表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/42

第十一話:瞳の強さ

少し夜叉王丸が感情家になります。

「貴方の婚約者、ユニエール侯爵が単身でこちらに向かっております」


フレアから放たれた人物の名前に私は目を見開いた。


ユニエール・・・・・私の婚約者。


私を助けに来てくれるの?


いや、違う。


ユニエールの性格なら恐らく私を・・・・・・・


「男爵様が先程、見えたのは・・・・・」


「その事を伝える為です」


「男爵様は貴方だけでなく部下の方も連れて帰るのを条件にユニエール侯爵と交渉します」


用件を伝えるとフレアは部屋から出ようとした。


「待って!」


「・・・何か?」


「ユニエールが交渉を拒んだら?」


彼の性格からして敵との交渉などしない筈だ。


「・・・・・殺しはしないと思いますが力付くでも交渉させるはずです」


それだけ言うとフレアは部屋から出て行った。


・・・・・・ユニエール。













「・・・・・男爵様」


フレアは中庭にある木の下で水色のワンピースを着た金髪の女の子とゲームをする夜叉王丸に近づいた。


少女の名前はリア。


つい先刻、副長のゼオンが連れて来た天界の少女だ。


汚れを落とすと綺麗な人形のようで見る者を魅了して止まず年端も行かない娘に負けた嫉妬を感じた。


「ん?フレアか。どうした?」


リアはフレアを見ると怖がった表情で夜叉王丸の背中に隠れた。


どうやら無表情でいた自分に恐怖感を抱いているようだ。


「・・・・ヴァレンタイン様に伝えてきました」


「すまないな。俺が伝える役目を押し付けて」


「いいえ。それは大丈夫です」


軽く言葉を交わすとフレアは


「ヴァレンタイン様の婚約者であるユニエールとの交渉、どうなさいますか?」


「・・・・・・・・・」


「噂によれば一切の交渉を嫌い厳しい性格だと聞いておりますが?」


「あぁ。それはリアから聞いた」


ぽんっとリアの頭を撫でる夜叉王丸。


「リア。このお姉ちゃんに話してみろ」


「は、はい・・・・・」


リアは恐々と頷くと口を開いた。


「ユニエール様は、敵との一切交渉、しません。後、私の村で税を納められなかった人達を鞭で打って更に税を上げました」


早口にそれだけ言うとリアは再び夜叉王丸の背中に隠れた。


「・・・・・本当にどうなさるんですか?」


かなり怖がられているようでフレアは嘆息した。


「・・・さぁな。ただあいつらが無事に帰れるように全力を出すだけだ」


空を見上げて答える夜叉王丸。


「・・・しかし、交渉を断り戦いを挑んできたら?」


「その時は・・・・・ヴァレンタインには悪いが剣を交える」


沈痛な表情で言葉を放つ夜叉王丸にフレアは何も言えなかった。













「・・・・・・・・・」


私はリナ達を部屋に残し男爵を探しに出ていた。


ユニエールとの交渉で話しをしたかった。


私がどんなに言ってもユニーエルは恐らく男爵との交渉を断り剣を抜くだろう。


そうなれば男爵も剣を抜いて血を見る事になる。


それだけは何としてでも回避したい。


ユニエールの剣なら男爵を殺し切るかもしれない。


私の目の前で男爵が斬られるなんて嫌だ。


そんな気持ちが何時の間にか出ていた。


途中で屋敷の使用人と会い男爵の場所を尋ねると今なら離れの部屋にいると言われた。


離れの部屋は屋敷の北にありかなりの時間を労した。


部屋に辿り着いた私は心を押し付かせ息を整えるとドアを数回、叩いた。


「・・・・・・誰だ?」


ドア越しから低い声が返ってきた。


男爵の声だった。


「・・・・ヴァレンタイン子爵です。お話があり来ました」


「・・・・・・・・」


少しするとドアが開き中から漆黒の服を着た男爵が出て来た。


「・・・・・入りな」


それだけ言うと私を中に招き入れた。


