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67・プチ旅行③

目の前には目を瞑った委員長。お互いの口が重なり合って私の心臓は痛いくらいに波打っています。どうしよう、本当にどうしよう!顔は熱くなるし心臓は凄く痛い。どうして良いのか分からなくて、とりあえず委員長を突っ張ねようと手を動かそうと試みたけど、どうやら、私の手は落ちてきた本の下敷きになっているらしく動かない。すると、ここで委員長が目を覚ましました。


「〜っ!」


目が合った瞬間、声にならない声を上げて委員長は脱兎の如く後ろに飛び退きました。そして、委員長が後ずさりした後ろには高く積み上げられた本の数々。もちろん、そんな事を知らない委員長は本に当たりますよね。


バサバサッ!ドスンッ!


「委員長、大丈夫⁉︎」


またも、落ちてきた本に潰され下敷きになる委員長。しかも、最後に六法全書のような本が委員長の頭に落ちたような気がする。それに、聞いた感じで痛いそうな音も聞こえたよ。私は、まだ鳴り止まない心臓の音を聞きながら本に埋れた委員長に駆け寄って、本の中から委員長を救出です。


「宮川さん」

「委員長」


しばしの沈黙。何でしょうか、気まずい。これはさっき、モザイクを掛けないといけないレベルの本を見た後の沈黙とは全く違った沈黙です。えーと、こう言う時は確か。


「じ、事故です!これは事故なんです」

「事故」

「そう!だから私は気にしていません。むしろ、こんなに本を散らかしている文車妖妃と経凛々に怒っています」


委員長、ポカーンと私の顔を見ないで何か言って。

そうじゃないと、そうじゃないと…


「委員長のバカッ!」


恥ずかしさや苛立ちや色々な感情が胸の中で渦巻いた結果、私は委員長で晴らすことにしました。具体的には委員長の両頬をつねって捻り上げます。


「ふぅ」


よし、これで気晴らしが出来ました。人を使って気晴らしするのは良く無いけど、今回は仕方が無いよね。いや、仕方が無いじゃなくて、元々、委員長は落ちて来た本から私を守ろうとしてくれたのに、それかあんな風になって。最終的には捻り上げることになってしまった。助けようとしてくれた委員長に、悪いことをしたので謝ります。


「本当は落ちて来た本から守ってくれようとしていたのに、捻り上げてごめんなさい」

「いや、別にそんなのは良いよっ!」


あー、なんだこれ。自分が自分じゃ無いみたいで嫌だな。それと、さっきから私の右斜め後ろから痛いほど視線を感じます。しかも不気味な笑い声も。多分、この声の正体は。


「文車さんと経さん、覗き見なんで趣味が悪いですよ」

「あっれー?ばれちゃった。本当、萌香はそういうところの勘は良いんだから、困っちゃうよね」


高く積み上げられた本の後ろから出て来たのはにやけ顔で私たちを見いてる文車さんと経さんでした。一体いつから見ていたのだろう?


「お楽しみのところ悪いんだけど、どうも蛤さんが萌香と委員長をお探しの様だよ」


あっ、それはお昼ご飯が出来たってことだと思う。でも、確か蛤さんは私たちを呼んでくれるのは蝶化身だって言ってたけど、いなかったのかな。


「外で、花魁トリオと鈴とお菊ちゃんが待ってるからね。それに、他のみんなも集まりつつあるから早く行ってあげなさい」


そう言って、文車さんと経さんは私たちの背中をぐいぐいと押して蔵の外へ出した。


すると、秋だと言うのに白い半袖に紺色の短パンを着た男の子。身長は160cmくらい。短い髪はスーパー猫っ毛で薄茶とオレンジ色が混ざったような色。目の色は夕焼けを思わせるような赤とオレンジ色が混ざったような猫目だった。そして、この男の子は化け猫の鈴が人間に化けた時の姿です。


「萌香姉さん!」

「おっとと」


背伸びをして私よりも身長が高い鈴の頭を撫でると、鈴は満面の笑みで笑いました。男の子なのに可愛いという表現はおかしいですけど、これがまた本当に可愛いんですよね。改めて思えば私が猫好きなのは鈴の影響かもしれません。


「ふっ」


私に笑顔を向けた後、なぜか鈴は委員長に勝ち誇ったような笑みで委員長を見ていました。委員長はなんとも言えない微妙な表情で返しています。なんですか、この無言の会話は。


「あれ、花魁トリオは?」

「山にいるみんなに萌香と委員長が来たことを伝えに行ったよ」


私の質問に文車さんが答えてくれました。すると、睨み合っていた鈴と委員長の間にお菊ちゃんが入り口裂け女のように口が釣り上げて笑いました。初めてお菊ちゃんもの笑い顔を見る人にとって、この笑みはホラー映画並みの怖さなんです。私は昔から見慣れてるけど、あまりお菊ちゃんの笑い顔を見慣れない鈴と初めて見る委員長は顔が青ざめています。


