60・メイドの届け物 ~キィ~
今回はキィ視点です。
おまけに33・草むしりの恐怖
に出てきたマンドレイクが…!
ご主人様が学校に向かわれた後、お姉さんの散らかった部屋を掃除し、洗濯物を干し、食器を洗っているとシンクの隣にご主人様がいつも学校に持っていく青色のお弁当袋が置いてありました。
「あれ?」
ご主人様、お弁当を持って行くの忘れたのでしょうか?そう言えば、今日は部活の朝練があるとかで、いつもよりか慌てて家を出て行かれましたね。
ここにお弁当があると言うことは、今日のご主人様のお昼ご飯は無し。
ええっ!そんな事はダメです。ご主人様の歳的に今は成長期のはず。食べて運動して筍のようにすくすくと成長しなければなりません。
それに今日のおかずには、昨日、庭で草むしりをしていた時にマンドレイクを発見したので、それをフライにしてみました。ですから、ぜひマンドレイクのフライを食べて欲しかったのです。
「うーん」
家にはご主人様の両親は海外旅行中で不在。お姉さんはご主人様が学校に向かわれた後、すぐに仕事場へと向かわれたので現在、家には私しかいません。
「ここは、私がお弁当を届けに行きましょうか!」
ご主人様のため、私は学校に参ります!
* * *
これまで私は新しい仕事を探すため妖怪の世界にあるハローワークにしか行ったことがありません。なので、火ノ江町の地形については詳しくありませんが、ご主人様の家から学校までは目と鼻の先ですので、迷うことはありません。
「意外と広い学校ですね」
グラウンドでソフトボールをしている女の子達を見つつ私は玄関へと向かいました。
ヒュルル〜、ゴンッ!
「痛っ!」
ソフトボールの球が後頭部に命中。おぉ、頭がくらくらする。でも、お弁当に当たらなくて良かった。
まだ痛む後頭部を摩りながら校舎の中に入ると、学校の特有の匂いがします。『学校は汗と涙と青春だ!』確か、ご主人様のお姉さんがそんな事を言っていたような気がします。
まず、ご主人様を捜すにためには学校の構図を知らなければなりません、闇雲に探しても見つからないのでね。多分、学校の地図は大体、下駄箱の近くか職員室の近くにあると思います。今、下駄箱を見ても地図らしき物は無いので、残るは職員室。
あっ!ありました。地図を見ると体育館に食堂、大きな図書室、運動部の部室が集まった建物、科学室、音楽室、などなど。うーん、どこから捜しましょうか?
今日の朝のご主人様をよーく思い出すとバスケットボールが描かれたシューズ袋を持って学校に行きましたよね。バスケをする場所と言えば体育館!もしかしたら、そこにいるかも。そうと決まれば早速、体育館へレッツゴーです。
「ご主人様ー!」
名前を呼びながらの方が早く見つかるかな?
体育館へ着くと大勢の男子生徒が汗水を流しながらバスケをしていました。よしっ!私の読みが当たりましたよ。
「ご主人様ー!」
あれ?反応がない、もう一度。
「ご主人様ー!」
誰もこちらを向いてくれません。私は体育館の中にいる男子生徒の顔を1人、1人よーく見ました。すると、どこにもご主人様の顔がないではありませんか。あっ、バスケットボールが勢い良く私の方に。
「だっ!」
が、顔面ですか。今日は朝からボールの災難によく会いますね。ここには、ご主人様はいないようですし、ボールの災難にはもう会いたくないので、脱出です。
私が出た場所はどうやら、体育館の裏でした。それにしても、体育館の裏と言うのは高く伸びた雑草が生き生きとしていますねー。あれ、何でしょうか?手がうずうずしてきました。私に流れる血が草むしりをしたいと言っているみたいです。でも、今はご主人様を捜すのが第一で……
40分後
「ふぅ〜。やっと汚れが落ちましたね」
気付けば、草むしりだけでは飽き足らず、水飲み場の汚れも掃除していました。これは、メイドの本能なのか。その時、ちょうどチャイムが鳴り、体育館にいた男子生徒達は校舎の中へ入って行くのを見かけました。
「あっ!お弁当」
草むしりと水飲み場を掃除していたら、すっかり忘れかけてました。危ない、危ない。それに今、生徒達は休み時間のはず、もしやご主人様に会える確率が高いのでは?私はしっかりと手を洗い校舎に向かう男子生徒達の後を追って歩き始めました。
男子生徒達について行くと辿り着いたのは校舎の3階。よし、まずはここから捜しましょう!
