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68・プチ旅行④


関係するお話

1・初めての出会い

慌ただしく夕飯を作り終える頃、辺りは真っ暗になってきました。多分、2人で100人前以上は作ったと思う。流石にこの量を今から大広間に運ぶのは少々骨が折れる仕事なので、ここは男手に任せるとしましょう。私は疲れてテーブルに突っ伏している蛤さんの代わりに台所から飛び出して、近くにいた赤頭(あかあたま)を呼び寄せます。


「萌香、どこにいるのかと思ったら台所だったのか」


赤頭は真っ赤な髪色で特技は素手で釘を刺すこと。それにとっても力持ちなんです!これはちょうど良い。


「赤頭、あって直ぐにわるいんだけど、大広間に料理を運んでほしいんだ」


台所から大広間までは遠いです。だから、この量の品を運ぶのはか弱い女の子には厳しいのですよ。すると、赤頭は快く引き受けてくれました。あっ、それとつまみ食いをしないように釘を刺さなくては。


「くれぐれも!」

「分かってる」


笑顔で頭を跳ねる様に撫でられました。本当はこの撫で方は女の子にとってキュンとくる撫で方だと聞くけど、ただでさえ平均よりも低い身長の私は、更に縮まりそうだからやめてほしいのが本音。


「よし、あとは」


台所から少し離れて辺りをキョロキョロ。あっいた、目に留まったのは右手にトンカチを持ち白髪混じりが特徴な上半身裸の金山様(かなやまさま)。鍛冶仕事で鍛えられた筋肉が男らしさを引き立てています。金山様は妖怪ではなく鍛冶屋の神様なんですよ。まぁ、人ではないことは確かですけどね。


「金山様!手伝って下さい!」

「……あぁ」


それと、普段寡黙な方ですが優しいです。金山様に詳しく説明して別れた後、私は他に手伝ってくれる方を探しました。


ここに来て少し不思議に思ったことが1つ。実は知り合いのお坊さん事、藤堂 和成さんの下には3人のお弟子さん的な人達がいます。いつもなら、いるはずなのに今日はまだその人達に会っていません。お寺をぐるぐる周ったけど見当たらなかった。


気になったので、人でを探すついでにお寺の中にある事務所みたいな部屋に寄ります、確かそこには個人のスケジュールが書かれてあるはず。


ホワイトボードの3人の名前が書いてある下を見ると

近藤(こんどう)勅使河原(てしがわら)(あずま)、療養中。


一体何があったんだ!


「色々」

「うわっ、三つ目か!」


いつの間にか私の背後に三つ目がいました。いきなり背後に立たれるのには驚いたけど、私はすかさずこの3人のことについて聞きました。すると、三つ目は額の目だけを開けて私に話しかけます。どうやら、近藤さんはヘルニアで、勅使河原(てしがわら)さんは彼女に振られて傷心旅行、東さんはインフルエンザだそうです。


「全員、集まった」


三つ目は基本、片言で話しますよ。全員、集まった言うことは、料理も運ばれて完璧と言うことですね。それでは、もう行かなくてはなりません。


「三つ目、ありがとう」


私は自分よりも小さい三つ目の手を繋いで大広間に向かいました。




* * *



私がついた頃には、大広間は神様や妖怪達で満員でした。座る場所がないし、委員長の姿が見当たらない。妖怪達の酒のつまみにされてない事を願います。


「宮川さん!」

「あっ!委員長」


名前を呼ばれた方を向くと、委員長の周りには、子供の幽霊や妖怪や神様達がわんさかいました。本当、委員長は小さい子に懐かれやすいね。いいなぁ、ククリちゃん並みに可愛い子達がいっぱいいるよ。中には私の知らない子もいます。


「こっちこっち」

「おねぇちゃん」

「お兄ちゃんが遊んでくれた」


などなど、子供達から委員長を褒める言葉が続きます。私は三つ目と離れて子供達に手を引かれて委員長の隣に座りました。目の前にはどんちゃん騒ぎをする妖怪や神様達。久しぶりの仲間に会えて嬉しそうです。


