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65・プチ旅行①

今回の話は妖がたくさん出て来ますが

モブですので、覚えなくても良いです。

鬼さんが寝ている間にそっと部屋を出て行き、委員長との待ち合わせ場所に集合。それから、電車を何本も乗り継ぎバスで辿り着いたのは、とある田舎町のバス停、私たちの後ろには両脇を森林に囲まれた長い石階段があります。


「あとは、この長い石階段を登れば到着」

「運動部の合宿で使いそうだね」


えぇ、とにかくこの階段は鬼のように長い。昔は、若かったからこの階段を毎日上り下りしていて苦じゃなかったけど、今はどうだろう?階段を半分登ったところで足が痛くなってきました。


「荷物持つよ」

「お願いします」


委員長に荷物を持ってもらった上に、私のペースに合わして登っているのでなんだか申し訳ない。


「宮川さん、もしかしてこの近くに霊園ってある?」

「うん、お寺の隣はお墓があるよ」

「だからか」


階段の両脇には森林、その木の後ろから小さな影が私達を見ています。多分、この影は子供の幽霊で委員長はこの影を見て言ったんだな。それと、委員長には電車の中でお寺にいる幽霊や妖怪について軽く説明しました。


説明と言ってもただ単に、お寺には呆れるような数の幽霊や妖怪がいるから驚かないでね、それだけです。


「着いた」


階段を登り切り、門をくぐると森林の中にドーンと構える大きなお寺がありました。ちなみにこの敷地内には道場があって、夏休みや冬休みになると、地元や地方の運動部が合宿でよく使うのです。さっきの鬼のような階段とか、寺の裏は山だから走ったりすると筋力アップに効果的でしょ。


「委員長、まずは」


横にいる委員長を見たら白い小さなふわふわとした物の怪が足にたくさん(まと)わり付いてしました。これは、夏祭りの時とよく似ていますね。というか、委員長は物の怪に好かれやすいのかな?


「ごめんね」


委員長は慣れた手つきで物の怪を払うと何事もなかったかのように歩き出しました。物の怪に纏わり付かれるのは2度目だからね。そりゃ慣れるわさ。すると、本堂の方から1匹の薄茶色の猫がゆっくりと私達に近づいてきました。


「にゃ〜」

「猫、飼ってるの?」

「飼ってるというか、この猫は化け猫だよ」

「見た目は普通の猫だから、そうは見えないな」

「名前は(すず)。性格は人見知りだから、人前に出る時は猫の姿なんだ。化けると可愛いよ」


鈴とじゃれていると誰かがこちらに向かってくる足音が聞こえてきました。立ち上がって見るとそこには、あの人。


「久しぶりだな。萌香ちゃん」

「あっ、お坊さんこんにちは」


知り合いのお坊さんが立っていました。


「おじゃまします」

「萌香ちゃんから聞いてるよ、君はえーと、委員長君だっけ?」

「…はい」

「萌香ちゃんからはお坊さんって呼ばれてるが本当はここの住職をやっている、藤堂(とうどう) 和成(かずなり)だ。よろしく」


あっ、そうなの。いまいち、お坊さんと住職の区別が分からなくてお坊さんって呼んでた。でも、今更呼び方を変えるのは違和感があるから呼び方はお坊さんのままで良いや。


「よろしくお願いします」

「俺、今から檀家さんのところに行ってくるから。多分、夕方には戻ってくるかな。会って早々悪りぃな」

「いえ」

「あっ、そうだ。昼飯はまだ食ってないか?」

「はい」

「それなら、台所にいる(はま)さんに作ってもらえ」


蛤さんというのは蛤女房(はまぐりにょうぼう)って言う妖怪の愛称。主に料理を担当しているお母さんみたいな妖怪かな。まぁ、会ってみれば分かるさ。


「萌香ちゃん、委員長君に寺の案内を任せる」

「分かりました」

「それじゃぁ、また夕方な」


お坊さんは忙しい人ですからね。昔から変わらず、言いたいことだけを言ってさっさと行ってしまうのがお坊さんの特徴。


「藤堂さんって親しみやすい人だね」

「そうだよ」


そんなことを話しながら、化け猫の鈴を抱きかかえてお寺の中に入ると真っ正面の廊下から真っ赤な着物を着た日本人形がトコトコと歩いてきました。委員長は目を丸くして歩いてくる日本人形を凝視しています。すると、抱えていた鈴が軽やかに降りてどこかへ行ってしまいました。


「お菊ちゃん、お出迎えありがとう」


この、日本人形の名前はお菊ちゃん。無表情が通常フェイスで見た目はかなり怖いけど気が利く優しい人形です。喋りはしないけどね。


「人形が動いた」


委員長、顔が真っ青ですよ。でも、無理はないか、私だって初めてみた時は叫びそうになったもん。しかも、真夜中に私の布団に近づいて来た時は心臓が止まりかけたよ。でも、結局それは私と遊びたかったから布団に近づいただけで、危害はなかったの。


