92・二階堂彩乃の驚愕
萌香の友達、和菓子屋二階堂の
二階堂 彩乃視点です。
今日、体育の授業前、女子更衣室で体操服を着替えている時、私はもえかちゃんの見てはいけない痕を見てしまった。
「もえかちゃ」
隣で着替えているもえかちゃんに『もう、着替え終わった?』と聞こうと左横を見ながら話し掛けた私は固まる。なななななんと、もえかちゃんの右側の首筋に赤い花が咲いていたのです!
「これは」
赤い花、いわゆるキスマーク。しかも、キスマークは首筋だけじゃなくて鎖骨と喉にもあった。確か、首筋のキスマークは執着、喉は欲求、鎖骨は分からないけど、とにかく私は今、友達のキスマークに驚きを隠せません。
「あやのちゃん、どうしたの?」
「えっ、な、何もないよ」
どうしよう、動揺し過ぎて声が裏返った。もえかちゃんはもえかちゃんで何事もなかったかのように制服から体操服に着替えようとしているし、どうしよう、すっごく気になる。でも、もえかちゃんに首筋のキスマークって誰に付けられたの?だなんて気軽に聞けない!
「おっふぅ!」
「あ、あやのちゃん⁉︎」
もえかちゃんが制服を脱いで下着の上に着ている淡い水色のタンクトップ姿になると、更に驚愕の事実が判明。ちょっと、タンクトップで見えにくいけど大体、胸の上ら辺にもキスマーク。
ピシッ!驚きのあまり眼鏡にヒビが入ってしまった。
「あやのちゃーーん!」
胸は所有。って言うかもえかちゃん、どんだけキスマークを付けているの⁉︎その前に誰に付けられたの⁉︎委員長ですか!委員長なのですか!ついに2人は結ばれたのですか!
「はわわわわ」
「ゆいちゃん!あやのちゃんが産まれたての子鹿みたいに震えてるよ」
「風邪引いた?」
どうしよう、すっごく気になる。とりあえず水戸部君と会議しよう。
昼休みが終わる5分前、校舎の屋上で水戸部君と一緒にいます。今は私たち以外に誰もいないから誰かに聞かれることはない。他所から見ればきっと、私たちは今から告白する男女に見えるかもしれないな。話している内容は告白とは180度違うけど。
「えっ⁉︎その話マジか!」
「他言無用でお願いします」
「当たり前だろ」
私たちの関係をざっくりまとめると、水戸部君は友人の恋路を応援したい、私は健気で真面目な委員長を応援したいと後期に入ってから意気投合し『委員長ともえかちゃんの恋路を温かく見守りつつ、事あるごとのイベントで良い感じの雰囲気を作ろうぜ』と決めた。
例を挙げるならば文化祭の時、私と水戸部君は薄暗くなった教室で委員長にわざとぶつかり、そのまま委員長がもえかちゃんを押し倒すというサプライズを考えていたけど、結局、当の本人は風邪で休んでしまったため計画は失敗に終わった。
「あいつはまだ告白してねぇから、他の奴がやったって考えが妥当だな」
「委員長押しの私たちにしてみれば、その他の奴が気になるよ」
「でも、最終的に決めるのは」
本人次第。
「いや、そもそもキスマークがあるっていることはその人に体を許しているってことだよね。だったら委員長に勝ち目は無いっていうことになる?」
「あー、悩んでても仕方ないから聞いてみるか」
そんなあっさりと!まぁ、もやもやするよりかは良いけどね。
* * *
5限目が終わり、水戸部君がもえかちゃんにズバリ聞こうとしたんだけど、その前に授業で分からないところを聞きに来たゆいちゃんがもえかちゃんのキスマークに気付いた。
「もえちゃん、その首の赤いのってキスマーク?」
「キスマーク⁉︎」
「うん、ほらこれこれ」
ゆいちゃんは胸ポケットからミニ鏡を取り出してもえかちゃんの首筋にキスマークがあることを伝える。
「これ、なんだろう?」
あれっ!本人が知らないの?もえかちゃんは自分の首筋にあるキスマークを触り首を傾げた。その様子を見ていた私と水戸部君はお互いに向き合ってヒソヒソと話す。
「本人が知らないってことはキスマークじゃないってこと?」
「そうなるな」
と言うことは、私の見間違え?いや、それは無いな。もしかして虫刺されとか?どちらにしろ、私が早とちりしたらしい。
「これ、虫刺されかも」
「そうなんだ〜!」
「そうだよ〜。ははは〜」
もえかちゃんがゆいちゃんに笑いかけているところを見ながら私は水戸部君に謝った。
「ごめん、私の早とちりだった」
「いや、あれは俺も確実にキスマークって考えるから」
もえかちゃんの首筋を見た水戸部君は肩を竦める。はぁ、これで胸のもやもやは消えたよ。席が遠いはずの委員長にもどうやら、もえかちゃんとゆいちゃんの会話が聞こえていたらしく、もえかちゃんがキスマークを否定したらほっと一息をついていました。
「ソウキめ……」
あれ?今、もえかちゃんが何か言ったような気がしたけど、空耳かな?
あっ、萌香は虫刺されと言っていますが
キスマークで合っています。
今頃、鬼さんによってハロウィンの日に付けられたキスマークに気付き、萌香はとっさに嘘をついてしまったのです。
次回はそこら辺のお話です




