序章:捕虜から客人へ
飛天夜叉王丸の二十四人の妻達の一人のヴァレンタインを主人公にしました。
まだまだ、夜叉王丸の物語は終わらないので、どうかお付き合い下さい。
「・・・・・・・・・」
皆が復員船や馬車などに乗りながら帰る姿を私は捕虜が収監される鉄格子の付いた窓から見下ろしていた。
復員船や馬車に乗る兵達の中には私の部下や共に戦った友人たちも混ざっていて皆、私の事など忘れているかのように笑顔だった。
その友人、部下達の姿を見て目元が熱くなった。
私は戦で敵の騎士に破れ捕虜の身になり仲間と共に敵の陣地に構えられた牢に幽閉された。
そして戦が終結し皆が帰れるのに私だけが帰還を許されずに牢に幽閉されたままであった・・・・・・・・・・・
「・・・・・何で、私だけが・・・・・天界に帰れないのよ・・・・・・・」
誰も見ていないので私は嗚咽を漏らし一人で泣いた。
「どうして・・・・・?天界のために、必死に戦って来たのに・・・・・・」
「なんで、皆が帰れて、私だけが・・・・・・・」
一人で泣いていると
ギィ
錆び付いた魔法防御が施された鉄製の扉が開いた。
「・・・・・・ッ」
反射的に私の涙は止まり牢の中に入って来た人物を凝視した。
歳は二十代後半で真新しい鮮血が見た事もない黒い鎧にこびり付いて周りを恐怖させた。
右の目は眼帯で隠し腰まで伸びた黒の長髪は無造作に後ろで結わえられ左だけの瞳で鉄格子の近くで蹲っていた私を見下ろしてきた。
「・・・・・・・」
無言で私を見ていたが不意に私の前に膝を着くと手を伸ばしてきた。
「さ、障るなっ」
パッン
伸ばされた手を私は力一杯に振り払ってしまった。
「・・・貴様っ」
男の後ろにいた軽鎧を身に付けた兵は身を乗り出してきた。
「・・・・止めろ」
男は兵を手で制した。
「しかし男爵様!」
兵が大声で男を見た。
男爵、っという事は私の処分を言いに来たのだろうか?
「俺の事は良い。それより子爵令嬢を風呂に入れ客室に案内しろ」
「は?いや、あの?」
兵は何を言われたのか混乱していた。
「このヴィクトリア・レオノチス・ヴァレンタイン子爵令嬢は今から捕虜から客人の扱いをする事に決まった」
「・・・・・え?」
「きゃ、客人、ですか?」
兵は驚愕の表情を隠せなかった。
それは私も同じだった。
何故、敵軍の将校である私を客人の扱いなんて・・・・・・・・・・
「あぁ。いま決まった事だがな。まぁ、後は頼むわ」
ぽんっと肩を叩き男爵と呼ばれた男は部屋から出て行った。
「え?あ、ちょっ、男爵様っ」
呆然とする兵と私を残して男爵は去って行った。
これが私と未来の夫となる飛天夜叉王丸の運命的な出会いだった。
今年最後の小説です。
これからもどうかドラキュラの小説を宜しくお願いします。