4日目
...
「一条さん! あぁ、おはようございます一条さん。今日は天気が良いですね。青い空に、一条さんの金色の髪が映えてとても綺麗です。あ、そういえば今日は一条さんのためにジャスミンティーを作ってきたんです。僕、あんまり料理は得意じゃないですけど、お茶ぐらいなら淹れられるんです。飲んでくれますよね? だって一条さんは優しくて……」
「待て待て待て!!」
朝から怒涛の勢いで話し掛けて来たのは、俺のことが嫌いだと豪語するいやーな後輩。いつも通りのヒカリの灯らぬ赤茶色の瞳で俺を見上げ、俺のツッコミが言葉を遮るまで、ひたすらに話し続けた。朝の挨拶から始まったはずのソレは、最終的に関係のない話になりかける。
落ち着け! 多分話し掛ける相手間違っとんで。そのデレ全開の後輩キャラを向けるのは、世界で唯一侑葉だけやろ?
間違っても俺相手にそれはないわ。出会い頭に殴られそうになり、暇だと呟けばじゃあなんで生きてるんですかと訊ねられ……。いつもそんな扱いやのに。
「なんですか?」
「ん、いや、……侑葉ならさっき駆け足で学校行くの見たで」
こてんと首を傾げる涼くんに、校舎を指差しながらそう伝える。
そうですか、と真顔で学校に向かって駆けていく涼くん。……を予想してたのに、涼くんは眉間にシワを寄せてはぁ? と言っただけだった。
「なんで副会長が出てくるんですか? そんなことより僕は一条さんにこのジャスミンティーを飲んでいただきたくて……」
魔法瓶を胸元まで両手で持ち上げ、期待のこもった眼差しを俺に向ける。
それより俺はパニック。副会長ってなに!? なんでそんな他人行儀な呼び方になってるん? 侑葉をそんなこと呼ばわりしとるし、しかも侑葉より俺?
目を白黒させる俺を見て、涼くんが不安そうに俺を見つめる。飲んでくれないんですか……? と消え入りそうな声で聞かれた。
「えっ。いや、いや、うん、の、飲むよ。ありがとなー」
よくわからないけど可愛い後輩の期待は裏切れへんねん。普段は全然可愛ないけどな。
涼くんから魔法瓶を受け取る。ずっと涼くんが持ってたからとかそんなの関係なく、温かかった。
それからお昼休み。チャイム同時に涼くんが颯爽と登場。お昼ご一緒していいですか? という問いに曖昧に頷く。ていうか隣の席に侑葉がいるのに綺麗にスルーしとった。
生徒会の仕事を終えて帰ろうとしたら、また涼くんが颯爽登場。お荷物お持ちします、一緒に帰ってもいいですか? と訊ねられてとりあえず荷物持ちは断っておいた。
俺が自分の部屋に入る直前までついてきて、正直鬱陶しかった。侑葉はいつもこんなのに付き纏われてるんやな……。