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5日目



...



 昨日はやけに疲れた。嫌われてんのも嫌やけど、やけに好かれてんのもめんどくさいなぁ……。

 今日は余裕を持って寮を出てきたので、昨日のことを振り返りながらゆっくりと歩く。なんやったんやろあれ、と呟いた。

 途端、背中に激痛。この痛みには覚えがある。つい四日前に味わったばかりだ。


「……朝からなんやのん涼くん」

「目障りな人がいたので、つい」


 デジャヴ。つーか、いつもの涼くんに戻ってる?

 握ったグーの手を俺に向けて、死んだ目の涼くんが舌打ちする。なんですかその顔、と言われた。俺、なんか変な顔しとった?

 首を傾げると、涼くんは俺をギリギリと睨み付けながら、また舌打ちをした。それからもういいとばかりに顔を背け、俺の肩を思いっきり殴ってから走っていってしまった。

 なんかこれもデジャヴ。ちゅーかいろんなとこが痛いんやけど。

 肩を押さえて歩きだした俺に、本日第二の刺客が登場。いやまぁただ学校に向かう途中の教師とエンカウントしただけやけど。あ、通学中に教師と会うのは珍しいかもしれんなぁ。

 そんなわけで俺の前に現れたのは、猫耳帽子がトレードマークの雪汰先生。でも今日は猫耳帽子じゃなく、猫耳カチューシャを付けていた。ナチュラル過ぎて、最初みた時には気付かなかったわー。しかもご丁寧に、尻尾もついている。


「おはようございまーす、雪汰先生!」


 声をかけると、雪汰先生は振り返って「なんだ光かよ」と言ってきた。俺だとあきまへんの?


「ま、とりあえずLabas rytas」


 そう言って軽く手を振り、雪汰先生はさっさと居なくなってしまった。

 らーばすりーたす? ってなんですのん。どこの言葉や。

 遠くで、木の枝が折れるような音がした。



* * *



「関西弁て、今時ダサイよねー」


 そんな言葉が聞こえてきて驚いた。しかもその声が、弥生先輩の声だからさらに驚いた。

 弥生先輩といえば、理事長の娘だというのに気取らない態度で人気がある人だ。理事長は綺麗な標準語を喋るが、弥生先輩は快活な関西弁を話す。……関西弁を話す。

 あの先輩関西弁やんな!? でも今、関西弁馬鹿にしとったのも、弥生先輩やんな?

 どうやら弥生先輩は廊下で夕月先輩や莉緒先輩と話しているらしい。少し離れたところで、壁に張りつくように耳を澄ませる。盗み聞きは趣味とちゃうんやけどな。


「わかる、わかるわ! 今時関西弁なんて時代遅れよね」

「そうね、綺麗な標準語が話せてこそ大人よね」


 同意せんといてくださいよ!

 その後も、三人の会話は続く。なんで弥生先輩は終始標準語なんやろ。いつもの関西弁は?

