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84・文化祭 ~起承~

鬼と少女の関係が変わるまで残り…

とある10月の金曜日、文化祭当日の朝、今まで降っていた土砂降りの雨はまるで嘘のように消えて空は秋晴れです。


「ゴミ出し終了!さて、行くか」


前日に部屋に溜まったいらないチラシや使わなくなったノートを大きな袋にまとめて学校に行く前にゴミ置き場へポイっとな。


そして、今日は文化祭当日でもあり私が鬼さんに視えるということを打ち明ける日でもあります。いやー、あれからよく考えて打ち明けるのは今日が良いかなと思いました。


だって、今日は金曜日で明日はお休みの日。しかも和菓子屋二階堂は臨時休業で我楽多屋のバイトは蓮さんの都合によって無い。もし、鬼さんが『なんで視えないフリをしていたのかー!』とか色々質問して来てもゆっくり答えられるからさ。


「寒っ!」


突然吹いた秋風は寒いよ、もう少しでマフラーと手袋がいるかな。確か部屋に毛糸があったはず、買うともったいないから作ろうっと。


「あっ、帰りにクラッカー買わないといけないや」


誕生日に鳴らすあの円錐のクラッカーです。結局、私が考えたのは鬼さんの背後から忍び寄りクラッカーを鳴らし驚いたところで打ち明けるというサプライズ。さて一体、鬼さんはどんな反応を見せてくれるのでしょうか?




* * *




学校に着くとまずは体育館に全生徒が集合して生徒会長からの手短な開会式の言葉を聞いた後、各クラスに戻り出し物の最終チェックに入ります。


私達のクラスは前日の夜遅くまで学校に残り、窓という窓の全てにダンボールを張って外からの光を遮断する作業とハロウィン風お化け屋敷なので机や椅子を重ねて教室を迷路のようにしたりと大忙しでした。


「確か私って座敷童の役だったよね?なんでメイド服を渡されているのかな?」

「誰も役を変更しちゃダメって言ってないよ?それにもえちゃんはメイド服の方が似合うと思うな。あっそうそう、後でゾンビメイクもするからね」


ハロウィン風お化け屋敷が始まる30分前、私はあやのちゃんからメイド服を渡されていました。本当は座敷童の役だったけどゾンビメイドと言う単語に惹かれて着てみるとサイズはピッタリ、まるで委員長の家に住むキキーモラのキィさんになった気分です。


「あれ、そう言えば委員長は?朝から見てないけど、どこにいるのかな」

「そうだね、昨日まではいたのに」

「委員長なら今日は風邪で休みだよ?」


私達に話しかけてきたのは吸血鬼の格好をした委員長の友達の水戸部さん。成る程、だから、委員長の代わりに吸血鬼の役をやっているのかー。じゃなくて、委員長が風邪⁉︎昨日までは元気だったのに大丈夫かな。


「宮川さんのメイド服姿を見たらすぐ治ると思うから、はいチーズ」


喋りながら器用にゾンビメイクをする前の私を水戸部さんの携帯カメラで撮られました。しかもこれがまた手ぶれが無く絶妙な角度から上手く撮れているのが凄い。水戸部さんの将来はカメラマンが似合うと思う。いや、その前にメイド服姿を見れば風邪が治るとかそんな事はないよね?


「あとで、委員長に安否確認しないと」


そう呟いたあと、私はあやのちゃんにゾンビメイクをしてもらい、デカデカと書かれた『ハロウィン風お化け屋敷!1年2組でやっているよ』と言うプラカードを持って、ゆいちゃんと一緒にお客様集めの旅に出かけました。


「お化け屋敷安いよー、美味いよー」

「ゆいちゃん、食べ物の宣伝じゃないんだから」


現在、時刻は9時ごろ。2階の2年生の廊下を大きなプラカードを持ち宣伝しながら歩いていました。ハロウィン風お化け屋敷はクラスの中で午前組と午後組に分かれて行います。午前組がハロウィン風お化け屋敷をやっている間、午後組は文化祭を楽しみつつお客集めの旅に出かけるのが仕事。


「平日なのに人がいっぱいだね」


グラウンドは親御さん達の車で埋め尽くされカラフルです。ゆいちゃんは宣伝用の広告をすれ違う人々に渡しながら模擬店で売っているたこ焼きを買って食べてはまた何かを買って胃袋に詰めての繰り返し。私も午前組のあやのちゃんから頼まれた2年5組で売っているマフィンを買いました。


「火ノ江町の人達は祭好きだから平日でも来るんだよ」

「そんな特性があるの⁉︎」

「今考えた」

「即興ですかーい」


ゆいちゃんの即興に笑いながら、ふと窓の外を見るとジタバタと動く緑色の大きな物体を片手に持った白い髪が映える紺色の着物姿の火ノ江先輩がゴミ捨て場に向かっているのが見えました。確か火ノ江先輩のクラスの出し物は和服喫茶店だったはず。


