79・お礼の品と文化祭
熱が出た次の日、目覚ましよりも早く起きて横目で右隣を見るとまたも私の隣で鬼さんが寝ていました。でも、今回違うのは私と鬼さんの間が10センチくらい空いているのです。いつもなら、私を抱き枕にして寝る鬼さんにしては珍しい。
もしかして、気を遣ってくれた?うーん、なんだろう。いつも朝起きたらゼロ距離で鬼さんがいましたよパターンが多いから、こういうちょっとしたスペースが空いていると違和感を覚えます。
違和感と言うか近くもなく遠くもないこの距離は嫌だ。それならいっそくっ付いちゃおう。ていっ!私が体を鬼さんの方に近付けると額からぬるくなった濡れタオルが落ちてきました。
「また、看病してくれたんだ」
私が視えないふりをしているのにも関わらず、こうやって看病してくれたことに申し訳ないです。あっ、今気が付いたけど鬼さんの服装が甚平から初めて会った時と同じ黒いVネックのダメージジーンズに変わってる。
「もう、冬だよね」
夏風邪を引いてしまった時と同じになっちゃうけど、お礼として鬼さんに冬服を渡そうかな。
* * *
帰りにどこのお店で服を買おうかなと悩みながら今日の6限目を受けていました。
「喫茶店、演劇、射的、たこ焼き屋が今、案として出ています」
6限目はRHLで10月の学校イベントである文化祭に私たちのクラスは何をするのかと議論中。もちろん教壇の前には委員長が立って司会を進めていますよ。
「他のクラスも食べ物系多いよね」
「出来るだけ他のクラスと被るのは避けたいな」
「喫茶店と演劇は人気が高いから被る。そうすると演劇に使う服とか争奪戦になるだろ」
「じゃぁ、他のものにする?」
夏風邪の時は鬼さんが広告を見てこれが欲しいって言っていたから何を買うか分かり易かったけど、今回は違うもんね。うーん、もうすぐ冬だから暖かい生地の服が良いかな?肌触りとかも気になるし、あとは服の色は何色にしよう、鬼さんって何色でも似合いそうな気がするけど、私的には爽やか系の色が似合うと思うな。あっ、でも冬場に爽やか系は寒そうに見えるかも。
なんだか彼女が彼氏にプレゼントを考えているみたい。まぁ、実際それに近いような感じか。ここからだと、商店街を少し越えてたところにある小洒落た服屋が良さそう。それじゃぁ帰りはそこに寄って買おうかな。もし良いものがなかったら違うお店に行こう。
「宮川さんは何が良いと思う?」
「えっ」
突然、委員長に名前を呼ばれて我に返るとクラスの全員が私の方を見ていました。やらかした、みんなが意見を出し合っている中、すいません同居人?に渡すお礼の服を考えていました!だなんて言えない。
どうしよう、私の脳内は高速フル回転で動き、黒板の片隅にある掲示板に書かれた10月31日、世界史のテストと言う情報を見て思いつきました。
「文化祭は10月の下旬だからハロウィンをモチーフにした出し物とか良いかもしれないね」
周りの反応を伺うと賛成してくれる人がたくさんいました。もう、委員長が急に当てるから驚いたよう。
「なるほど」
「ハロウィン喫茶店とか」
「でも、喫茶店は他のクラスもやって被る」
「やるなら、被るのは避けたいな」
「いっそのこと、凄い物作ろうぜ」
どうやら、私のクラスは他のクラスの出し物と被ることを避けているようです。確かに、同じ物があったら比べられたり、どことなく似たような感じになって面白くないもんね。やるなら奇抜でドーンっと派手にしたいのが私のクラスの性質。
「ハロウィンのお化け屋敷とか」
「それ良くね?」
「コスプレ出来る」
「あっ、脅かしたい!」
隣の席の水戸部さんがぼつりと言った言葉に周りが反応しました。お化け屋敷の季節ってイメージ的には夏だけどハロウィンのお化け屋敷も楽しそう。吸血鬼の格好とか魔女の格好とかしたりするのかな?