「この部屋に入り切れないから、外にもいるみたい」


襖を開けて外を見ると庭には空中に浮かぶ火の玉や庭を駆け回っている付喪神が見えました。


「うわ、凄い数だな」

「百鬼夜行みたいでしょ」

「そうだね。ここに集まった全員って宮川さんの知り合い?」

「そうだよ」


委員長には私が私が小さい頃、ここで暮らしていたことがあると言うことだけ伝えてあるからどう言う経緯でここに暮らすことになったのかは話していない。


「最初はね、こんなに多くはなかったんだ。そうだね、私がここで暮らすようになってから増えたかな」

「宮川さんが来たから増えたんだ」

「うん、私ね昔からよく色んな者に襲われてたんだ。どうも私はそういう奴らを引き寄せやすくて、おまけに霊力とか強いらしい。なんか霊力って言うと中二病みたいでしょ?」


自嘲気味に笑ってしまいました。すると、辺りにいた子供達を避けながらやってきたのは片手に一升瓶を持った女郎蜘蛛(じょろうぐも)。ふらふらと千鳥足だからかなり酔っているみたい。いつも、毛羽毛現(けうけげん)毛女郎(けじょうろう)のトリオでいるから、1人でいることに違和感があります。


残りの2人を探すと、部屋の奥で他の妖怪や神様達とお酒を酌み交わしていました。どちらが多く飲めるか、思い出話に花を咲かせているようで、とても楽しそうです。そりゃそうだよね。一度にこんな大勢が集まることなんて滅多にないことだから。


女郎蜘蛛は私と委員長の目の前に座ると一升瓶の中を一気に空にしました。流石、女郎蜘蛛、お酒を飲んだことで更に女の色気が出ています。いや、色気じゃないや、危ない雰囲気だった。


「なーに、辛気臭い顔しちゃってぇ。ほーら笑え笑え」

「いひゃいれす (いたいです)」

「頬をつねるのはやめましょうよ!」


委員長がフォローしてくれました。どうやら、女郎蜘蛛は私たちが話していた内容を聞いていたようで、勝手に私と女郎蜘蛛が出会った時の話を持ち出してきました。私としてはあまり良い記憶ではないのですが、酔っ払った女郎蜘蛛を止めるのは私には無理。だから、ここは止めず聞きます。


「萌香を襲ったのは、この子が小学4年生の頃だったと思う」

「いきなり⁉︎」

「委員長、ツッコミは後にして」

「わ、分かったわ」


確かに、話の初めで襲ったとか言われたら、ツッコミを入れたくなるよね。委員長、その気持ち分かるけど、女郎蜘蛛は話の腰を折られると機嫌が悪くなって八つ当たりとして絡んで来るんだ。それが蛇みたいにしつこいから、私は黙っておく。


「その頃、私は人間の男に恋をしてね。男も私のことを化け物だと分かった上で愛してくれた、それはもう幸せだったよ」


そう、女郎蜘蛛は人間の男と結ばれていたのです。私はこの話をお坊さんから聞いたけど直接本人からは聞いたことがありません。


「でも、人間の命は短くてね。男も直ぐに死んだのさ。人間は私達と違って寿命が短く儚い存在だと最初っから分かっていたんだ。だからこの時は必ず訪れることも知っていたはずだったのに」


女郎蜘蛛の目尻には薄っすらと涙が浮かんでいます。


「死んだ愛する男を見て思ったんだ。もう一度、話したい、抱きしめてほしい、愛してほしいとね。その時、ふと思い出したのさ」

「何をですか?」

「死人をもう一度呼び戻す方法。それは昔、私が忍び込んだ部屋にあった書物を見て知ったんだ」


亡くなってしまった方を呼び戻すだなんてバカみたいな話だと思うけど、実際、それは可能です。可能と断言出来る自信は私も亡くなってしまった方がもう一度、生き返る場面を見たことがあるから。


