97・名前で呼んでほしい ~ソウキ~
短い文章だけど甘くなーれと願います。
友達と仲直りしたおかげか最近の萌香はかなり上機嫌だ。それに、学校の事やバイトの事など色々、話してくれる。
「鬼さん?」
「うーん」
こうしてみると、オレと萌香の関係は父親と娘みたいな風に思えた。オレとしては親子じゃなくて夫婦の関係になりたいんだけど。そんなことを思いつつオレは今日も萌香と一緒に過ごすのだが、最近オレには大きな悩みがある。
「鬼さんどうしたの?」
そう、萌香はオレのことを鬼さんと呼ぶことだ。別にいやと言うわけじゃないけど、鬼さんじゃなくて名前で呼んでほしいのが本音。
「ん、何?」
「さっきから唸ってるよ」
萌香はホットココアが入ったマグカップを持ちながらオレの隣に座ってきた。もちろん、マグカップの柄は猫。本当に萌香は猫好きだなと思う。
「あー、萌香に名前で呼んでほしいなって考えてた」
「名前?別に鬼さんでもソウキでもどっちでも良くない」
「えー」
「えー、って」
そう言うと萌香はホットココアに息を吹き掛け、冷ましながら口を付ける。少し大きめのパジャマは萌香の小柄さを強調し、萌え袖が大きく目立つ。衝動的に抱きしめたくなったが、今それをやるとホットココアがこぼれて萌香を火傷させる羽目になってしまうので仕方なく止めた。
「そんなに名前で呼んでほしいの?」
「さん付けが嫌だ。何だか他人行儀みたいで距離があるって感じがする」
「そうかぁ〜。じゃぁ、それなら」
後、もう一つ悩みを上げるならば萌香の口から直接『好き』と言う言葉が聞きたい。オレは毎日のように好き好きと連呼しているけど萌香はなかなか言ってくれない。と言うか、萌香はオレの事が好きじゃないのかもしれないとか考え始めて…うわー、なんか考えていることが自己中でナルシストっぽくなる。でも、こうやって寄り添われたり毎日、一緒に寝ていると、どうしても萌香ってオレの事好きなのかなって考える。
「ソウキ、好きです」
「なっ!」
「どうしたの?」
「えっ、名前の後、何か言わなかった?」
「言ったけど」
タイミングが良過ぎるだろ、これが以心伝心か。しかも、上目遣いで柔らかい笑顔、何これ天使か、天使がここにいるぞ!
「オレの事、好きなのか」
「何を今更改まって。あっ珍しくソウキの顔赤いね。もしかして照れた?」
くすくす笑ながらオレの頬を人差し指で突つく。ダメだ、萌香のする事全部がかわいくて辛い。今だって、このままキスして押し倒したい気分なんだ。
「あっつ」
「ちょうど、ココア冷めたし飲む?」
「飲む」
萌香から手渡されたのは空になったマグカップ。
「入ってない!」
「では、鬼さん。一つ聞きますよ?冷蔵庫にあった牛乳プリンを食べたのは一体どこの鬼ですか?」
「それ、もう答えが分かっているよね」
「うん、だからちょっとした嫌がらせをしたの。食べ物の恨みは怖いんだからね」
天使の笑顔から怒りを耐えた笑みに一変。そうだ、冷蔵庫を見たら何か美味しそうなものが入っていたから、つい手を伸ばしてしまったんだ。
「美味かったよ。でも、身長を気にして牛乳プリンを選ぶ萌香もかわいいね」
「目潰しっ!」
「ぐはっ!」
萌香と暮らして分かったこと。萌香の身長について弄ると目潰しをくらう。そんなに身長、高い方が良いのかな?オレは今のままの萌香で良いと思うのに。
「やっぱり鬼さん嫌い。もう、名前で呼ばないだから」
いじけてオレに背を向ける萌香。気が付いたら後ろから抱きしめて膝の上に乗せていた。そして、耳たぶに唇が触れるようにいつもより甘めの声で囁く。
「ごめん」
「〜っ!」
ついでに、耳の裏を舐めて濡らしたところに息を吹きかければ、可愛い声を出して身を捩る。やっぱりオレは押し倒すよりもこっちの方が好きだな。
「またっ耳攻めか!」
「怒るのやめてくれたら、耳攻めもやめてあげるよ?」
「分かった、もう怒らないからやめて」
「あと、名前で呼んで」
「分かったから!」
「毎日キスしたい」
萌香は体を動かしてオレと向かい合わせになると、少し背伸びをして自分の唇でオレの唇を軽く塞ぐ。
「毎日は嫌だけど、たまになら良いよ」
反則的な上目遣い、恥ずかしいのか顔を赤くして語尾の声はか細くなっている。
「じゃぁ1日置きにね」
「多いわっ!」
「痛っ」
顔を赤くしながらオレの頭にチョップしてくる姿さえもかわいく思えてしまう。あぁ、本当に萌香が好き過ぎて辛い。
そう言えば、鬼さんのツノは短いので
前髪で隠れています。
だから、見た目は普通の人間に見えるかな