「じゃぁ、文化祭の出し物はハロウィン屋敷に決定」
授業時間の50分中30分を出し物は何にするかで議論し、残りの時間は小道具とかお化け屋敷に出てくるキャラクターについて話し合いました。それにしても、私のクラスは物事が決まったら行動が早いよね。もう、誰が何の役をやるのか決まったよ。
「生徒会から文化祭の費用として2000円は出される。それは血糊とかハロウィン屋敷の装飾に使う。あと問題は衣装だけ」
委員長が進行をテキパキと進めています。なんだか委員長の将来は営業部長になってそうだな。あれ、委員長を見ていたらいぬがみさんの姿が見えてきた。
「衣装は俺がなんとかするわ」
「先生ー、俺は衣装を手伝ったからって文化祭の打ち上げはおごらないとか言わないで下さいね」
「ちっバレたか」
「水戸部、余計なこと言うな」
またも、余計な発言をしてしまった水戸部さん。
なんだろう、水戸部さんは普段ふざけていることが多いけどやる時はやるし、性格がいまいち掴めない。でも、委員長と友達と言うことはそう悪い人ではないと思うけど。
「あやのちゃんの役って良いよね」
「私の役⁉︎そうかな…ナースゾンビってそんなに良いのかな?」
「うん、私の座敷童よりかはハロウィンらしいよ」
お化けの役はくじ引きで決めました。あやのちゃんはナースゾンビ、ゆいちゃんは吸血鬼、ほのかちゃんとめいちゃんは同じ魔女。
どれもハロウィンらしくて素敵だけど、なぜか私は座敷童。あのさ、一つ良いかな?ハロウィンは西洋のモンスターが出てくるんだよね。座敷童は日本の妖怪だよね。ハロウィンとは関係なくない?
しかも、どうやら座敷童はハズレくじのようで私以外のクラス全員は西洋のモンスター。誰だこのくじ引きを作った奴は!あっ、さっき手際良く委員長が作ってた。
「もえかちゃんは小さくて可愛いから座敷童似合うと思うよ。座敷童だから衣装は浴衣を着るのかな」
「ち、小さい!」
ハズレくじを引いた上に小さいと言われ私の心はボロボロです。何も小さいは無いでしょ。これでも (自称)155センチはあるんだからね !はっ、もしかしてこれは、さっき私が他事を考えていた罰なのでは⁉︎
「小さい物には福がある」
「水戸部さん、残り物には福があるみたいに言わないで」
「まぁ、運が悪かったんだよ」
「そうだね。そう言えば水戸部さんの役って何?」
「俺はマンドレイク」
「また、委員長はマニアックなものを考えたね。それ、どうやって衣装にするの?」
「多分緑色の全身タイツを着て作り物の葉っぱをくっ付けるんじゃねぇか」
「なるほどー」
よく考えてみれば緑色の全身タイツに葉っぱってある意味不気味かも。そう思うと座敷童の方で良かったと思う。
「俺がこんな役なのにあいつは吸血鬼だせ、おかしくねぇか?」
「水戸部さん、運が悪かったんだよ」
水戸部さんの言うあいつとは委員長の事。
「今日の部活で背後からボール当ててやる!」
「やめて、それ痛そうだよ!」
* * *
帰り際、委員長に何度も背後には注意してと言って私はゆいちゃんと一緒に帰りました。そして帰宅後、小洒落た店で買ってきた長袖のボーダーTシャツに黒のニットカーディガンを畳んで、いつもの簡易テーブルに置いて物陰から鬼さんを観察していたのですが。
「服のチョイスがダメだったかな?」
なぜか畳んだ服の前で正座し、眉間にシワを寄せながら見ているだけで手に取ってくれません。うーん、前に甚平を置いた時はなんのためらいもなく手に取ってくれたんだけど。
「あの服がこのままだったらお父さんに贈ろうかな」
そんな事を考えながら私は夕飯を作るため台所に向かいました。
鬼さんの心情
【萌香は女の子だよな…なんで、メンズ服があるんだ?そう思うと夏くらいにこの部屋にあった甚平もメンズ服、今からよく考えてみるとおかしいよな……もしかしてお父さんに贈る服とか⁉︎だったらあの甚平も俺が貰ったらダメだったんじゃねぇ!】