「ん?あれは見たことある緑色」

「もえかちゃんどうしたの?」

「ちょっと、これ持ってて!すぐ戻るから!」

「えっ!りょ、了解」


火ノ江先輩が持っていた物は物じゃない!あれは、私にメリーさんストラップをくれた語尾に『ッス』が付くカッパさん。私はゆいちゃんにプラカードとあやのちゃんから頼まれたお菓子を渡して急いで火ノ江先輩が向かうゴミ捨て場に向かいました。


「しかも、カッパさんが暴れてる!火ノ江先輩も私と視える人なの⁉︎でも、土地神様は視えないとか言ってたし」


頭の中を整理するように口に出しながら、ゾンビメイクに血糊が付いたメイド服で階段を駆け下りました。すれ違う人達に怖がられたけど今はそんなのを気にしている場合じゃない。でも、小さな子に泣かれたのは心が痛かったよ。


「ひ…火ノ江先輩」


息を切らして火ノ江先輩の元に辿り着いた時、ちょうど火ノ江先輩がゴミ捨て場でカッパさんをロープで縛っているところでした。その近くには何も入っていない黒色のゴミ袋もあります。


「嫁さんっ!」

「宮川さん?」

「嫁さんっ、助けて下さいッス!」


私は火ノ江先輩からカッパさんを遠ざけて数歩、後ろに下がります。たくさん聞きたいことはあるけどまずはカッパさんの件についてから。


「火ノ江先輩、なんでカッパさんをロープで縛っているのですか!」

「宮川さんは女子の更衣室で覗き見をする奴を野放しにするの?」

「あっ、それなら続きをどうぞ」

「嫁さんっ!」


カッパさんを火ノ江先輩に差し出してロープで縛ってもらいました。一瞬、火ノ江先輩が人畜無害そうなカッパさんに酷いことをしているように見えたけど、何も理由の無いままこんな事をするわけがないよ。ちゃんと理由を聞かないといけないね。


「可愛い女の子達がこの学校に入って行くのを見て、つられて来たらここに辿り着いて、ほんの出来心だったんッス。許して下さいッス」

「この、エロガッパが」

「嫁さんなんとか言って下さいッスよ〜」

「覗き見する方が悪いよ。それとさ、この前から気になってたんだけど、なんで私のことを嫁さんって言うの?」

「よくぞ聞いた下さったッス!もちろんそれはワシの未来の嫁さんッスから!」

「火ノ江先輩、ここにガムテープがありました。これで口を塞いでも良いですよね?」

「どうぞ」


火ノ江先輩にロープで縛られ、首から下をゴミ袋に入れられ、おまけとして私に口をガムテープで貼られたカッパさんを放置して、私は火ノ江先輩に改めて聞きました。


「火ノ江先輩も視える人なんですね」


視えるけど、ずっと前に土地神様と私が一緒にいた時は土地神様に反応しなかったから、委員長と同じで小さな物の怪などは視えるけど、土地神様クラスのレベルの高い妖怪は視えないのかな。


「神社の娘だからね。それと、体育祭の後、土地神があなたに酷いことをしたのね。ごめんなさい。今、あいつを説教中で、もう少し反省の色が見えたら何が何でも謝りに行かせるから」

「土地神様も視えるの!」

「6歳の頃から視えるけど」

「じゃぁなんで今まで!あっ、ごめんなさい」


しまった。火ノ江先輩は6歳の頃から視えているのに今まで土地神様と関わらなかったのには、私と同じで何かの理由があるはず。それを思い出させてどうするんだ!


「別に大したことじゃないから」


そう言いながら火ノ江先輩は少し屈んで私と目線を合わせてから子供を安心させるような優しい笑顔で私の頭を撫でました。他所様から見れば和服美女に頭を撫でられる小さいゾンビメイドという光景は異様だよね。


「ほら、早く行かないとあなたの友達がずっと2階で待ってる事になるよ」


火ノ江先輩が指をさした先には、校舎の2階でプラカードを持って窓にもたれ掛かるゆいちゃんの後ろ姿を発見。


「そうだった!」

「私も仕事があるし、早く戻るよ」

「このカッパさんは」

「野放しにしたら女子生徒が危ない」

「確かに、それなら文化祭が終わってから外してあげましょうか」

「そうね」


私と火ノ江先輩はカッパさんを放置して校舎に向かいました。背後でカッパさんが何か呻いているけど気にしたら負けだと思う。


「あとで友達と一緒に火ノ江先輩の喫茶店に行っても良いですか?」

「もちろん」

「やった!火ノ江先輩もぜひ私のクラスのハロウィン風お化け屋敷に来て下さい!」

「お化け屋敷はちょっと」

「えっ、本物が視えるのに作り物が怖いと!」

「怖くて悪かったね」


そっぽを向く火ノ江先輩が可愛かった!大好きな子猫よりもすっごく可愛い。こう、ツンデレな感じとかさ、胸にグッと来るものがあるよ。なんだか、火ノ江先輩と距離が近くなった気がするな。



放置プレイのカッパさん


次の題名は

85・文化祭~転結~


やっと文化祭編が終わります。そして…

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