部屋の中は私が与えられた部屋とは違い質素な作りだった。


簡素なベッドに薄汚れた机と椅子、傷ついた家具だけで後は何も無かった。


男爵は私に椅子を勧め自分は壁を背に腕を組んだ。


その様子から奇襲を考えての行動だと解った。


「で?ユニエール侯爵との交渉で話とは?」



左の黒眼で私を見る視線は強く逞しくそれでいて獣のような目付きだった。


「・・・・ユニエールは恐らく男爵様との交渉には応じません」


「・・・・・・・それで」


「恐らく私を助けに来ると報告されていると思いますが、それは違います。ユニエールは・・・・・・・・・・・・」


一度、言葉を切る。


覚悟を決めて口を開いた。


「・・・・・・・ユニエールは私を殺しに来るんですよ」


「なっ・・・・・・・」


これには男爵も眼を見開いた。


「私の事を恐らく男爵様の慰み物になった娼婦と言って殺します」


ユニエールの性格なら婚約者以外の者に肌を許した淫乱女と称して私を殺すはずだ。


実際は男爵に抱かれていないがユニエールは嘘だと切り捨てるだろう。


「・・・・・・ユニエールは私を斬った剣で男爵様に襲い掛かります」


「お・・・・・・・」


「私は天界に帰っても自害せず敵の捕虜になった罪で死刑確実ですから」


男爵の言葉を遮って言葉を放った。


分かっていたのだ。


敵に捕まった時点で私の人生は終わりなのだと・・・・・・・・・・・


貴族であり部隊長の私が捕虜になるなど恥曝しも良い所だ。


それでも、あの美しく綺麗な花畑のある天界に帰りたかった。


そして男爵が何を言おうとしたのかも解っている。お前はそれで良いのか?


解ったのだ。


彼ならそう言うと解ったのだ。


僅かな時しか一緒にいないのに彼が言おうとしている事が解ってしまったのだ。


「彼の腕は天界でも指折りです。幾ら男爵様でも勝てないです」


ユニエールと戦ったら男爵でも負けるだろう。


私ごとき捕虜のために死んで良い将ではない。


私が死ねばこの男と部下は助かる筈だ。


「・・・・・だから、男爵様は私に構わずユニエー」


「・・・ふざけた事を吐かしてんなよ。小娘」


私の言葉を遮って男爵が口を開いた。


「何だ?その下らない理由は?そんな理由でお前は死ねるのか?」


ギロリと私を見る瞳の強さに今まで感じた事の無い恐怖を感じた。


「娼婦の何処が悪い。身を挺して男を喜ばす良い女達だ。それの何処が悪い」


壁から離れ男爵は私に近づいた。


怖い。


ただ純粋に怖いと感じた。


「仮にユニエールが娼婦を嫌ってもお前は娼婦じゃない」


男爵から離れようとして壁際に追い詰められた。


「で、でも、私は貴方の捕虜に・・・・・・・」


視線を逸らす私に男爵は顎を掴んで強引に向かせた。


間近で男爵の黒い瞳とぶつかり、その瞳に宿る強さに眼が離せなかった。


「お前は勇敢に孤軍奮闘した。それに敬意を表し俺が招いた客人だ。捕虜なんかじゃない」


私の言葉を言い訳のように言い切る男爵。


「お前は俺の客人だ。相手が婚約者だろうがコンニャクだろうが糸コンニャクだろうが俺の客人に手は出させん」


「・・・・・男爵様」


何故、そこまで真摯になるの?


私の問いに男爵はただ


「言ったはずだ。お前は客人だと」


「良いか?ユニエールが来てお前を娼婦と罵ろうが気にするな。お前は汚れてない。清らかな身体だ。分かったな?」


「・・・・・・・はい」


ゆっくりと頷く私に男爵は顎を掴んでいた手を放し私から離れた。



「なら、この話は忘れろ」


早口に言うと男爵は壁に掛けてあった剣を取ると部屋から出て行った。


「・・・・・・・・」


後に残された私は男爵のあまりの感情を露わにした姿と間近で見た瞳に腰が抜けて動けなかった。

一気に距離が縮まりましたかね?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