「ほら、たかいたかーい」


私はお菊ちゃんの胴体を両手で挟み、持ち上げます。すると、お菊ちゃんの髪が20cmくらい伸びました。


「髪がっ!」

「お菊ちゃんは嬉しいと髪が伸びるんだ」


お菊ちゃんを床に下ろすと委員長に向かってゆっくりと歩き出しました。そして、委員長の足元に来ると着物の袖からピンク色の棒付きアメを取り出して差し出します。戸惑う委員長に私が手で『どうぞ』のジェスチャー。委員長がお菊ちゃんからアメをもらうと、更にお菊ちゃんの髪が伸びました。後で切ってあげないとね。


「委員長、台所に行く前にちょっと寄りたい部屋があるんだ。良いかな?」

「良いよ。あっ、お菊ちゃんも一緒に行く?」


首を横に振るお菊ちゃん。つまり、行かないらしい。すると、タイミングを見計らったように、さっきどこかに行ってしまった化け猫の鈴が戻ってきてお菊ちゃんの頭をくわえると、走り去って行きました。


「魚を盗った猫みたい」

「そうだね。でも、魚じゃなくて日本人形だけど」


話はこれくらいにして、荷物を持ったまま、私達はすぐ近くにあったとある小さな部屋に入ります。その部屋はお寺に来たお客様が暫く待つ待機部屋。


部屋の中は江戸時代みたいに囲炉裏(いろり)と机と座布団が数枚だけ置かれています。荷物はこの部屋の隅っこに置いて、この部屋にいる妖怪に挨拶をしましょうか。まず私は、何も知らない委員長に火箸(ひばし)を持たせます。


「この火箸で囲炉裏(いろり)の中の(はい)を掻き混ぜるの」

「こうかな?」

「もっと!ぐるぐるーって」


部屋にはもう一本、火箸があったので、私も灰を掻き混ぜるのに参戦します。2人で共同作業だ。


「誰?」


掻き回した灰から低めの声が聞こえます。やがて、灰から1人の男性が出て来ました。でも、胴体は灰とくっ付いていますよ。


「宮川さん、これも妖怪?」

「うん、灰坊主(あくぼうず)っていう妖怪。糸目のところが我楽多屋の蓮さんに似てるでしょ?」


髪と着物は灰色で、ちゃんと肌の色は灰色じゃなくて肌色です。


「萌香じゃないか!えっ、来るだなんて一言も聞いてないよ」

「お坊さん私が来る事、言ってなかったんだ」

「そっちの男は誰?」

「僕は」

「友達の委員長だよ!」

「宮川さん、名前言わせて」

「委員長じゃなくてご」

「委員長で良いです!」


ご主人様って言おうとしたら即答で言われた。何かを察知したのかな。


「イインチョウ…あっ、委員長か。君も萌香と同じで俺らが視えるんだな」

「はい、暫くの間お世話になります」

「この寺には、俺らみたいな奴がわんさかいるから、そいつらとも仲良くやってくれ」


一先(ひとま)ずそこで話を終えると、その部屋に荷物を残して次は台所に向かいます。


「おじゃまします」

「蛤さん、お久しぶりです」

「あら!萌香ちゃん」


台所に入ると、そこには頭に白い三角巾をかぶり同じ色の割烹着(かっぽうぎ)を着た優しそうな女の人が振り向きました。見た目は人間だけど、本当は蛤女房(はまぐりにょうぼう)っていう妖怪です。


「お客様が来るっていうのは藤堂さんから聞いていたけど、まさか萌香ちゃんだとは。あれ、そちらの方は」

「委員長です」


あっ、委員長!自分から委員長って言っちゃったよ。もう、名前を言うの諦めたのかな?


「まぁ!萌香ちゃん、こんな爽やか君と一緒に来るなんてやるわね!」

「えーと」


なぜか、蛤さんは1人で舞い上がってるよ。こうなったら誰にも止められないです。すると、いつの間にか蛤さんの肩に右手が置かれていました。


焼錐地蔵(やきぎりじぞう)、いつの間に?」

「萌香と委員長君が入って来てから、ここにいた」


蛤さんの肩に右手を置いたのは左手で器用に赤ちゃんを抱えた焼錐地蔵(やきぎりじぞう)。身長は委員長より少し低くて可愛い女顔だけど性別は男です。


「私は焼錐地蔵(やきぎりじぞう)、よろしく」

「こちらこそ」


右手を委員長に出してお互いに握手をしています。声も高いし自分の事を私って言うから、最初は女の人と間違えたことがあるよ。多分、委員長も間違えるだろうな。


「藤堂さん、萌香が来ること言ってなかったね」

「確かに、でも萌香ちゃんが来ることを言ってたら今日は朝からこのお寺にたくさんの妖が集まるわよ」

「全員が来たらこの寺は壊れるね。だから、藤堂さんは私達には言わなかったんだ。でも、折角来てくれたんだし」


蛤さんと焼錐地蔵は仲が良いです。


「じゃぁ、これから私は萌香と委員長君が来たことをみんなに伝えに行くから」


焼錐地蔵は赤ちゃんを抱き直して、台所から出て行きました。すると、蛤さんから声をかけられます。


「お昼ご飯はまだ時間が掛かりそうなの、だからその間、道場や蔵にいるみんなに挨拶したらどうかな?委員長も、ぜひ私の仲間に会ってほしいわ。もちろん作り終えたら蝶化身に呼びに行かせるわ」


と言うことで、お昼が出来上がるまでの間、私と委員長は寺にいる妖怪や幽霊に会うことにしました。

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