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61・メイドの届け物 ~委員長~

メイドの届け物編、最終話です。

朝、何気なく見たテレビの占いは最下位。そして、弁当を忘れ、席替えのクジを引く時に、宮川さんの近くになったらいいなぁとか考えていたら、宮川さんは窓側の一番後ろで、僕は廊下側の一番前。席が正反対の上に宮川さんの隣の席は水戸部だ。


「はぁ」


一瞬、悪い物でも憑いているんじゃないかって思ったよ。

そして現在、僕は水戸部と芹沢の3人で人が少ない校舎の屋上で昼食を食べていた。


「委員長が購買で買うなんて珍しいな」

「弁当、持ってくるの忘れた」


そう言えばキィが朝、『今日のおかずは特別な物を入れましたからね!ぜひ食べて下さい』って言ったけど、あれは何だったんだろう。


「あー…」

「どうした、芹沢?」

「頑張れ」


何を⁉︎いや、僕は普通に購買で買ったパンを食べながらコーヒーを飲んでいるだけで、別に応援されることはしてないぞ。しかも、芹沢は僕と同じ購買で買った食いかけのお好み焼きを差し出してきた。なんだか、これ食って元気出せよって言ってるみたいだな。


「芹沢は委員長が、いつもより元気がないのを心配しているのさ」

「水戸部、僕はいつも通りだけど」

「弁当を忘れ、占いでは最下位。席替えでは残念な事に宮川とは正反対の席になり、しかも、代わりに俺が隣のっ」


少し(うるさ)かったので芹沢から貰ったお好み焼きを水戸部の口に詰め込んだ。


「お好み焼きの代わりに、もう1つパンがあるから、それで良いか」

「あぁ。委員長って占いとか見るのか?」

「今日は偶々(たま、とま)姉さんが占いを見てたからついでに見ただけで、いつもは見てないな」


ちょうど、その時。携帯の着信音が鳴った。誰からかと見ると、画面には『宮川』と表示。心臓が飛び出るかと思った。電話に出ると宮川さんの声が聞こえて、あることを伝えてくれた。


『キィって言うメイドさんが委員長の事、捜してるよ』

「えっ」

『それで、今。キィさんと一緒に体育館の裏にいるから。来てれないかな?』


僕は今から行くと伝え、すぐに屋上から立ち去った。


「ごめん、ちょっと行ってくる」

「あぁ」

「えっ、委員長どうしたの?もしかして、腹壊した?」

「水戸部、ここは黙って行かせてやれ」


芹沢、もしかして何かと勘違いしてないか?



* * *



急いで、体育館の裏に行くとそこには僕が朝忘れて行った弁当を持って佇むキィと、その隣には宮川さんがいた。


「キィ、ごめんな」

「いえっ!ご主人様のためならどこまでも」


うわっ!宮川さんもいるんだしここで、ご主人様って呼ぶのはやめてくれ!僕がオロオロしている間にもキィは弁当箱を開け、中に入っている2つのフライを僕と宮川さんに見せた。そのフライをよく見ると人型のようにも見える。


「実は今日はですね。庭に生えていたマンドレイクをフライにしてみたのです!」

「「えぇっ!」」


宮川さんと同時に声がそろった。と言うか庭に生えてたあれってマンドレイクだったんだ、知らなかった。と、その前にマンドレイクって食べれるのか?


「今日はぜひ、ご主人様に食べて欲しくて」

「えっ、でもキィさん!マンドレイクって」

「萌香さんにもご主人様捜しを手伝って頂いたので、お1つどうぞ」


どこからともなく出した割り箸でフライの1つを掴み宮川さんに渡し、僕にもくれた。うーん、なぜか食べにくい。フライが人型だからか?でも、キィの表情を見ると食べないわけにはいかないし。よし、食べよう。


「委員長、ストップ!」


僕が1口、食べようとした時。宮川さんが慌てて僕の箸を止めた。どうしたのって聞こうとしたら、先に宮川さんが話し始めて、かなり重大な事を言った。


「キィさん、本当は食べたいけど。マンドレイクって、かなり強い毒性があって」

「えっ!」

「確か。幻覚、幻聴、嘔吐、瞳孔拡大を伴い、場合によっては死に至るって私のバイト先の人が言ってたの」

「バイト先って、我楽多屋の蓮さん?」


マンドレイクに詳しそうな人って我楽多屋の蓮さんしか思いつかない。夏祭り以来会ったことないけど、いまでもはっきりと覚えてる。


「そうだよ。委員長」

「そ、そんな。私はなんと言うことを」


どんどん、顔が青白くなるキィ。


「すいませんでしたぁぁぁああ」

「「土下座しないでっ」」


その後は宮川さんと一緒に、なかなか地面から頭を離さないキィを無理やり起こして顔をあげさせた。キィ、頼むから土下座はやめてくれ。宮川さんが、言わなきゃ良かったかなって暗い顔で呟いているから!