「生き返らせるためには、まず霊力の強い者の寿命を頂き自分の力に変える。それからは……聞かない方がいいよ」


意地悪に微笑む女郎蜘蛛。実は私もこの先はお坊さんから聞かされてないんですよね。ただ、お坊さんが言わないということは、かなり危ないことだと思う。


「だから、宮川さんを襲った」

「正解!でも、結局は藤堂さんに説教されて考え直したんだよね」


お坊さんのモットーは、話をして穏便に済ますこと。そして、困っているなら手を差し伸べるの2つ。女郎蜘蛛みたいなパターンの妖怪に、私は何度も襲われその度にお坊さん助けてもらったのを覚えています。


「ついでに妖力が少ない妖が霊力の強い者から寿命を奪い、己の力とすると、その妖力は格段に上がると文献に書いてあります」

「わっ!文車さん」


突然、女郎蜘蛛の後ろに現れたのは寝ている経さんをおんぶした文車さんがいました。


「別に寿命ではなく霊力の強い者の命の方が妖力は寿命以上に上がるのですが、それには副作用が伴います。例として挙げるならば、暴走した妖力に体がついて行けず自分の身が滅ぶ。その反対に寿命の場合だと副作用はないので一般的にはその話が伝わっています」

「詳しいね」

「文車妖妃ですから」


あっ!この、ですます口調は文車さんが酔っている証拠。経さんも寝ちゃったしそろそろあの蔵に戻ろうとしていたのかな?


「それと、辛気臭い顔なのは女郎蜘蛛の方ですよ」

「だって」

「だってじゃないです。ほら、今日はそういう日じゃないですよね。飲んで飲みまくって明日、二日酔いになったらどうですか?」


ここにいる奴らってさ、お酒はいると人格変わる奴が多いよね。文車さんは無理やり女郎蜘蛛を立たせると、飲み直しに行くと言って私達から離れてしまいました。


「もしかして、命を取られた人は」

「うん、そうだよ」


命がなくなるので当然、亡くなります。


「でも、いまいち寿命の話がよく分からない。どうやって寿命を奪うんだろう?」

「何か呪文的な事を言ったら心臓辺りに真っ黒い穴ができて、そこに手を入れるの。手を抜いたら青白い人魂みたいな物が出てくるんだ。それが寿命の奪い方。別に奪われる時は痛くも痒くもないんだよ」

「どうしてそこまで詳しいの?」


ここは、笑顔で誤魔化してしまいました。委員長ごめんね、今みんながいる前でそれは言えないんだ。もし、誰かが聞いていたりすると、大変なことになっちゃうからね。


委員長と話していると、酔っ払った神様や幽霊達に絡まれ、相手をするのが辛かったです。気が付くと、夜の11時になっていました。妖怪や幽霊や神様達にとって夜は人間の昼間のようだから、元気です。ですが、人間の私達はもうギブアップ、眠い!と言うことで、この大広間から撤退です。今日,泊まる部屋は委員長と別々の部屋。鈴、曰く、私にはまだ早いとの事。一体、何が早いのか気になって聞いたけど、ダメの一点張り。


「お風呂は、文車さんと経さんがいた蔵の近くにあるんだ。分からなかったら聞いてね。それじゃ、また明日、おやすみ」


委員長の部屋の前で説明して、私は自分の部屋に戻ろうとした時、突然、委員長に右手を掴まれました。首を傾げると、委員長は焦ったように、なんでもないよと言って手を離してくれました。どこか寂しそうなのは気のせいかな?そんな疑問を思いつつ、私は自分の部屋に戻りました。





* * *




お寺のお風呂は大浴場です。ここで、日頃の疲れを癒した私は、眠さがピークなので布団に入ることだけを考えて部屋に戻ろうとしていました。大広間ではまだ宴会状態、いやー、楽しんでますねー。あっ、そう言えば委員長に言わないといけないことがあったんだ。でも、別に良いよね?


「おっ、萌香ちゃん!」


ちょうど私が部屋に戻るため大広間の隣を歩いていると、前方の曲がり角からお坊さんが出てきました。そう言えば、夕方には檀家さんから戻って来ると言ってたよね。でも、大広間にはお坊さんのような格好をした神様や妖怪達がいて、お坊さんがどこにいるのか分からなかったんだよね。


「お坊さん!」

「あれ、委員長は?」

「かくかくしかじかで…」

「そうか、そうか」


かくかくしかじかって便利な言葉だよね。いや、そうじゃなくてちゃんと事細かく伝えましたよ。お坊さんからはお酒の匂いがしません。となると、今から飲むのかな?


