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85・文化祭 ~転結~

ゆいちゃんと一緒に火ノ江先輩のクラスの喫茶店でお茶をした後、午前組と交代して私達のクラスの出し物であるハロウィン風お化け屋敷に来た人々を脅かしました。


「ふははは!我に跪け愚民どもよー!」

「水戸部さん、ノッてるね」

「でも、発言が痛い子みたい」

「ゆいちゃん、それ言ったらダメだよ」


教室の床には所々ランプがあります。これは転倒防止策、ちなみにこれを考えたのは委員長。脅かすにも様々な種類があって、子供連れの親子が来たらあまり怖くないようにしたり、カップルが来たら背後から忍び寄り、主に男性に向けて水鉄砲を何度も発射。あとは血糊を付けたコウモリや十字架を床に撒き散らしたかな。


「冷たいっ!」

「あっ、すまん。撃つ相手間違えた」

「委員長に言いつけてやる」

「俺、あいつの息子じゃないし!」


一番怖いと思ったのは、みんなのホラーメイクと脅かす時の動き。切り傷とか火傷とかどうしたらそんなにリアルな傷が出来るのだろうかと思ったし、動きなんて奇妙過ぎてホラー映画が大丈夫な私でも顔が青くなったよ。


そうしているうちに時間はどんどん過ぎて、いつの間にか閉会式が行われ文化祭は終わっていました。本当に楽しい時間は早く過ぎて行くように感じるね。


窓に張ったダンボールや飾り付けの後片付けは、クラスのみんなの早く家に帰りたいと思う精神が強く働いたのか、30分も掛からず終了しました。


「ゾンビメイクが落ちない、帰りどうしよう。すれ違う人に変な目で見られるよ」


特に右頬の切り傷メイクはなかなか落ちない。これは、家に帰ってから石鹸でゆっくり落とした方が良いかな。でも、その前に商店街で鬼さんを驚かせるためのクラッカーを買わないと。


「店の人、驚くだろうな」


女子トイレの鏡の前で独り言を言っていると、遠くからゆいちゃんが私を呼ぶ声が聞こえました。しょうがない、このまま行くか。お店の人にはちゃんと理由を言って驚かないようにクラッカーを買おう。




* * *




いつもの分かれ道でゆいちゃんと離れ、商店街の片隅にある少し古びた雑貨屋で5本入りで20円のクラッカーを買いました。案の定、私が店の中に入ると、店主のおじさんは腰を抜かし、おばさんからは念仏を唱えられ、私の心に大きなヒビが入りました。


「はぁ、驚いた」

「萌香ちゃんだったのね」

「ここに来る間も商店街の方々から驚かれたり避けられたり」

「そりぁ、分かる」

「心配する前にこっちが何も言えなくなるわ」

「その頬のメイク、なんとかならないか?」

「落ちませんでした」


幸い、店の中に人がいなかったことが良かったです。もしいたら、おじさんはとおばさんのような被害者が増えていたと思う。


「一応、絆創膏で隠しなさい」

「ありがとうございます!」


おじさんから絆創膏を貰ってなんとか傷を隠すことに成功。これでもう、商店街の方々に避けられることもないね。と言うかなんでこんな良い方法を早く思いつかなかったんだろう。


クラッカーを買った後、ついでに今晩の夕飯に使う野菜やコロッケを買い、商店街から抜けた2車線の道路を歩いていると火ノ江先輩がバスケ部の先輩をフった公園で小学生や小さな子供達が元気に遊んでいるのが見えました。


「元気だなぁ」


友達と一緒に砂場でお山を作る幼稚園児やドッチボールをする小学生、はたまた砂場の近くにあるベンチに座って楽しそうに話し込む親御さん達。


「ドッチボールね」


私はよく逃げ回って最後まで残るタイプだったかな。もう、何年もやってないから懐かしい。そう思いながら公園を通り過ぎ、少し進んだ十字路の交差点で赤信号を待っていました。ようやく赤信号が青に変わり横断歩道を歩いていると右隣の方からジェットコースターが走っているような大きな音が聞こえてくるではありませんか。


「ん?」


今、この横断歩道には私しかいません。ついでに言うなら信号待ちをしている車も見当たらない。つまり、この場にいるのは私とーー。


「えっ」


音のする方を見ると、大型トラックが私に向かって突っ込んでくるのが見えます。気が付いた時にはもう遅し、目の前までトラックが迫っていました。そんなわずかな時間に運転席を見ると、なんと運転手が居眠りをしていたのです!


()かれる!」


もしかして、私の寿命はここまでだったのかな?って、そんな悠長なことを考えている場合じゃなくて!今からトラックを回避することはどう考えても不可能。何も出来ない私は思わず目を瞑ることしか出来ませんでした。


「…っ!」


目を瞑るとトラックに轢かれた衝撃や痛みはありませんが、ふわりと体が宙を浮く感じはしました。あれっ、私トラックに轢かれたんだよね?恐る恐る目を開けてみると、どうやら私は誰かに抱えられ体をくの字に曲げて宙に浮いているようです。それに、目下(もっか)には先程まで私がいた横断歩道が小さく見えます。


「怪我ない?」


低ボイスで私の知っている声の主は横断歩道の近くにある高いビルの屋上のフェンスに片手で掴まり、もう片手で私を抱えているようです。


「怪我は無いけど…私っ、高いところはダメなのっ!」


涙目になり体をぷるぷると震わせながら首だけを後ろに回すと驚いた表情の鬼さんがいました。すると、私を抱えていた腕の力が弱くなり。


「落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる!」

「あっ、手が滑ったー」

「何が『手が滑ったー』よ!しかも棒読みでさ、絶対にわざとでしょ!」

「ちょっ、そんなに暴れると本当に落としそう」

「蓋を開けたら性格が悪かったとかないわー」

「あっ、手が」

「ごめん!謝るから地面に下ろして。お願いっ!」

「それじゃぁ」

「鬼さん、ここから下ろすとか言わないでよね?」

「いやー、萌香の反応がおもしろかったからつい」


助けれくれた事には感謝しないといけないけど、その後の行動で鬼さんの好感度が一気に下がりました。


「今日の夕飯は激辛にしてやる」

「ハハッ!」


何がおかしかったのか鬼さんは爆笑しています。バカにしたような笑いじゃなくて面白いテレビ番組を見た時のような笑い。とりあえず、地面に下ろしてもらったら、さっきの仕返しとして一発、殴っても良いかな、良いよね?あれ、本当に怖かったんだからっ!



べ…別にお約束な展開でも良いでしょ!

↑謎のツンデレごめんなさい


次回はソウキ視点のお話


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