「キィさん、大丈夫ですよ。まだ、食べていないですし。ねっ、委員長」

「うん、知らなかったことを今、知れて良かったと思えば良いんだよ」


前向きに行こう!


「だって、私もう少しで殺人犯になって」

「うん、なっていたね」

「うぅっ」

「あっ!キィさんごめんなさい。そんなつもりはなくて。わわっ!土下座はやめてください」

「うわぁぁあ」


宮川さん、傷口に塩を塗ってどうするのさ⁉︎宮川さんの顔にはヘルプって書いてある。うーん、ここはどうしようか。ふと、弁当の中を見るとまだ、マンドレイクのフライがある。


「委員長⁉︎」

「ご主人様⁉︎」

「うん、ほら食べても死なないから大丈夫だよ」


僕はマンドレイクのフライの2つのうち1つを食べた。うん、全部だけど。マンドレイクのフライはなんとも言えない味と食感で、多分、正確には伝えられないかも。それと、ごめんキィ、どうやら僕は1つで限界のようだ。


「だから、泣かないで」


食べても死なないと見せればキィも安心するかなって考えでやってみたら、どうやら落ち着いた雰囲気になった。

と、その時、授業が始まる5分までのチャイムが鳴った。タイミング的にはちょうど良いかな。


「キィ、弁当届けてくれてありがとう。それにフライ美味しかったよ。」


この時点で、ちょっと視界が揺れていたのはキィと宮川さんには内緒。それから、キィは僕と宮川さんにさよならを言って帰って行ったのは覚えてるけど、キィがさよならを言う前、僕は自分で何を言ったのか覚えてない。


「委員長、すぐにでも保健室に行こう!」

「宮川さん、これくらい大丈夫だよ」

「でも」

「心配してくれてありがとう」


無理していると悟られたくないから、ちょっと足早に教室に向かった。




* * *




本格的にまずいと思ったのは、5限目の現代文の時間、頭痛がしてきた。


帰りのSR(ショートルーム)が終わり、放課後、部活動の時間。


「水戸部、悪い。少し保健室によってから部活に行く」

「おい、顔色悪いぞ」

「いつものことだ」


保健室に着くと、保健室の女の先生に問答無用でベッドに寝かされる。


「熱はないみたいだから、しばらく寝てなさい」


どうしよう、寝ていても治る気配がしない。部活に行くどころか家に帰れる自信もないな。さて、どうするか。


「私、ちょっと外に行ってくるからね」

「…はい」


ドアが閉まる音がする。今、保健室には僕以外誰もいない。そう言えば宮川さんと話したのもこんな感じだった。ん?あれ、宮川さんのことを思い出したからかな、ベッドの隣にあるイスに宮川さんが座っている。


「これも、幻覚か」

「やっぱり委員長、無理してたでしょ」

「うん、幻覚だな」


幻覚を見てもしょうがないので目を瞑ることにした。その時、両頬を(つね)られ嫌でも目が覚めた。


「幻覚じゃなくてリアルです!とにかく、蓮さんに薬作ってもらったからこれ飲んで寝る」


体を起こすと、宮川さんの手には小さな小瓶が握られ蓋が空いていた。薬って言ってたから解毒剤かな。


宮川さんから小瓶をもらって飲むと、すごく苦かった。コーヒーのブラックとゴーヤの苦さが混じったような感じ。でも、少量だから一気に飲めたかな。


薬を飲んだ後はとにかく寝ると言われた。すぐには寝れないなと思ったけど、それがおかしなことに目を閉じた瞬間に寝てしまった。もしかして、さっきの薬に睡眠薬みたいなのが入っていたのかもしれない。




どれくらい寝ていたのかは分からないけど、起きたら窓の外は日が沈みかけていた。気分はすっきりとしていて、幻覚も幻聴もない。毒気がなくなったんだと思う。


「やぁ、おはよう」

「宮川さん、なんでここに」


てっきり、帰ったのかと思ってた。


「あっ、やぁじゃなくて。『おはようございます。ご主人様』だったかな?」

「頼む!宮川さんまで、言わないでくれ。それ恥ずかしいから」


まさか、この状況で言われるとは思わなかったよ。しかも、声色をロリ系に変えるだなんて、器用だな。おい!


