婚約者を奪った男を見た。
黒い服は上質とは言えず髪も手入れをしていないのか剛毛だ。
明らかに皇子としても貴族としても不似合いな男だ。
「本当に男爵ですか?」
疑いの視線を送るユニエール。
「・・・・・疑うのは自由だ。こちらの用件を言う」
疑いの視線も気にせずに夜叉王丸は口を開いた。
「こちらで客人として扱っている。ヴァレンタイン子爵令嬢と忠義心溢れる部下を天界に帰還させて貰いたい。勿論、帰還してから殺すなんて事は無しでだ」
客人の言葉にユニエールは驚いた。
「捕虜ではないのですか?彼女と部下は敵ですよ」
「・・・・・生憎と此方も仁義礼は知っているつもりだ」
それは我々も知性があり礼儀を護ると言っていた。
「・・・・貴方の用件は了承しかねますね」
「・・・・・・・・・・」
「私は捕虜もヴァレンタインも殺しに来たんですよ」
「・・・・・・何故?と聞いても良いかな?」
懐から煙草を取り出して尋ねる夜叉王丸にユニエールは険しい表情で言った。
「敵軍に捕まり自害しないなど、貴族として恥。また上層部の命令も無視して行動するなど命令違反の兵など要りません」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・俺の出した用件は断固として飲めないと?」
「えぇ。飲めませんね」
「・・・なら無理矢理にでも飲ませる」
「私も貴方を殺す気でしたから丁度良いです」
夜叉王丸は椅子に置いていた黒い鞘に収まった無愛想な剣を取るとユニエールに視線を送った。
「・・・・・・中庭に出ろ」
「えぇ。構いませんよ」
ユニエールは内心で笑った。
『この男、頭に血が上っている』
怒りで我を忘れている奴ほど戦場では生き残れない。
ユニエールは長年の経験でこの勝負は勝ったと思った。
しかし、それを覆す出来事があるのをユニエールは知らない。