「立ち話よりもどこかで座って話そうか」

「はい」


おっ、眠気がさっぱりと飛びました。お坊さんに連れられた部屋は、玄関近くにある、テレビもあって丸テーブルもある普通の和室この部屋に今は私とお坊さんしかいません。


「よいしょっと」


お坊さんは袈裟(けさ)のまま座布団に座りました。私は丸テーブルを挟んで、お坊さんの真っ正面に座りましたよ。ついでに、お茶も淹れます。


「高校はどうだ?」

「もちろん楽しいですよ!」

「確か萌香ちゃんが行ってる高校は桃ケ(ももがおか)高校だったけ?」

「いえ、その学校は辞めました」


私は紅坂(あかさか)高校に編入する前の4月から5月の上旬まで、桃ケ丘高校という男女共学のお金持ちの子が通う高校に通っていました。私の家はお母さんのせいで借金があるのに、なんで、わざわざ、そんなお金持ちの子が通う学校に行っていたのかと言うと、実はお父さんが、高校では良い思い出を作ってほしいからという理由で通っていました。


「なんでまた」

「えへへへ」

「笑って誤魔化さない」


表向きは家庭の事情で紅坂高校に編入したことになっていますが、本当は違います。


それに、桃ケ丘高校は私がとある事件でもう妖怪や幽霊と関わるのは辞めようって思ったきっかけとなった高校でもあります。特に関わりたくなかったのは『鬼』ですね。


私の部屋に住む鬼さんは悪い奴ではないことは確かですが、うーん、苦手意識はあるかな


でも、関わるのは辞めようとか言って、今の今まで、メリーさんや泥田坊、飛頭蛮、ククリちゃん、油赤子のあーちゃん、河童、いぬがみさん、ドラゴン、土地神様、なんだかんだで関わってるじゃん!ハハ、矛盾してるよね。


「今は紅坂高校で良い友達にも恵まれています。だから、私が学校を辞めた理由は、その…あまり聞かないで下さい」


思い出したくない記憶があるから。


「はぁ、分かった。深追いはしない」

「ありがとうございます」


お坊さんは渋々、諦めたようにうなづいてくれました。その後は、委員長との関係についてだったりお母さんの話をしたり、さっき毛羽毛現達が思い出話に花を咲かせていたように、私達も思い出話に花を咲かせていました。




* * *




次の日、蛤さんが作ってくれた朝ごはんを食べた後、お坊さんの車で駅まで送ってもらい、帰りの電車に乗りました。お見送りに来たのは、鈴とお菊ちゃんと蛤さんとお坊さんだけです。残りは明け方までどんちゃん騒ぎたったから、今は大広間で全員寝ているかな?


「萌香姉さん、お元気で」


電車に乗り窓を開けて、外にいるお坊さん達と話します。鈴は人間の姿に化けてお菊ちゃんを抱きかかえていました。お菊ちゃんの長い髪は短くなって行きます。これは寂しいというサイン。


「色々とありがとうございました」

「委員長もまた来てくれよ、それと萌香ちゃん、どんなに小さな事でも良いから電話を掛けてくれ」

「はい」


なんだか、この雰囲気良いですね。

ガタンッ!

電車が動きました。


「委員長、萌香ちゃんをよろしくね〜」


蛤さんの意味深な発言が聞こえたのを最後です。私と委員長は窓から身を乗り出してお坊さん達が見えなくなるまで手を振り続けました。


「慌ただしかったけど、また来たいな」

「委員長、行ってくれるの⁉︎」

「もちろん」


なんと委員長から、また来たい発言!じゃぁ、今度はいつ行こうかな?

また、何本も電車を乗り継ぎやっと、火ノ江町に着きました。その頃はもう、夕方です。やっぱり、遠いのは難点だよね。駅で委員長と別れ夕暮れの帰り道を歩きます。


そして、我が家である203号室に着き、ドアを開けて部屋に入ると……




部屋の中に鬼さんの姿はどこにもありませんでした。





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