「でも、委員長はこういうのが趣味なんだよね?」

「こういうのって…」

「おかえりなさいませ、ご主人」

「違う!絶対に違う!そんなのは僕の趣味じゃないし、それには、わけがあるんだ。聞いてくれ!」


僕が、宮川さんになぜ、ご主人様と呼ばれるようになったのかを説明すると。苦笑しながら納得してくれた。誤解が解けて良かったよ。


「委員長がお弁当を取りに来る間、キィさんと話をしていたんだ。委員長は本当、優しいね。でも、優し過ぎると返って自分が苦しくなる時もあるから。今日みたいにさ」

「心配かけてごめんね。あの薬って我楽多屋まで取りに行ってくれたの?」


僕が質問すると宮川さんは、キョトンとした顔で答えてくれた。


「学校から我楽多までは距離が遠いから、電話で蓮さんに薬のことを伝えて、油赤子のあーちゃんに届けてもらったんだ」


油赤子のあーちゃん。きっと、宮川さんのことだから幽霊や妖怪関係の子かな。それから、宮川さんは何かを思い出したように(てのひら)を叩いた。どうしたんだろう?


「話が変わるんだけど、今度、遊びに行く話ってあったよね」

「うん、あっ、行きたい場所とかの話?」

「それで、私ね。どうしても行きたいところがあって」


なんだろう。宮川さんはアニメとか好きだから、そっち関係かな。


「委員長って泊まりとか大丈夫?」


泊まりですか。泊まり、泊まり、泊まりっ⁉︎


「私、どうしても知り合いのお坊さんのお寺に行きたくて、1人で行くのも寂しいし、委員長が来てくれたらお寺の()らも喜ぶと思うんだ」

「寺…」

「ごめんね、せっかく他のところを考えてくれてたのに、わがまま言って」

「わがままなんて思ってないよ。でも、僕が知り合いのお坊さんのお寺に行っても良いのかな?」

「うん!もちろん」


本当は、この町から少し離れた場所の遊園地にしようか考えていたけど寺になった。うん、宮川さんが行きたいのなら行こうか。


「じゃぁ、行くのはいつ頃が良いかな?」

「本当はすぐにでも、行きたいんだけどね」

「それなら、今週の土日は?」

「えっ、私は良いけど。委員長はその日良いの?」


今週の土日は久しぶりのオフだから確実に休める。確か、宮川さんの我楽多屋でのバイトは金曜日からなくて、和菓子屋二階堂も臨時休業だから空いている。


「土日はオフだから問題ないよ」


こうして、宮川さんとの出掛け先は寺に決まった。泊まりとか言ってたから1泊するんだな。


「あっ、そうそう。キィさんって仕事探しているんだよね?」

「そうなんだ。でも、今だに見つからなくてさ。もしかして、その話キィから聞いた?」

「うん、その話なんだけどね。我楽多屋の蓮さんは今までに、たくさんの妖怪の仕事探しを手伝って来たんだって」


ん?と言うことは我楽多屋の蓮さんに聞けば、もしかしてキィの仕事先が見つかるかもしれない。


「じゃぁ、今度、キィと行ってみるよ」

「でも、蓮さんとククリちゃんは今週の金曜日から1ヶ月、旅行に行くから」


僕の両親と似てる。いや、両親の場合、その土地に1ヶ月じゃなくてもっと、長く滞在するな。


「早めに行くか」

「その方が良いと思いますよ。ご主人様」

「頼むからその呼び方はやめて」


そして、声色を変えないで下さい。こっちは保健室に2人っきりの状況に心拍数上がってるのに。これじゃぁ、持たないよ!


「ご主人様、おにいちゃん、坊ちゃん」


あぁ、もう!


「お嬢様」

「うわー!それ嫌だ。やめてください!」


いつもよりか声を少し低くして言ってみれば、宮川さんは耳を塞いでこの反応。コロコロと表情が代わってかわいいな。それに、意外と面白いかも。


「委員長をいじるのは私の特権なのに」

「特権もなにもないから!」


お互いに笑い合う。

宮川さんと一緒に行くならどんな場合でも楽しそうな気がする。今週の土日、楽しみだな。

萌香と委員長の

お出掛けする場所がお寺に決まりました


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