95・嫌いとか言わないでよ
ちょっとシリアスなお話。
76話が関わりあります
火ノ江先輩と一緒に干からびたカッパさんを黒沼池に戻した後、近くの公園で土地神様について話し合い中。
「土地神、蔵に引きこもった」
文化祭の時、火ノ江先輩は反省の色が見えたら私の元へ謝らせに行くと言っていたのですが、どうやら土地神様は病んでいる状況のため全く耳を貸さない状況らしい。それどころか現実逃避に引きこもったと言う訳で、ご覧の通り火ノ江先輩は缶コーヒーのブラックを飲みながら頭を抱えている。
「話をすると余計に『あいつを生き返らせる』って固執してなかなか話を聞いてくれない」
「えっ」
「もし、またあなたを襲おうとした時には必ず連絡して、何が何でも助けに行くから」
「…はい」
* * *
とは言ったものの、よくよく考えてみると土地神様が引きこもるきっかけを作ったのは私だよね。体育祭の時、土地神様の傷口を抉るようなことを言ってさ。長生きする妖怪が命の短い人間に先立たれるって、しかもその人間が自分の夫だと、身を切られるよりも痛くて辛いんだと思う。
私は土地神様じゃないから土地神様の気持ちなんて分からない。ましてや、誰かを失った気持ちなんてないから分からない。それでも、もし大切な人が自分よりも先立たれるって言うことは想像したくないし、嫌だ。
『でも、土地神様。その神主様はあなたに生き返らせて欲しいと言ったのですか』
『それは、土地神様のわがままだけなのではないのでしょうか?』
もちろん、私から寿命を奪おうとしたのは悪い事だと思うけど、もし土地神様の立場を自分に置き換えたらどうだろう?
「萌香⁉︎」
「えっ、どうしたの?」
突然、鬼さんに呼ばれて我に返りました。そうだ、今は夕飯を食べていたんだっけ。目の前にいる鬼さんは酷く不安そうな顔でこちらを見てきました。
「どうしたのって、泣いてるぞ」
「あっ本当だ」
持っていた箸を置いてパジャマの裾で両目を擦ります。あー、今ならあの時の土地神様の気持ちが少し分かるかも。
「何かあったのか」
「ううんっ大丈夫!何にもないよ〜」
笑って言ったけどこれで鬼さんは納得しないよね。なにより、泣いているのに何もないよとか言うと反対に心配させてしまう。これは選択ミスだな。
「笑ってごまかす萌香は嫌いだ」
嫌いだー嫌いだーー嫌いだーーー。
突然、真っ正面から今まで聞いたこともない低い声で言われる。そうだよね、笑ってごまかされるのって嫌だよね。いつも好き好き言ってくる鬼さんから正反対の言葉が出てきてなんと言うか、その、目の奥が熱くなってきた。
「うぅっ…笑って誤魔化すのは良くないって知ってるよ…ダメって分かってるよ」
あれ?おかしいな、涙が止まらない。
「嫌われるのも仕方がないけどさ…嫌いとか…」
言わないでよ。最後の言葉は自分で言ったのか覚えがないけど、目の前にいる鬼さんから息を飲む音は聞こえた。すると、目を擦る腕をしっかりと握られ俯いていた顔を上げた先には、私と同じように泣きそうな表情の鬼さんがいました。
「オレは笑ってごまかされるのが嫌なだけで萌香の事は嫌ってない、だからちゃんと話してくれないか?」
『嫌ってない』その言葉を聞いたらなぜか涙が引きました。
「うん」
あと、もう笑ってごまかすのはやめよう。
普段、好き好き言ってくる方に突然、嫌いと言われるとショックですよね…
今回はそんなイメージを執筆しました




