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83・雨に傘 ~火ノ江由紀子~


短いお話で火ノ江 由紀子視点です。

火ノ江さんの特徴は火ノ江神社の巫女さんで髪の色が白い人。

連日続くこの大雨は、きっとこいつのせいだと思う。火ノ江町の土地神であり妖狐、名前は分からないからそのまま土地神で。


私が人ではない者が視えるようになったのは6歳ごろ。ふとした瞬間に白い狐を見たのが最初で、それが土地神だと気付いたのは1ヶ月後の話。どうやら、私以外の人間は神社にいる付喪神や土地神が視えていないようだ。


「土砂降りね」


私が人ではない者を視えるのにも関わらず今の今まで、そいつらと関わろうとしなかったのにはちゃんと理由がある。


私が関わろうとしなかったのはただ単に人ではない者が怖かったから。何を思ったのか知らないが、土地神は妖力か何かで作り出した竜巻で私を火ノ江神社の裏山のてっぺんまで飛ばした。他の付喪神は夜中に騒音を立てるし、ポルターガイスト紛いな事もした。


それだけで当時の私を怖がらせるには充分だ。怖くなった私は家から飛び出して家族に心配を掛けた記憶もある。


私が高校生となった今では、昔みたいに変な事はなくなったけど、代わりに土地神が火ノ江家の先祖の墓前にいることが多くなった。理由は簡単きっと昔、愛していた人間の夫を懐かんしでいるんだと思う。


これは私の祖母から聞いた話。火ノ江家が代々、生まれて来る子の髪の色が白いのは江戸時代よりもはるか昔、土地神様と火ノ江神社の神主が恋に落ちて子供が出来たから、そんなおとぎ話のような話があるかと鼻で笑った事があるけど、墓前にいる土地神を見ているとあながち嘘でもないと思った。


「文化祭も雨かな」


こう言ってはなんだけど、土地神は腐っても土地神だ。気分が良いと天気を晴れにしたり、悪いと今みたいに酷い土砂降りにする。そう、気分一つで天候を変えられる。いつも、これはチートスキルみたいだとは思う。でも土地神だからこれはありか。


「はぁ」


ほら、またため息ついてる。文化祭まで残り3日となった午後6時、私は2階にある自分の部屋から先祖の墓前に座る土地神を見ていた。ちょうど、体育祭が終わった頃くらいから土地神の様子がおかしいと同時に土砂降りの日が続いた。


どこがおかしいと言われれば、墓前に話しかけたり突然、泣いたり。何があったのかは知らないけど土地神が悲しんでいるように見えるのは確か。


「はぁ、もうなんなのよ」


関わりたくないと思ってもこんなしょぼくれた土地神を見ていたら喝を入れたくなってうずうずしてきた。だから、私は1階に降りて土地神の後ろ姿が見える場所まで近づき、もう少しだけ様子を見た。土地神がこんな様子だから周りにいる付喪神の様子もおかしい、妙にざわついていると言うか挙動不審。


一体何があってこうなったのか気になった私は床に転がっていた土地神が愛用している煙管(きせる)の付喪神に聞いてみた。多分、こいつなら何か知っていると思う。


ふと、思ったけど今の自分はこいつらに対して怖いとかそう言う感情は自然と消えていた。


「ねぇ、あいつに何があった?」

「えっ…由紀子!」

「どうでも良いから早く答えなさい」

「いつから!」

「ねぇ」

「おぉっ!まさかでも、なんで!」

「質問に答えないとこの煙管、叩き折る」


青ざめてプチパニックになっている煙管の付喪神を脅しているとだんだん私の周りにはたくさんの付喪神や物の怪が集まってきた。


「実は俺も知らなくて」

「でも、由紀子が通う高校に行った後からおかしいね」

「体育祭だ」

「あー、萌香ちゃんじゃない?」

「ねぇ、誰か知らない?」


口々に情報を教えてくれる付喪神達の声の中に私の知っている名前が上がった。それは、萌香、私の思いつく限りではあの子しか思いつかない。確か前に私の家で土地神と向かい合って話していたのを見たことがある。


「俺、知ってんよ」


扇子の付喪服神が言った。


「何があったの?」

「あのなー、土地神様の懐で見てたんだけどなー」




* * *




話を聞くこと20分。まだ頭の中は新しい情報でごちゃごちゃしているけど大まかな話の流れがつかめた。これ、悪いのは土地神の方だな。後日、宮川さんに謝らないといけないかも。


「はぁ」


でも、まずは目の前の事から片付けないといけないか。私は土砂降りの中、先祖の墓前に座る土地神を見た。


「このまま土地神様があの状態だと町に何らかの影響が出ます」

「雨もそうですし、酷くなると嵐とか地震が来るかも」

「現に今、裏山が土砂崩れになりかけてる」


付喪神の話を聞いていると、ある意味、土地神って凄いのね。気分一つで町を滅ぼす気か!確かにこのままだと3日後の文化祭の日も雨になる。それに、さっきの話によると土砂崩れが起こりそうだから裏山の麓付近に住む住人達が危ない。


「仕方がない」


私はどうして良いのか分からなくてオロオロしている付喪神達を掻き分けるように進み、玄関からビニール傘を持ってきた。


「とりあえず、話し合いは部屋の中にしようか」


雨が降る中私は傘を差して土地神の背後に立つ。雨の音で私の足音が消されているのか、土地神は私が来たことに全く気付いていない。私は自分で差していた傘を土地神の頭にかざす。


「ん?」


ようやく振り返った土地神は私を見て目を見開いた。


「ゆ…由紀子⁉︎」

「この、バカ神!風邪引くよ」


驚く土地神を無理やり立たせて私は問答無用で部屋の中に引き摺り込んだ。


さて、この病んでる神様をどうしようか。

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