75・これからどうする?
目が覚めた後の出来事は早く過ぎて行きました。西園寺先輩の妖気に当てられ気絶していた親衛隊の皆様は偶然、屋上で涼みに来た教頭先生に発見され保護されました。そして、教頭先生が親衛隊の皆様に倒れていた訳を聞くと。
「1年生の宮川 萌香に全員フルボッコにされたのです」
と答えたらしい。見に覚えの無い話をするな!そんなもん知るかっての!そもそも全員をフルボッコとかそんな力ないし!私は粘り強く先生達に否定しましたが、相手はどこぞのご令嬢様、こっちは借金を抱えた庶民。
多分、複数のご令嬢様の家庭から学校に圧力が掛かったのでしょう。悪いのは私と言うことになった挙句、処罰は停学ではなく退学。
そして、鬼もとい西園寺先輩はと言うと。
みんなの記憶から西園寺という人は消えて、西園寺派の過激派親衛隊だった一条先輩達は如月派の過激派親衛隊となっていました。
「はっ?私達は初めから如月様の親衛隊よ!」
神ファイブも神フォーになっているし、色々とおかしいです。まぁ多分、西園寺先輩が桃ケ丘高校の全ての人の記憶を妖力か何かを使って消したのでしょう。
こんな感じで私が退学するまでの時間はあっという間に過ぎ4月の下旬頃、私は桃ケ丘高校と寮から出て行きました。
* * *
電車に揺られて約2時間、私が辿り着いたのはとある小さな公園。これから私はお父さんとここから近くにある駅のホームで待ち合わせ、どこかの店に入り今後の事を話し合う予定です。
ですが、その前に猫のような気まぐれでこの小さな公園に立ち寄り、入り口付近にあるベンチに座り桜が舞う春の空を見上げていました。
「はぁ」
これで何度目かのため息。私がこうして生きていると言うことは西園寺先輩に全ての寿命を盗られてはいないけど残りどれだけあるか聞かされていないから分からない。
「もう嫌だな」
もし私がこんな体質じゃなかったら寿命を盗られることはなかった。それに、昔から襲われることもなかったはず。ふと、知り合いのお坊さんのお寺にいる妖怪たちの顔を思い出しました。確かに、この体質は嫌いだ。でもこの体質があったからこそ彼らと縁ができた。それは感謝しないといけない事実だけど、どうかな?
彼らとの出会いは灰坊主とお菊ちゃん以外、全て私を襲ったところから始まってる。料理上手な蛤女房の蛤さんも見た目が文学少女の文車妖妃も鍛冶屋の神様である金山様さえも初めは私を襲ったのだ。
私が襲われるたびに知り合いのお坊さんに助けてもらい、これまでなんとか生き延びて来た。もし知り合いのお坊さんがいなかったら私は今ここにはいなかったと思う。
そして、あの寺を離れた今、私は一人だ。もう妖怪や幽霊に襲われたからと言ってすぐに助けてもらえるわけではない。それに、今まで散々迷惑を掛けてきた知り合いのお坊さんにまた助けを求め、迷惑を掛けることはしたくない。
「今までどれほど傷を負わせたか」
話をして穏便に済ます事をモットーにしている知り合いのお坊さんでも、中には話し合いが通じない奴もいます。そんな時は素手で殴り合い、もちろん腕や脚や体の様々箇所に傷を付けて最後にはなんらかの形で勝ちますが、その傷を見るたびに私の心は申し訳ないなと言う気持ちがいっぱいで胸が痛みました。
「もう、一人だから自分で何とかしないと」
この体質がある以上、これからも西園寺先輩のような出来事が起こる可能性があるでしょう。でも、この体質は生まれ持ったものだから今更、消えて欲しいと願っても消えてはくれない。
それならどうすれば良い?
「私から関わらなければ良いのかな」
視えることは変えられないから、せめて私から関わらなければもう、あんな事件は起こらないはず。仮に相手から近づいて来ても視えませんよオーラを出して素早く逃げれば問題なし。
これが合っているのか分からないけど今、私が思いつく最善の考えがこれです。そして、今日から私は自分の考えたことを実践するのでした。
これにて、萌香の過去編は終了します