「ご主人様ー!」
ご主人様に聞こえるよう、大きな声で叫びながら廊下を歩きます。そして各教室の中を覗いてご主人様がいないか確認しましたが、どこにもいません。最後に、一番端の教室を見たのですが、中には女子生徒が2名しかいませんでした。3階にはいないので次は2階です。
2階に行くため階段を下りていると、他の生徒とは違う髪の色と雰囲気を持つ女子生徒を発見。
「綺麗な人ですね」
白い髪に赤っぽい瞳。それに、嫌ではありませんが独特の甘い香りがその人から匂います。なんとなく気になって、その人を追いかけてみるとついた場所は図書室とは呼べないくらいような大きな図書室でした。最早、ここは図書館だ。
「本がたくさんありますね」
文庫本から料理本、はたまた、この町の歴史をまとめた本がぎっしりと並べてあります。あっ、この本見て読んでみたいな。私が手にしたのは今、ご主人様のお姉さんが出ている学園ドラマの原作の本です。確か、お姉さんの役は、学園で起こるあらゆる事件の裏で糸を引くラスボス的な存在の副担任。
立ち読みは腰が痛くなるので近場にあった椅子に座って読みました。それにしても、この図書室は新しい本や古い本があって充実していますねー。
パラパラ、パラパラ。
キーンコーンカーンコーン
あら、もうそんな時間になりましたか。さてと、本を返したら家に帰ってやり残した掃除をしなければなりませんね。それに、ご主人様とお姉さんが帰って来る前に夕飯の支度を。
「あー!違う、違う、違う」
そうでした!私はお弁当を忘れたご主人様にお弁当を届けなくては。本を読んでいたらすっかり忘れてた。うぅ、メイドとして失格ですよ。
でも、こんなところでじっとしていても状況は変わりませよね。私は慌てて本を返し図書室から出ました。そう言えば、さっきの白髪の女子生徒は2階に行ったきり、降りてこなかったけど授業に出なくていいのでしょうか?
図書室を出て校舎に入ると、お弁当を持った大勢の生徒が廊下を彷徨いていました。もしや、今からお昼ごはんの時間ではないのでしょうか?
「うわぁ」
私が草むしりや図書室で本を読んでいる間にも時間はどんどん過ぎた結果これです。私が、余計なことをしなければ今頃、ご主人様にお弁当を渡せたはず。寄り道しなければよかった。あれ、目から汗が。
『お昼ごはんと言えば食堂だよね!』
ふと、ご主人様のお姉さんがドラマの中で言った言葉を思い出しました。そうです、お昼ごはんと言えば食堂ですよ!今度こそ、今度こそ絶対にご主人様にこのマンドレイクのフライが入ったお弁当を届けなくては!
* * *
食堂は図書室と同じく広いです。
「ご主人様ー!」
例え広くても、このお弁当を渡すまでは帰りませんよ。
「ご主人様ー!」
名前を呼びながら席に座る1人、1人をよく観察してご主人様を捜します。右、左、キョロキョロ。私が前を見ずに歩いていたのが原因で、とある男子生徒とぶつかってしまいました。力はそう強くないのですが、私がよろめいてしまい顔面から転けてしまいました。
「うぅ、痛い」
はっ、お弁当は!どうやら、無意識のうちにお弁当をしっかり持っていたので、お弁当がひっくり返ることはありませんでした。中身、ぐちゃぐちゃになってないよね?
