64・前日の出来事
明日は委員長と知り合いのお坊さんのお寺に行く予定です。それに、蓮さんからはお昼頃に日本から海外に旅立ったと連絡が来ました。
「さて、荷造りするか」
時計の針を見ると夜の8時を指しています。1泊2日の短いプチ旅行だから荷物は少ないんだよね。でも、私が持っているキャリーケースは3泊4日分が入る大きな物で、全部の荷物を入れるとスペースが開いてしまいます。まぁ、ここには明日の朝、手土産を買って入れていくか。
すると、ここで玄関をドアをノックする音が聞こえて来ました。それから、大家さんの声。荷物を入れたキャリーケースをそのままにして玄関に出ると、大家さんから袋にたくさん入った梨と柿を頂きましたよ。
「同僚から貰ったけど食べきれなくてな」
「ありがとうございます」
やった。貰い物だけど、これを明日の手土産にしよう。梨と柿をたくさん貰って上機嫌のまま部屋に入ると、なんと!鬼さんが私のキャリーケースをベッドの下に隠しているではありませんか!しかも、私の手が届きそうにもない奥に!
「なっ」
思わずたくさん貰った梨と柿を落としそうになったよ!危ない、危ない。なんだ、携帯のパスコードを諦めたかと思ったら次は嫌がらせか?
私は鬼さんの真後ろに立って無言で見下ろします。どうも、私のキャリーケースを隠すのに忙しそうなので暫くは気づかないかも。だから…
「私のキャリーケースはどこかな?」
「うわっ!」
やっと気付いた。私は驚いてひっくり返っている鬼さんの隣からベッドの下に潜り込んでキャリーケースを奪還。例え手が伸びなくても、私は小柄だから、ベッドと床の狭い隙間でもするすると入ってしまうのです。こういう時って小柄は便利だよね。
「中身が無い」
ベッドの下からキャリーケースを奪還し、中を見ると詰め込んだ服や生活用品が綺麗さっぱりに無い。無いったら無い。
おい、鬼さんよ。どこに隠したんだ。
横目で鬼さんを見ると目が明後日の方向に向いています。いや、そもそも何でこんな事をするの⁉︎
中身を発見するのは意外と早かったです。なんせ、中身の全ては学校に行く時のカバンの中に入っていたから。はぁ、また一からやり直しか。まだ、荷物が少ないのが良かったかな。これが、多かったら荷造りに時間が掛かっていたかもしれない。
「よし、完成」
私が荷造りをしている時も、入れた洋服を出そうとしたり、何かと邪魔をしてくる。今までに、ここまでしつこく邪魔しすることはなかったから、少し変だな。鬼さんの表情を見ていると、どこか焦ったような感じが見えます。
そして、私がベッドに入り横になっていると、鬼さんはベッドの脇にしゃがんで私の耳元で何かを囁き続けました。
「萌香が出て行きませんように萌香が出て行きませんように萌香が……」
これを耳元で繰り返されるんですよ!怖いわっ!ホラー映画のワンシーンですか⁉︎それに、耳元で囁かれると鬼さんの吐息が耳に掛かってくすぐったいし、変な感じがするの。だから、今すぐやめて。
寝返りを打っても声は聞こえてくるから寝れない。あぁ、もう私は委員長と一緒に出掛けてくるだけだから。それが、泊りだけの話であって、ちゃんと帰ってくるからさ。
ん?あっ!そうか、そうだったのか。
私はここでようやく、さっきから鬼さんの不可解な行動の意味が分かりました。キャリーケースとその中身を隠したりのね。あと、この言葉の意味も。
理由は簡単で多分、鬼さんは私がこの部屋から出て行くと勘違いしているんだ。実際はプチ旅行だから暫く家にいないけど、また戻ってくるから。
カレンダーに、旅行って書いた方が良かったかな。いや、鬼さんはカレンダーなんて滅多に見ない妖怪だし、書いても無駄か。
「萌香が出て行きまっ…」
「蚊がいるのかな〜?」
蚊を叩くふりをして、鬼さんの頭をチョップ。すると、鬼さんは目を回して床に気絶していました。おかしいな、力は加減したはずだけど、痛かったかな。試しに自分にやってみても痛くなはかったよ?
私は起き上がって床に倒れている鬼さんに薄い掛け布団を掛けてあげました。最近は夜と朝方が寒くなって来たからね。それと、風を引かないようにと、気絶させてごめんねの意味も込めて。
さて、明日は私も朝早く出て行かないといけないから、寝ますか。




