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6・放課後 ~萌香~

委員長には私が住んでいる部屋に鬼が居ることは話してある。もちろん金曜日の夜に飲みに行くこともね。


最近は、委員長の他の男子と話している時も敬語を使わないように気を付けているけど、たまに敬語が出ちゃったり。


そう思いながら私は下駄箱へと続く道を走る。委員長と話していたら長話になっちゃって、ゆいちゃんを待たせていることをすっかり忘れてたの!

どうしても、委員長と話すと長話になるんだよね。これってあれかな。井戸端会議的なやつ?いや、委員長が聞きて上手だからかな。


「ゆいちゃん、帰っちゃった?」


急いで下駄箱で靴を履いて外に出る。実際30分以上も待たせたから、やっぱり先に帰ったよね。それでも、辺りを見回すと玄関の近くにある池にゆいちゃんらしき人が鯉に餌をあげていたのを発見。


「ゆいちゃん、遅くなってごめんね!」

「あっ、おかえりー」


私の声に気付いたみたいで、ゆいちゃんも鯉に餌をあげながらこちらを向いた。


「もえちゃん見て。この鯉、黒色なのにちょっとずつ金色が入ってて豪華だよね」

「本当だ。なかなか見ない鯉だね。珍しい」


池を覗くと、ゆいちゃんが言っていた鯉とその他にも赤や白の鯉がたくさん泳いでいた。でも、よくよく見ると人面魚っぽい魚が2匹いて、何か会話をしていた。ゆいちゃんには視えていないからいいんだけどね。


「鯉の餌やり完了。帰ろー!」





* * *




私が暮らす町、火ノ江町は西を向けばネオン街で東を向けば山と言った都会と田舎が混じったとても暮らしやすい町。学校はちょうど、その真ん中といったところだろうか。


で、私の住む八幡荘は学校から少し離れた南の位置にある。ゆいちゃんも帰る方向は同じ、だから途中までは色々と話しながら一緒に帰っているの。


「委員長と話してたら遅くなっちゃって」

「うん、知ってるよ?」

「あれ、委員長の事は今話したんだけど」

「もえちゃん来るの遅いなぁーって思って捜しに行ったら、ちょうど体育館で委員長と話してたところを見てね」


探しに来てくれてたんだ。うわぁ、こんな優しい子を長い時間待たせたなんて、本当申し訳ない。


「でも、なんとなくだけど、入っちゃいけないような空気だったから戻ってきたんだ」

「そんな空気出てた?」

「出てたよ。それで、靴を変えて外に出たら、バスケ部の顧問の先生と会って『本当は俺の仕事だけど、急に仕事が入ってさ、花壇に水やりと教頭にお茶出しと、あと鯉の餌もよろしくね』って、言われてやってたの」


バスケ部の顧問め、ゆいちゃんは優しいから頼んでも断らないことを理由に色々と頼みやがったな。そんな悪いやつは取り憑かれてしまえ!


「もえちゃん最近、委員長とよく話すね」

「そうかな?」


言われてみると委員長以外の男子とはあまり話さないかも。でもやっぱり。


「友達だからね」


親指を立てて笑えば。


「うぅ、だから私よりも会話が多いんだ……」


頭にキノコが生える勢いでテンションがだだ下がりになっていくゆいちゃん、こんなにショックを受けるとは考えてなかった!


「委員長よりも、ゆいちゃんとかほのかちゃん達と話す方が多いからね!だからそんなに落ち込まないで〜!」


ダメだ、更にキノコが増量してる。どうしよう、どうしよう。


「えいっ」


ギュー!突然、私よりも身長があるゆいちゃんが大きく両手を広げて抱きついてきた。おっとと、後ろに数歩たじろいでなんとか受け止めたけど、やっぱり身長差で倒れそう。それに抱きしめる力も強いよ。


「ゆいちゃん、どうしたの?」


抱きしめるゆいちゃんの方が、身長的に大きいから私が見上げる感じになる。少し話しにくいけどね。


「もえちゃん!小さい、小動物、ちまちましてる、可愛い、料理上手、癒される、学校の有名人!」


おおっと、いきなり不意打ちで言われると、恥ずかしくて、どうしたらいいのか戸惑っちゃう。えーと、つまりゆいちゃんは何が言いたいのかな?私の頭よ、全速力で働けっ。結果は脳をフル活動しても答えは出てこなかった。


「その、ゆいちゃん?」

「委員長と話してもいいけど、一番は私だよ?」


首を傾げて訴えてくるゆいちゃんは可愛かった。うわぁ、写真に収めたかったよぉ、抱きしめられているから、胸ポケットにある携帯を出せなくて後悔中。

でも、これでゆいちゃんが言いたかったことは分かったかな。

つまり『友達の中で私は1番だからね』と、プチツンデレ状態。もちろんこんな時のセリフはお決まりのあれしかない。


「私もゆいちゃんが1番だからねっ!」


笑顔で返すと。


「可愛いは正義っ!」


抱きしめる手を離して、もう一度、今度は飛びつくようにギューとしてきた。流石に2度目、しかも更に勢いの増したギューに私は受け止める事ができず、そのまま後ろにあるコンクリートの壁に頭を打ち付けてしまった。


あいたた…。


ゆいちゃんは優しくてほのぼの系。でも、たまにこういう時もあるけど根はいい子、ほのかちゃん、あやのちゃん、めいちゃんもみんな優しくて魅力のある子だと思う。

本当、中途半端な時期にこの学校に編入してきたけど、たくさんの友達に出会えて良かったな。


「そうだ!買い食いしよ」


私から手を離すと、急いでカバンの中を探り

『和菓子屋、二階堂の水羊羹50円引き』と書かれた2枚の券を高らかに掲げドヤ顔で差し出した。確か二階堂の水羊羹は美味しいって聞いたことあるよ。前から食べてみたかったんだよね。


「行きたい!」

「でしょ?もうすぐでお店閉まっちゃうから急ごう」


手を引かれて、私はまだ軽く痛む頭を押さえながら、ゆいちゃんと一緒に二階堂まで走った。


そうだ、どうせ二階堂に行くなら鬼さんの分の和菓子も買おうかな。机の上に置いておけば絶対に食いついてくるだろうし、何より鬼さんは無類のお菓子好きだからね。

(私が買い置きしたお菓子を半分以上、食べられた事により判明)


「水羊羹、食べるぞー!」

「おぉー!」


今日の帰りは少し遅くて楽しくなりそう。

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