 ていうか、関西弁馬鹿にせんといてください。

 聞いてるうちに悲しくなって、静かにその場を離れた。



* * *



 放課後、携帯を開くと図書委員の夕月先輩からメールが入っていた。図書室に入り切らなくなった本を倉庫に運ぶのを手伝ってほしいらしい。

 だから生徒会には遅れるかもしれん、と侑葉に告げる。侑葉は興味なさげに頷くと、早々に俺を置いて教室を出ていってしまった。

 鞄を持ち上げる。

 そのタイミングで、閉められていたらしい教室の扉が、スパーンっと音を立てて開けられた。中にいた生徒の視線が、みなその扉に向けられる。もちろん俺も見る。

 ちょうど開けた張本人らしい結衣ちゃんが、滑り込むように教室に入るところだった。

 それから教卓の位置に立ち、スカートについた埃を払ってから正面を向く。俺は教卓の目の前の席だから、しっかりとその濃紫の瞳と目が合ってしまった。

 結衣ちゃんはツインテールにした黒い髪を両手で持ち上げ、そのままくるくると回し始める。それからにやりと笑った。


「野生のヤンデレが現れた!」


 高らかに放たれたその言葉は、結衣ちゃんの声だった。いやまぁ目の前で口動かしとるんやから、間違いなく結衣ちゃんやけど。

 意味がわからず立ち尽くす俺に、結衣ちゃんはツインテールをぶつけてきた。地味に痛い。


「痛いわ! なにすんねん!?」

「野生のヤンデレのターン! 一条先輩に20のダメージ!」

「質問に答えて!」

「野生のヤンデレは逃げ出した」


 言い放ち、結衣ちゃんはツインテールを持った体制のまま教室を出ていった。

 結局質問には答えてくれへんかったしな! ほんま何しに来たん、あの子。俺別にあの子とは仲良くないんやけどなー……。

 しばらくそのままぽけーっとした後、夕月先輩からのメールを思い出して教室を出た。



* * *



 夕月先輩から渡された本の束を抱え、倉庫に向かう。思っていたほど量がなかった。後ろを数歩遅れて歩いている夕月先輩も、俺と変わらん量の本を抱えている。全部俺が持つと申し出たら、断られた。

 倉庫に着き、指示された場所に本を置く。雑に置いたせいで、山になっていた本が少し崩れた。

 崩れた本の山の中から、薄いパンフレットのような物が床に落ちる。表紙には『台本』と書かれていた。……この字、夕月先輩?

 夕月先輩の様子を伺うと、崩れてしまった本をまた山にしているところだった。『台本』を手に取り、開いて見る。


 最初のページに俺の名前を見つけた。横に、赤いペンでターゲットと書いてある。


 次のページには、四日前の日にち。

 『夜陰宵斗。予言カレンダーを渡す』

 そういえば四日前に宵斗先生に変なカレンダーを渡された。


 その次のページには三日前の日にち。

 『飯村勇気。秘密道具を取り出すふりをする』『久遠侑葉。「にゃんっ」と鳴く』『小日向莉緒。「お姉さんと遊ばない?」と迫る』『白鳥ゆきな。思わせ振りなことを言う』『七海海羽。吐血する』『猫山氷汰。何でもいいから痛い目に合わせる』『水無月憐奈。手作り弁当(ただし作るのは別の人)を渡す』


 もう一つページをめくると、一昨日の日にち。

 『一ノ瀬澪。男子トイレに侵入』『音無琉歌。スーパーハイテンションで挨拶』『如月奏。トイレから飛び出る』『神宮紗依。頭にリボンをつける』『西崎十哉。掃除用具入れから飛び出す』『氷室翔太。饒舌に話す』『藤崎朔弥。保健室を封印する』


 さらにページをめくると、昨日の日にち。

 『矢吹涼。一条さん至上主義になる』


 そして次のページには今日の日にち。

 『和泉弥生。標準語で関西弁を馬鹿にする』『篠崎結衣。RPG風に登場する』『猫山雪汰。猫耳つけて、外国語で挨拶する』『水明夕月。この台本をわざと拾わせる』


 見覚えのある、やられた覚えのある、そんなことが書かれていた。夕月先輩の作業する音をBGMにしながら、さらにもう一ページめくる。

 大きな文字で、たった一言だけ書かれていた。


 どっきり大成功!!


「はぁあぁぁぁ!?」


 思わず声を上げる。後ろから、夕月先輩がクスクスと笑う声が聞こえてきた。

 バッと振り返り、夕月先輩を睨み付ける。


「これ! なんですか!!」

「見ての通りよ」

「なんでターゲット俺なん!?」

「なんとなくよ!」


 なんとなくで俺は傷口に塩水塗られたりしたん?

 深呼吸を繰り返してなんとか冷静になる。詳しく聞いてみると、どうやら主犯は夕月先輩らしい。他の奴らは"快く"協力してくれたとかなんとか。

 この先輩、絶対脅したやろ。じゃなきゃ会長とか憐奈はまだしも、莉緒先輩や侑葉があんなことするはずがない。


 ちゅーか……


「何人か俺へのどっきりっていうより罰ゲームやらせてるみたいな人おりましたよね」


 涼くんとか、わりと皆。

 それも一興よ、と夕月先輩は可愛らしくウインクしてみせた。


 そういうもんやろか。

 にしてもどっきりで良かった。みんな頭おかしくなってもーたのかと思ったわ。




           おわろう

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