「おっと、ん?誰かにぶつかったような」
「誰もいねぇぞ?」
「気のせいか」
ぶつかった男子生徒達はご主人様と違って私のことが見えていません。うっ、本当はぶつかったのなら『ごめんなさい』の一言が欲しいのですが、私が見えない相手に言ってもダメです。ここは気を取り直してご主人様を捜すのに専念しますか。
私が人混みの中をうろうろしていると、後ろから誰かに左腕を掴まれました。振り返ると、そこにいたのはパッチリとした黒目にさらさらセミロングの黒髪の小さい可愛らしい女の子。とにかく、アイドルグループに出て来てもおかしくないくらいに可愛いです。
「えっ!」
「何も言わずに、こっちに来て」
突然現れた可愛い女子生徒に連れられるまま、私が来たのは先程、草むしりをした体育館の裏。
「私のこと、見えているのですか⁉︎」
「うん、そういう体質でね」
「ご主人様だけかと思っていました」
この子の名前は宮川 萌香、最初はお嬢様とお呼びしたのですが、顔の前に手を合わせて全身でやめてくださいオーラ。しかも、私よりも背が低いので自然と上目遣いになるんですよね。同性でも、その可愛い仕草に胸がキュン、クラっと来てしまいました。いかん、いかん、落ち着け。
「では、萌香さん。私のことはキィとお呼び下さい」
そして、なんと萌香さんはご主人様を捜すのに協力してくれると言ってくれました。萌香さんもご主人様と同じで優しです。いえ、優し過ぎます。それがなんだか申し訳なくて頭を深々下げたら、反対に頭を押し上げられました。
「うん、分かったよ。それじゃぁ、人探し手伝わせてね」
「萌香さん、ありがとうございます」
それから、萌香さんからご主人様の顔の特徴やご主人様について色々、質問されました。そして、ご主人様のお姉さんについて詳しく説明すると曇った萌香さんの表情が腫れた空のように変わりました。
「私、キィさんの探している人を知ってるかもしれない」
「まさか、ご主人様とお知り合いなのですか!」
「うん、多分。いや、確実にそうだと思う」
なんと、萌香さんはご主人様とお知り合いだったのです。
「今、呼ぶからちょっと待ってね」
どうやら萌香さんはご主人様と通話をしているようです。あっ、終わりましたね。
「委員……じゃなくてご主人様か。もうすぐここに来るって言ってたよ」
「萌香さん、ありがとうございます!」
ご主人様が来るまで私と萌香さんはたわいもない話をしていました。
「キィさんって、妖精ですか?」
「いえ、私は妖精ではなくキキーモラです」
「キキーモラ?」
「ロシアに伝わる働き者の味方とされる謎の多い幻獣と認知されています」
「へぇ、じゃぁ出身はロシアなんだ」
「そうなんですよ」
それから話は、私がどうして日本に来たかと言う話になり、せっかくなのでご主人様との出会いも事細かく伝えましたよ。
「あー、そうか。だから今は委員…じゃくてご主人様の家で暮らしているんだ」
「そうなのです」
「確かに優しい委…ご主人様ならそうするね」
「ご主人様は本当に優しいお方なのです。ですから、その恩返しと言いますか、家事を手伝ったり、お姉さんのわがままを聞いたり、ひそかにご主人様の恋路を応援しているのです」
「えっ!委員長、好きな人いるんだ」
あっ、うっかり口が滑ってしまいました。これは言ってもよかった話でしょうか?
「あっ、もしかして聞いちゃまずい話だった?」
どうやら、表情に出ていたみたいです。
「確かに、委員長も知られて欲しくない話だってあるよね。それに、私も委員長よりたくさんあるし。じゃぁ、この話はこれで」
萌香さんは人差し指を口に当てて内緒のポーズをしました。しかも、私を安心させるかのような優しい笑顔です。
「本当ですか?」
「もちろんです」
更に可愛さが増した笑顔。ここにっ!ここに天使がいますよ。内緒話って大抵の人は内緒にはしてくれませんが、萌香さんは初対面だけど絶対に内緒話にしてくれるそんな気がします。
「でも、委員じゃなくてご主人様か」
「いえ、いつもご主人様を呼んでいる時の名前で良いですよ」
「うん、委員長の好きな人ってどんな人なのかなって思ってさ」
ご主人様に異変があったのは夏休みの、あの電話があった時。わたしが聞いたのは『そうだね。ありがとう』から『それじゃぁ、お休み』その後のため息と、ご主人様からの質問だけ。確かあの時、ご主人様は友達と言ってましたね。
「委員長の事だから、きっと優しい人だと思うな」
「はい」
私はまだお会いしたことがありませんが、萌香さんの言う通り優しい人なのでしょうね。
「あっ、委員長が来たよ」
萌香さんが私の後ろを見て教えてくれました。振り返るとご主人様が遠くの方から走ってくるのが見えます。
「ご主人様!」
これで、やっとお弁当が渡せますね。
そうだ!萌香さんには、ご主人様捜しを手伝って頂いたので、お礼としてマンドレイクのフライをおすそ分けしましょう!
実はご主人様も知らないのですが、庭にマンドレイクが2匹もいたのです。ですから、2つともフライにしてお弁当に入れました。
これなら、ご主人様と萌香さんの分がちゃんと、ありますね。
図書室で授業をさぼった火ノ江先輩がいたり
後半部分は45・自覚した気持ちが少し掠っています。それと、マンドレイクはキィの手によってフライにされてしまいました。




