80・鬼とタヌキとカッパの飲み会④
8:2の割合で会話文が多めの短いお話です
ここは、妖怪界にある人ならざる者が集うネオン街の片隅。つまり幽霊や妖怪たちがわんさかいる歓楽街、そこにある『遊楽亭』という居酒屋で、いぬがみコーポレーションと言う会社の創始者である子ダヌキのいぬがみと、話し方が体育会系のカッパがカウンターで飲んでいました。
「この前やっと嫁さんに会えたんッス!」
「恩人に会えたのか、良かったな。それで、肝心の恩返しは出来たのか?」
「恩返しと言うかワシとお揃いの数量限定メリーさんストラップとメリーさんが執筆した本とCDを渡したッス」
「ストラップって甲羅に付いてるそれか。確か10個限定でお一人様一つのはずだったんだが。なんで2つも持っていたんだ?」
「1つは販売2週間前から並んでゲットして、もう1つは譲って貰ったんッス。で、嫁さんに渡したのは2週間前から並んでゲットしたストラップ」
「へぇ、そういや恩人の名」
「あぁっ!嫁さんに会えた嬉しさで忘れてたッス!でも、嫁さんは火ノ江町にいるっていう事は分かったッスから、今度会ったら絶対に名前と住所と電話番号を聞くッスよ!ついでに一緒に写真撮って携帯のホーム画面にするッス。そして、今度こそワシの嫁さんになって下さいって言うッス」
「相手にしてみれば、お前のそれ迷惑行為だぞ」
いぬがみが名前は?と言いかけたところでカッパは思い出したように大声をあげる。と、ここで飲み会仲間の鬼であるソウキがやって来た。そして、カッパの右隣に座った。
「ソウキ久しぶりだな。今まで顔見せなかったが、一体どこに行っていたんだ?」
「萌香を捜しに旅してた」
「萌香って同じに住んでる女の子ッスよね」
「あぁ」
ソウキは萌香が知り合いのお坊さんお寺に行ったその日、萌香を捜しに部屋を飛び出し、命の恩人を捜すカッパのように萌香を捜し回っていたのだ。
「と言うことはお前あの部屋から出られるようになったのか!」
「そうらしい」
「おめでとうッスね」
「で、萌香は見つかったのか?」
「見つかったと言うか、なんと言うか」
萌香を捜して西へ東へと捜したが結局見つからず、もしかして部屋に戻っているかもと思いボロボロの体で八幡荘に戻って来たとソウキはいぬがみとカッパに言う。そして、肝心の萌香がいたことも2人に話す
「八幡荘の門の前で倒れたのは覚えてるけど、気が付いたら部屋の中にいたんだ」
「不思議ッスね」
「でも、視えない奴を捜して何になるんだ?別にお前が捜さなくても」
「好きな子が突然、いなくなったら捜すだろ?それに、もしかしたら萌香は視える体質なのかもしれない」
「えっ、そうなんッスか⁉︎」
驚きのあまり飲んでいた梅酒を吹き出すカッパ。
「かもしれないの話だからまだ確証はない」
「でも、今までお前が試すようなことをしても全然、反応しなかったんだろ?」
「そうなんだ、それが引っかかるんだよ。でもな、電話ではな」
「電話?」
「女々しいッスね。直接聞けば良いんじゃないんッスか?」
「その方が手っ取り早いと思うけど」
「違ってたら?」
「その時はその時だ」
萌香が視える可能性が高いと思いつつもソウキの中では不安要素があり、なかなか萌香に聞き出せないのが現状。
「当たって砕けろッス!」
「砕けたくねぇ」
「本当に女々しいな、おいっ!それでも鬼か!泣く子も黙る鬼だろ!」
「鬼でも色々な性格の奴がいるけど」
ソウキは店主の手長に熱燗を注文した。
「オレ、どうしよう」
「あれ、ソウキさんって一人称が僕だったッスよね?」
「旅ってさ人を変えるよね」
「お前は人じゃねぇだろ」
「あーそれ分かるッス」
萌香を捜している中、ソウキの何かが変わったらしい。旅をすると性格を変わるのかと疑問に思ういぬがみ。
「とりあえず飲もう」
ソウキが注文した熱燗が来たのと同時にいぬがみは考える事をやめて焼酎を飲む。
* * *
ソウキが遊楽亭に滞在した時間はたったの1時間弱。それもそのはず、今は萌香の事が気になって仕方がなく早めに部屋に帰ってきたのだった。カーテンの隙間から漏れる月明かりによって薄暗い部屋に入ると萌香はベッドの上ですやすやと眠っていた。
「お…さん…おか…に…とはぃり……しぇん」
ついでに奇妙な寝言付きで。
「どんな夢を見てるんだ」
奇妙な寝言だがソウキにとってはとても可愛らしい寝言に聞こえるようで、自然と笑みがこぼれる。そして、ソウキの大きな手で萌香の小さな頭を撫でると無邪気な子供のように笑った。
それがまたどうしようもなく可愛くて困る。萌香の顔だけで好きになった訳じゃない、今まで話さずとも接した中でソウキは萌香の優しさや何かに惹かれ好きになったのだった。
萌香の寝言
『鬼さん!お粥に砂糖は要りません』
8話、萌香の夏風邪に出てきたネタを使いました。
〜夢の続き〜
『お粥に入れないで!ストップ、ストップ、ストップ!よし、そのまま手を止めて砂糖を調味料置き場に戻して下さい。ふぅ、これで一安心」