「多分、お互い仲良くしようよって言ってるんだと思うよ」


お菊ちゃんの心の中を代弁すると、お菊ちゃんの長い髪が伸びました。これは、合っているって事だと思う。


「あっ!そうだ。手土産があるんだった。どこに置いたんだろう。えーと」

「灰坊主の部屋に置いた荷物の中に入ってると思うよ」

「そうだった。委員長ナイスです!」

「ほら、萌香と委員長、蛤さんを待たせてるんだから、行くよ。」


私に抱きついている鈴をやんわり離し文車さんと経さんの後をついて行きます。少し歩いたところで隣に委員長がいないことに気付きました。どうしたのかと思って後ろを振り返ると、お菊ちゃんを抱えた委員長に猫の姿に戻った鈴が毛を逆立てて唸っていました。


「シャー!」

「僕、何かしたかな?」

「気にしなくて良いよ。猫は気まぐれだから」


それに鈴は元々、妖力が少なくて人間の姿に化けられる時間が限られているの、最長で20分。


「ほら、鈴も唸っていないで」


委員長がお菊ちゃんを抱えているように私はその場を動かない鈴を抱きかかえます。そして、委員長と一緒に先を行く文車さんと経さんの後を追いかけました。


文車さんと経さんに忘れ物を取りに行きたいと言って別れた私達は灰坊主(あくぼうず)の部屋に置いてある荷物の中から手土産の梨と柿を持って台所に向かいます。別れる際に鈴とお菊ちゃんは文車さんと経さんに預けて来ました。


「僕も持って来たけど、これで良かったかな?」

「委員長も手土産を持って来たんだ。何を持って来たの?」

「和菓子屋二階堂の柿羊羹と栗羊羹」

「羊羹尽くしだね」

「何を持って行けば良いのか分からなくて、店にいた二階堂さんに聞いたんだ」

「あやのちゃんか」

「それなら羊羹だって、勧めてくれだんだ。ついでに、これからどこに行くのかも聞かれた」


あー、確かにあやのちゃんなら聞きそうだな。最近は委員長の友達の水戸部さんと凄く仲が良くて周りでは付き合っていると、噂が立っているほどの親密っぷり。本人に聞いても『同盟』としか答えないし、本当のところはどうか分からないです。

そんなことを話しつつ、私達は台所に向かいました。





* * *




台所に到着すると、私と委員長は蛤さんに手土産を渡して席に着きます。現在、台所には私と委員長と蛤さん、それからお菊ちゃんと焼錐地蔵(やきぎりじぞう)岩魚坊主(いわなぼうず)、文車さんと経さん。席の順は長方形のテーブルに今と同じ順に並んで座っています。


「鈴は?」

「さぁ、萌香と別れてから急にどこかに行って行方不明」


文車さんが肩をすくめて教えてくれました。鈴は猫だからとても気まぐれです。ふらーと現れては消えての繰り返し。人懐っこいと思えば苦手な人には警戒心を出す。そう言えば、さっき委員長にも警戒心を出していたよね、どうしたんだろう。この寺に来た時は誰よりも先にお出迎えしてくれたし。


「初めまして、私は岩魚坊主だ。よろしく」

「こちらこそ」


岩魚坊主は袈裟を着た半魚人です。顔は岩魚で体は人間、焼錐地蔵(やきぎりじぞう)と同じく一人称は『私』だけど性別は男。


毛羽毛現(けうけげん)達から今日、萌香と君がいると聞いてやって来た。そうしたら、蛤さんに誘われて私もこの場にお邪魔させて頂いた」

「どうせ、食べるならみんなの方が良いわよね。それに作り手として腕がなるわ」


詳しい事情は知らないけど蛤さんにとって料理は生き甲斐みたいなものらしい。そして、お昼ご飯として出て来た品はメインを岩魚として白米と味噌汁。もちろん、お菊ちゃんを除く台所にいた全員で食べます。


「岩魚坊主が岩魚を食べるだなんて共食いだね」


焼錐地蔵がさらりと余計なことを言いました。あーぁ、岩魚坊主の箸の手が止まっちゃった。それから、岩魚坊主が焼錐地蔵に長々と岩魚の栄養とか色々、力説しているのを聞きながらお昼は終わりました。


「そうそう、今日の夕方は山から大勢のお客様が来るみたいなの」

「だから、大広間に全員を集めて騒ごうって話なんだ」


蛤さんに続き、文車さん教えてくれました。大広間で騒ぐと言うことは、宴会みたいたことかな?


「流石に全員分の品を作るのは重労働だから、萌香ちゃん、夕飯作り手伝ってくれるかな?」

「蛤さん、もちろんですよ」

「ありがとう。それと委員長君は子供達と遊んでくれないかな?」

「子供達とですか」

「どうやら、お菊ちゃんに気に入られているみたいだし、これから来る子達と遊んでほしいの」


ここで、蛤さんはお茶を飲んで口を潤します。その間に焼錐地蔵が事細かく説明しました。


「遊んでほしいと言うか、つまみ食い防止のために子供達の気を逸らしてほしいだけなんだ」

「分かりました」

「委員長、保育士みたいだね」

「じゃぁ、将来は保育士になるか」

「あっ、良いかも!」


どうやら、夕飯作りは今から下準備を始めないと間に合わないそうです。蛤さんが焦るほどだから、相当な人数が来るんだと思う。すると、台所の外が騒がしくなってきました。


「集まって来たね」


文車さんが入り口を見ながら言います。さて、料理上手の蛤さんとタッグを組んで作りますか!

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